さまざまなベンチャー企業の「人材・組織・働き方」をご紹介していくインタビューの第6弾。
今回は、先月正式に登記したばかりのXEVEN合同会社 代表社員(業務執行社員) 松田正明さんにお話を伺います。
― ようやく登記が済みましたね。
松田さん はい、当初の見込みより、けっこう時間がかかってしまいました。登記は先月でしたが、オフィスは以前から借りています。業務の実態としては、すでに走り出しています。
― XEVENという社名ですが。
松田さん 読み方は、ジーベンです。ギリシャ語でキセノン(XENON原子番号54)から採りました。形にとらわれずに、いい意味で常識にとらわれずにやっていこうという意味を込めて、社名にしました。
― どのような事業をされているのですか。
松田さん 現在は、ITの何でも屋といいますか、ハード面もソフト面もITに関することなら、幅広く対応させていただきます。
一口にITといっても、お客様からみれば、機器という意味でハードウエアもあれば、使うにはソフトウエアも必要です。使い方という点では、ITリテラシーも重要なポイントになります。そのほかにも、通信やらウェブやらクラウドやら、さまざまなものからITは構成されています。
― たとえば、ITのハード面というと、サーバーやパソコンとかプリンターなどですね。
松田さん そうです。システムや機器の故障やトラブルについて、出張サービスでも対応します。故障したパソコンでも、部品を調達して修理するくらいは、すぐに対応させていただきます。
お客様ご自身が一番触れる機会が多いのは、パソコンでしょう。これは外せません。パソコンやタブレットも予算や用途によって幅が広いので、適切なものを導入できるように、導入のアドバイスを行ったり、実際に販売したりすることもあります。もっとも、既存のパソコンを売るだけの小売店というよりも、オリジナルPCを販売する形をとっております。
販売以外にも、パソコンを廃棄する時のデータ削除などのサービスも行っております
― ソフト面というと、どのようなことでしょうか。
松田さん ウェブシステムの開発・運営、ウェブ広告の代理店などから、小規模なITシステムの開発受託、中小規模のオフィスにおけるIT最適化などです。
ハード面のサービスもそうですが、基本的には、ベンチャー企業や中小企業のお客様がITに関して困っていらっしゃることがあれば、まずご相談いただき、なんでも解決させていただく、というスタンスで事業をスタートさせました。
― 当事務所もすでに何度かIT関連の問題やトラブルでお世話になりまして、その節はありがとうございました。
松田さん 特にスタートアップのお客様は、起業にまつわる実務的な事項を多岐にわたって検討・導入されることと思います。その際に、アドバイスさせていただいたり、よりコストパフォーマンスのよい方法をご紹介させていただいたりしています。
たとえば、ウェブ広告への出稿、コーポレートサイトやECサイトの制作やデザイン支援、営業用の会社案内やパンフレットの作成、名刺の手配など、幅広く対応させて頂きます。こうしたものも、ちょっとした工夫で、意外とコストが違うものです。
― 登記や定款の作成なども、ご自身で対応されたのですね。
松田さん ネットで必要な資料を読みこんで、何とか対応しました。
弊社の場合、現物出資で会社設立を行ったため、一般的な説明資料だけでは詳細が分からず、けっこう苦労しました。そのため、時間もかかってしまいました。
また、法人の銀行口座を開設するのも骨が折れました。そのときの経験から、宣伝ツールや広告などの重要さを学ぶことができました。
こうした経験を体験談として、起業家同士、経営者同士として、お客様にお話しできるのも、弊社の特徴のひとつになれば、と思っています。
― 仕事の引き合いなどはいかがですか。
松田さん 会社設立や不動産賃貸など、ゼロからいろいろと調べながら事務所を借りて法人登記をするところまで来ました。その間も、仕事の引き合いは次々と来ています。
それらに、いかに対応して収益につなげていくか、1期目が勝負と思い、社員(株式会社でいうところの取締役)一同、頑張っています。
― 確か、もともとはSNS関連のサービスで起業されるつもりだったとお聞きしていた記憶がありますが。
松田さん そうです。当初はSNSの炎上対応・防止サービスを考えて、起業しようとしていました。従業員への教育や新規採用の応募者に関するサービスなどをサービスメニューとして考えています。
