IEとEC~賃金を考える観点
経営者や人事の責任者にとって、人事で考えなければならない重要な事項というと、まず採用・配置・昇進といった人材活用面でしょう。次に、目標設定や評価といったものも重要視されそうです。
賃金や給与といった事項は、労働法や税制・社会保険などの知識が求められることもあり、つい専門のスタッフや担当者任せになってしまうのではないでしょうか。
そこで、改めて、経営者や人事の責任者は賃金についてどのように考えればいいのか、見てみましょう。
現実に賃金や給与が問題となる状況というと、たとえば、会社全体の賃上げを検討しようとするときとか、経営幹部を中途採用しようとするときなどがイメージしやすいかもしれません。
社員全体の賃金を引き上げるにしても、人件費には限りがありますから、全員一律にそこそこの昇給させればいいのか、業績に貢献した社員には手厚く、普通の社員にはそれなりの配分を行って、ある程度のメリハリをもたせるべきでは、などと考えることになるでしょう。
また、外部から人材を採用しようとする場合、どの程度の金額をオファーすれば入社してくれるのか、別の会社で現に得ている賃金水準との比較が問題となりそうです。反対に自社の賃金水準が低いと、他社に引き抜かれるおそれもあります。
実は、賃金を考える基本的な観点は、いま申し上げたところに集約できます。つまり、社内でどのように賃金を支払うべきなのかという社内衡平性と、社外の賃金水準と比べて自社の水準をどのように設定すべきなのかという人材獲得における競争力です。前者をIE(internal equity)といい、後者をEC(external competitiveness)といいます。
さて、社内衡平性(IE)とは、言い換えれば、賃金を決定する要素と決定した後のバランスのことです。ただ、これらは、現実には明示されていないことが多いように思います。
どの企業でも、賃金規程・給与規定などに賃金表・給与テーブルなどは明示されており、賃金の構成要素も明文で決められているはずです。ここで言っているのは、それらを運用した後の実態こそが問題になるということです。
たとえば、大半の社員が新規学卒入社で、学歴や年次で同じように昇給している実態があれば、規定上能力給といっても職務給といっても名称に関係なく、それは年功序列といっていいでしょう。年功序列というのは、ルールや基準というよりも、社内的なバランスの一種を表現した言葉ともいえます。
ちなみに、一般社員より課長、課長より部長、部長より役員のほうが、賃金(報酬)が高いことが一般的といえそうですが、これも役職位が高いほうが賃金(報酬)も高いというバランスのひとつです。
もうひとつの賃金をみる観点は社外競争力(EC)です。
これは、採用時に労働市場において競争力があるかどうか、ということです。つまり、賃金(より広義には処遇水準全般)の面で人材を採用するのに問題がなければ競争力があることになります。また、現在いる社員が賃金(より広義には処遇水準全般)を理由に他社に転職していく(引き抜かれる)というようなことがあれば、十分な競争力はないと判断することになります。
この二つの要素は、相互に独立しているわけではありません。かなり密接に関連しているものです。
年功序列で役職位や賃金が決まっている実態があるところで、もし、社外から新たに経営幹部クラスの人材や新規事業メンバーをヘッドハンティングしたとします。こうした場合、往々にして生じるのは、外部から採用されたばかりの人たちの賃金が、同じ役職でもともと勤めている社員たちの賃金よりも高いという状況です。こうなると、誰が見てもバランスがとれません。
これは、社外競争力(EC)が十分ではなかったところに、その場しのぎで補正して例外的に高い賃金をオファーしたことで、社内衡平性(IE)が崩れてしまった例です。こうなってしまうと、早急に賃金体系を全面的に見直して、賃金制度・評価制度などを新しい事業環境に適応したものに作り変え、1日でも早く運用していかなければ、新たに採用された人たちも、元からいる社員たちも、互いにストレスにさらされ続けることになります。
同様のケースは、複数の会社が合併したり経営統合した時にも典型的に生じます。新会社として社内衡平性(IE)が問題となるのは無論のこと、人員削減などが噂されるだけで他社に移ろうかという人も出てきます。そこで、十分に競争力のある賃金水準であるかどうかは、必要な人材を引き留める上で最低限クリアすべき条件といえるでしょう。
特に経営者や人事の責任者の皆さんは、IE(社内衡平性)とEC(社外競争力)という二つの観点を、いつも頭の片隅に置いて人事に取り組んでいただきたいと思います。
作成・編集:人事戦略チーム(2015年2月27日更新)