起業したばかりで賃上げする?
ベンチャー企業、なかでもスタートアップの企業となると、世の中が賃上げといっても、どのように対応したらよいのか、なかなか決めかねることかもしれません。
たとえば、一般財団法人 労務行政研究所の調査(2014年11月5日発表)によりますと、2014年度は95.9%の企業が定期昇給を実施し、ベースアップは45.9%の企業が実施したと回答しています。
この調査は、上場企業(新興市場を含む)及び資本金5億円以上かつ従業員500人以上の非上場企業を対象として行われています。中小規模の企業やベンチャー企業も、新興市場などに上場していれば調査対象に含まれてはいますが、創業してからあまり経っていない企業にとっては、参考とはなりにくいかもしれません。
次に、㈱帝国データバンクの調査(2015年1月実施「2015年度の賃金動向に関する企業の意識調査」)によりますと、2015年度に賃金改善(ベースアップや賞与の増額により賃金が上昇することであって、定期昇給は含めない)を実施する見込みがある企業は48.3%、ベースアップを実施する見込みのある企業は36.7%となっています。
この調査は約8割の企業が中小企業、約4分の1が小規模企業となっていますから、スタートアップの企業にとっても参考になるかもしれません。
小規模企業に限ってみると、賃金改善を見込む企業は43.5%となっています。一方で、賃金改善を見込んでいない企業も34.8%となって規模別では最も高い数字を示しています。やはり、小規模企業にとって、賃上げは容易でないことを窺わせます。
実際、スタートアップの企業にとっては、売上をいかに立てていくかとか、市場に出す製品やサービスをいかに作り上げていくか、といった人事以前に取り組まなければならない課題が山積しているでしょう。それらの課題を解決するのに、ある程度、目途がついているとしても、賃上げよりも、まずは人材の確保(採用・定着)が経営課題ということが多いものと思われます。
もし、スタートアップの企業が賃上げを検討するのであれば、昇給額や昇給率よりも、賃上げや評価といった人事そのものをどのように行っていくのか、その基本的な考えや決めるプロセスをはっきりさせておくことのほうが重要かもしれません。仮に賃上げに多少の問題があったとしても、後日、人事の運用で対応できる程度の問題であることが大半でしょう。
たとえば、小規模であれば、社員ひとりひとりの評価や賃金を会社全体で話し合って決定することも十分可能です。そこまでオープンではなくても、個人の評価結果や昇給シミュレーションは社員であれば誰もがアクセスできる企業もあります。採用プロセスに人事担当以外の社員も関与させて、いっしょに働くことになる社員たちと入社前から一体感を持たせるといった工夫をするケースもあります。
ただし、人事に関する情報はすべて個人情報ですから基本的には会社に守秘義務のある情報です。したがって、人事の運用をオープンに行うには、事前に社員ひとりひとりの同意が必要です。
起業に成功し順調に業容を拡大できた企業ほど、規模が大きくなり社員どうし顔や名前が分からないようになってしまいがちです。そうなると、ルールや制度は当然公開しますが、社員個人の個別の人事については、社員ひとりひとりが直接関与することなく会社が決めて、非公開情報として取り扱うことになるケースが圧倒的に多いでしょう。
スタートアップの企業では、始めから一般の企業のように、非公開の人事運用とするのか、当面はオープンな人事運用とするのか、こうした基本的な方針を確立しておくことが肝要です。賃上げは、それからでも遅くはないと言えそうです。
作成・編集:調査研究チーム(2015年2月24日更新)