レンジマトリクス方式による賃金管理とは(5)

レンジマトリクス方式による賃金管理とは(5)

 

(4)より続く

 

以上、ご紹介してきたレンジマトリクス方式は、これまで述べてきたような形式に拘る必要はありません。

たとえば、職能給や資格給などでよく見られる資格等級別の号俸表であっても、レンジマトリクスと同様の効果を意図して、設計・運用することは可能です。

資格等級別に賃金の上限と下限を定め、その間で昇給ピッチを徐々に逓減させることで、実質的に表2と同じような効果が期待できる賃金表が作成できます。それを、段階号俸表の形式で表現したものを例示します(表7)。

 

 

7:表2の段階号俸表の例

号俸

金額(円)

昇給ピッチ

0

310,000

 

1

313,550

3,550

2

317,100

3,550

3

320,650

3,550

4

324,200

3,550

5

327,750

3,550

6

330,198

2,448

7

332,646

2,448

8

335,094

2,448

9

337,542

2,448

10

339,990

2,448

11

341,862

1,872

12

343,734

1,872

13

345,606

1,872

14

347,478

1,872

15

349,350

1,872

16

350,646

1,296

17

351,942

1,296

18

353,238

1,296

19

354,534

1,296

20

355,830

1,296

21

356,982

1,152

22

358,134

1,152

23

359,286

1,152

24

360,438

1,152

25

361,590

1,152

26

362,742

1,152

27

363,894

1,152

28

365,046

1,152

29

366,198

1,152

30

367,350

1,152

31

368,358

1,008

32

369,366

1,008

33

370,374

1,008

34

371,382

1,008

35

372,390

1,008

36

373,398

1,008

37

374,406

1,008

38

375,414

1,008

39

376,422

1,008

40

377,430

1,008

41

378,294

864

42

379,158

864

43

380,022

864

44

380,886

864

45

381,750

864

46

382,614

864

47

383,478

864

48

384,342

864

49

385,206

864

50

386,070

864

51

386,646

576

52

387,222

576

53

387,798

576

54

388,374

576

55

388,950

576

56

389,526

576

57

390,102

576

58

390,678

576

59

391,254

576

60

391,830

576

61

392,262

432

62

392,694

432

63

393,126

432

64

393,558

432

65

393,990

432

66

394,422

432

67

394,854

432

68

395,286

432

69

395,718

432

70

396,150

432

71

396,438

288

72

396,726

288

73

397,014

288

74

397,302

288

75

397,590

288

76

397,878

288

77

398,166

288

78

398,454

288

79

398,742

288

80

399,030

288

81

399,174

144

82

399,318

144

83

399,462

144

84

399,606

144

85

399,750

144

86

399,894

144

87

400,038

144

88

400,182

144

89

400,326

144

90

400,470

144

赤数字は表1のバンドの近似値を示す

 

 

この表において、B(標準)の昇給考課のときは5段階上がります(表中では下に移動)。したがって、実際の昇給額は昇級ピッチ5段階分となります。

昇給考課の結果により、Sでは10段階、Aでは7段階、Cでは3段階、Dでは1段階、それぞれ上がります。それらの結果により昇給スピードが異なります。この例では90号俸まであるので、標準的には14回の考課まで(つまりは14年間)昇給できる余裕があります。

7の右の「昇給ピッチ」をみればわかるように、1号俸の差は号俸が小さいほど多く昇給し、号俸が大きいほど昇給は少なくなるようになっています。これにより、レンジマトリクス方式に近い効果を実現しています。

もちろん、号俸表そのものが昇給の累積を前提とした仕組みなので、マイナス昇給は運用ルールとしてはなじまないかもしれません。ただし、昇給ゼロ(降給もしない)ということは、例えばD考課の時に限り適用することは、不可能ではありません。