― 必要性はわかるのですが。
松田さん 会社や仕事という面からみた、SNSの使い方や怖さ、間違った使い方をしている際のリスクと想定される損害の程度などを、会社にも働く人にも注意を喚起する必要があるでしょう。
また、SNSやスマホにタブレットなど、便利であるがゆえに、その反面、忘れがちなリスクをコントロールできるような仕組みを設けたりして、トラブルを未然に防ぐことをお手伝いしたいと思っています。
(2015年11月1日掲載)
XEVEN合同会社 代表社員(業務執行社員) 松田正明さんにお話を伺う第2回は、就職と起業の関係について語っていただきます。
― ところで、どういう経緯で起業されたのですか。
松田さん 高校時代の同期の友人たちと話し合う中で、起業を考えるようになりました。
― 就職ということは、最初から頭にはなかった、ということですか。
松田さん いいえ、そんなことはありません。周囲の友人たちも就職活動をしていました。私も、実際、あるIT系企業の就職説明会に足を運びました。
― 理系の大学院修士課程で、ITを専門に勉強されていたわけですから、就職先に困ることはなかったと思うのですが。
松田さん まあ、ちゃんと就職活動をすれば、それなりの会社に就職することはできたかもしれません。
ただ、会社説明会に行ってみて「これは違うな」とはっきりと感じました。仮にその会社に入ったとしても、システム開発をずっとやり続けていくイメージは、まったく湧きませんでした。
― どういうことでしょうか。
松田さん 先輩の話を聞いても、SEとして仕事を頑張っていこうという気持ちにはなれませんでした。
まず、納期ありきの仕事ばかりのようでした。顧客がITに詳しくないせいか、急な改善事項や要望事項が出てきて、プロジェクトがとんでもないことになることも日常的にあるようです。
営業の仕事のとり方も問題が多いとか、いずれにしても、前向きな気持ちになれる要素があまりなかったのは事実です。実際に経験しているわけではない私が申し上げるのも僭越ですが。
― それがIT系の開発という仕事の現実とは思いますが。
松田さん こう申し上げては何ですが、そもそも見積工数がいい加減なのか、担当エンジニアのレベルがバラバラなのか、理由はいろいろあるのでしょう。それにしても、1人月かかるはずの案件が、1人で1週間で、でき上がってしまうこともあれば、1週間でできるはずのものが顧客の事情で1ヶ月もかかり、だからといって支払われる報酬は1週間分とか、ありえない話ばかりです。
― それでは、就職して仕事をしようという気持ちが萎えてしまいそうですね。
松田さん そうですが、それだけで就職を諦めたということではありません。
同じころ、大学は別々でしたが、高校時代の友人たちと集まって話し合う中で、自然と起業を考えるようになりました。
― 松田さんの周囲の学生というと、理系の方が多いですね。そういう方々は、いかがですか。割と起業される方がいらっしゃるわけですか。
松田さん そうですね、学生の頃からIT系の会社でアルバイトをしている者の中には、学部の3年生くらいには自分で会社を作って、卒業時には、その会社をアルバイト先に売却して自分は就職する者もいますし、本格的に起業の道を歩む者もいます。ただ、そうした人は、自分の周りでは1割程度ではなかったでしょうか。
― そうすると、大半の学生はやはり就職するということですか。
松田さん そうですね。ただ、なかには、就職も起業も、いずれもちゃんと考えていないまま、時間だけが過ぎて、どこにも就職できないという人もいました。
― 個人差が大きいですね。
松田さん ええ。個人差といえば、就職にせよ、起業にせよ、自分で考えて行動することが必要だと思うのですが、そこができない人はいますね。できる人は、自然と行動しているのですが、できない人は言っても難しいですね。
― 松田さんは、確か、一人息子とお聞きしましたが。
松田さん 両親には、ちゃんと整理して、理論武装をしたうえで、プレゼンというか、説明をしました。それで、納得というか、了解してもらいました。
― 身近に、事業とか商売とかをやっていらっしゃる方がいれば、理解してもらいやすいようですね。
松田さん 私の場合、父方の祖父が事業をやっていたということはあります。また、いっしょに起業した友人のなかには、実家がIT関係の事業を営んでいる者もいます。そういうことも、就職よりも起業を選んだことに影響しているかもしれません。
(2015年11月8日掲載)
大学院卒業からすぐに起業された松田正明さんにお話を伺う第3回は、立ち上げ中のXEVEN合同会社の現状についてです。
― いま現在、事業に取り組まれているスタンスを教えてください。
松田さん 顧客満足度100%を目指して、お客様の求める全てに応えるというのが目標であり、弊社のキャッチコピーです。
お客様が求めているものが実際はITではなかったとしても、橋渡しはできる訳です。できないからといってすぐに拒絶するということは、絶対に行わない会社にしたいと考えています。
― 特にベンチャーや中小企業では、そうしたスタンスで相談に乗ってもらわないと、困りますね。ところで、いま最も意識されているのは何でしょうか。
松田さん まずは、今期の決算を何とか黒字にしたいです。
そのためにも、社員(株式会社でいう取締役に相当)全員、ダブルワーク(なかにはトリプルワークの人も)で生活費は稼ぐことにして、XEVENからは無報酬でやっています。
― スタートアップとはそういうものでしょうけれど、忙しそうですね。
松田さん 私自身は、深夜までXEVENの仕事をして、そのまま早朝のアルバイトで生活費を稼ぐ、そういう毎日を過ごしています。
他の社員(株式会社でいう取締役に相当)も同様です。
営業担当は、夕方5時まで他社で仕事をしてから、XEVENの顧客開拓に出ています。ですから、夜はお客様の経営者の方々と飲み会で営業活動ということが、けっこうあります。もちろん、翌日の商談のために、夜中にプレゼン資料を作ったり、ということもあります。
― ダブルワークで営業となると、頭が混乱しそうですね。
松田さん 営業担当の力量があるのはいいことです。とはいえ、取れそうな仕事に全て対応できるだけの能力が、弊社に十分あるとはいえない状況です。なかなかバランスよく成長できるようには、なっていません。
なにしろ、飛び込み営業からテレアポから、根っからの営業なのでしょうか、次々にお客様を開拓していく行動力がありますから、案件は次々に出てきます。
― 通常は、技術や製品は素晴らしくても、営業力が弱いために、起業がなかなか軌道に乗らないケースが多いように思いますが、御社のような例は珍しいですね。
松田さん システム開発の案件は、お話をいただいてから、業務改善を提案したり、業務支援システムを検討したりなどして、最終的に開発が終了し報酬をいただくまで、どうしても時間がかかります。
まして、中規模程度の案件となると、提案書の作成までは弊社でも対応できますが、実際に開発するとなると単独では工数的にも難しいので、安易に受注するというわけにもいきません。
広告代理店の事業では、すでに地方でいくつか入札に参加させていただくなど、システム開発やITサポート以外の案件も順次、開拓しています。機器販売も含めて、比較的短い時間で限られた人員でも稼ぐことができるのは、経営上、助かります。
― 営業担当に限らず、ベンチャーですから、いちいち細かい指示や打ち合わせがなくても、一人ひとりが次々と案件を開発して、仕事を進めていくようでないと、会社が回っていきませんね。
松田さん いっしょに起業した友人のなかにも、自分で考えて動いてくれ、といっても、なかなかできない人もいます。それでは、スタートアップを成し遂げることは無理ですから、そういう人には社員(株式会社でいう取締役に相当)から降りてもらうしか、ありませんでした。
― 厳しい決断ですね。
松田さん まあ、そういうのが経営者の仕事なのでしょう。本人とも、ちゃんと話し合って、決めました。
― 友人同士といっても、経営の役割分担はきっちりと決めているわけですね。
松田さん 合議はします。最終決定は、代表である自分がします。
営業が得意な人には営業を、技術的なことが得意な人には開発を、という具合にそれぞれ分掌を決めていますし、基本的な事項は合議で検討します。
ベンチャーですから、そうして方針は決めますが、現場に出れば各人が決めるべきことを決めていきませんと、仕事は進みません。その結果を報告してくれればいいのです。
― 人材の採用という点はいかがですか。
松田さん 当面は、結構、厳しいです。人を雇用して給料を払うだけの責任を果たせる、とは自信をもって申し上げる段階には、まだ至っていません。
IT業界というのは、好不況の変動が激しい業界です。必要な時に必要なだけの人員で対応するというのが、原則です。
― 資金面は?
松田さん 余裕があるわけではありませんが、借入やVCを検討する予定はありません。資金調達で無理をするよりも、まずは、できる範囲で事業に取り組んでいこうと考えています。
(2015年11月15日掲載)
XEVEN合同会社 代表社員(業務執行社員)松田正明さんにお話を伺う最終回は、今後の事業を展望していただきます。
― 当面の目標というと?
松田さん 第1期の決算は、何とか黒字にしたいと思っています。
起業の狙いは狙いとして、一方では、事業として成立させていかなければなりません。まずは、ちゃんと稼ぐことが大事です。
― その先の見通しはいかがですか。
松田さん 最初の3年間は、法人として存続させたいです。できれば、5年後くらいには、創業メンバーが全員いなくても、法人として事業を継続していけるくらいには、組織的な成長を実現したいですね。
冗談ですが、「5年後には皆で釣り堀に行っても会社が回るようにしよう」と、社員(株式会社の取締役に相当)の間ではよく言っています。
― もう少し具体的なイメージは?
松田さん やはり、従業員を雇って給料を払っていけるようにしたいと思います。そのためには、会社としての仕組み作りや働くための環境整備などを、5年以内には、ひととおり仕上げておきたいと思っています。
― SNSの炎上対応・防止サービスの事業は?
松田さん もちろん、実現します。
現に、食品工場などからの引き合いをいただいています。アパレル、コンビニ、外食など、一定の人数が必要な業態で、しかも、働く人の入れ替わりがあると、SNSの使い方やBYODのルールなど、リスクマネジメントの観点から適切な仕組みや教育が必要な会社はたくさんあります。
こうした業界では、何もしなければ、若い人ほどSNSや自分のデバイスを使ってしまうので、気がついたら情報がネットに流出していることは十分に予測できます。それなのに、会社としてSNSの利用規約すらなかったり、個人所有のITツールに関する誓約書のひとつも提出されていなかったりなど、最低限のリスクマネジメント対策すら取られていないことも、けっこうあります。
― 事業の成長に、技術面を増強することも不可欠と思いますが。
松田さん なかなか面白いエンジニアを、といっても学生や院生ですが、社員(株式会社でいう取締役に相当)が連れてくることもあります。案件によっては、そういう人に手伝ってもらうことは想定しています。
できるだけ早い時期に、人材採用はやりたいとは思っています。いまから、焼き肉を囲んで、応募してきた人を見てみたいと考えています。
― 焼き肉?
松田さん いっしょに食事をすれば、やはり、その人の性格とか行動はわかりますし、採用プロセスにも、自分たちならではの仕掛けとか独自性をもちたいですね。
決まりきった採用プロセスでは、いっしょに成長していく人材かどうか、多分わからないでしょう。形よりも実態を見せてもらうには、焼き肉は最もその人らしさが出るのではないかと思います。
― これからの季節では、鍋ですか。
松田さん かもしれません。まあ、IT関連の会社といっても、すでに数多くありますから、事業分野や技術だけでなく、ビジネスへの考え方に始まり、採用とか組織運営とかの面でも、XEVENらしさを打ち出していきたいです。
― 自分たちならではの事業展開を実現されるには、さまざまな工夫が必要ですね。本日はお忙しいところ、お時間をいただき、どうもありがとうございました。
インタビューを終えて
以前であれば、松田さんのような理系(技術系)の人は、一度は会社勤めを経験して、ある程度の年齢になってから起業するというケースが多かったのではないかと思います。
学生から起業へとキャリアを歩む人が増えるほど、知名度の高い大手企業といえども、そもそも就職を希望してくる学生のなかに、自分でビジネスを組み立てて、事業計画をしっかりと実行していく能力や資質をもつ人が、見当たらないことになってしまいます。
そうだとすれば、新卒採用に労力をかける意味が失われているのかもしれません。日本企業の競争力は、こういう面からも低下しつつあるのではないでしょうか。
本当の意味での人材の獲得競争は、既存の企業と新興企業の間で争われるとともに、企業と個人の間でも争われていくとすれば、企業は何をもっていかに人材を引き付けることができるのか、という根本的な課題に挑戦しなければならない状況に追い込まれているのかもしれません。
(2015年11月22日掲載)
写真・構成・文章作成:行政書士井田道子事務所+QMS
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