90号俸という上限に到達してしまった場合は、この資格等級から上に昇格昇級しない限り、昇給は適用されないことになります。言い換えれば、ゼロ号俸からスタートした人が標準的な考課を取り続けているのであれば、遅くとも14年の間の内に昇格昇級するか、または昇給モデル上は定年年齢に達することが、制度的に予定されています。

 

次に、号俸表を複数賃率表に展開した例を、表8にご紹介します。

 

 

8:表2の複数賃率表の例

号俸

 

 

昇給考課

 

 

 

B(標準)

0

310,000

1

310,000

318,875

327,750

336,625

345,500

2

327,750

333,785

339,820

345,855

351,890

3

339,820

344,435

349,050

353,665

358,280

4

349,050

352,600

356,150

359,700

363,250

5

356,150

359,345

362,540

365,735

368,930

6

362,540

365,380

368,220

371,060

373,900

7

368,220

370,705

373,190

375,675

378,160

8

373,190

375,320

377,450

379,580

381,710

9

377,450

379,225

381,000

382,775

384,550

10

381,000

382,420

383,840

385,260

386,680

11

383,840

384,905

385,970

387,035

388,100

12

385,970

387,035

388,100

389,165

390,230

13

388,100

389,165

390,230

391,295

392,360

14

390,230

391,295

392,360

393,425

394,490

15

392,360

393,425

394,490

395,555

396,620

16

394,490

395,023

395,555

396,088

396,620

17

395,555

396,088

396,620

397,153

397,685

18

396,620

397,153

397,685

398,218

398,750

19

397,685

398,218

398,750

399,283

399,815

20

398,750

399,283

399,815

400,348

400,880

赤数字は表1のバンドの近似値を示す

 

 

この表は次のように運用されます。

まず、基本的に毎年1号俸、B考課をとったものと仮定して上がります。その際に、昇給考課によりDからSまでの5種類の金額のいずれかが適用されることになります。Sは標準的な昇給額の2倍、Aは1.5倍、Cは0.5倍、Dは0 倍(前年のB考課と同じ)として、それぞれ金額が設定されています。

翌年は、前年の考課結果に関係なく、また1号俸上がり、翌年の考課結果に応じて5種類の金額のいずれかが適用させることになります。

たとえば、1年目の考課がA、2年目がC,3年目がA,4年目がCというようにAとCを隔年でとったとしましょう。すると、0号俸310,000円からスタートする金額は、1号俸A336,625円、2号俸C333,785円、3号俸A353,665円、4号俸C352,600円、5号俸A365,735円、6号俸C365,380円…となります。

このように、昇給考課の結果が2段階下がると翌年はマイナス昇給となることもある(反対に2段階上がれば相応の大きな昇給となる)のが、複数賃率表の特徴です。

同じ考課をとり続けると、号俸が進むほど昇給額も昇給率も逓減しますが、上限(20号俸)に達するまでは昇給が続きます。ここでは20号俸(昇給考課20回分)まで設定していますから、ゼロ号俸からスタートした人は、原則として20年間は昇給があることになります。その間に、昇格昇級するか、定年退職の年齢に達することのいずれかが、制度的に想定されているわけです。

 

以上をまとめてみると、定期昇給やベースアップなどを実施するのに際して、通常、企業は限られた昇給原資を効率的に活用するために、昇給考課の結果を適確に反映させて個別の賃金改定を行うことになります。そのための方法の一つがレンジマトリクス方式になります。

オーソドックスな号俸表を用いているとしても、同様の発想で、もともと金額が小さい方に優先的に原資を回すことが可能な仕組みもあります。それが表7や表8に例示したものです。

ここでは、いわゆる正社員の賃金について見てきましたが、同じようなやり方は非正規社員の賃金についても適用・応用することができます。金額表示を月額(月例給)ではなく、時給で表示すればパートタイマーやアルバイトの賃金管理に用いることもできます。同じ月額でも、金額自体を適切に見直せば、契約社員や嘱託社員など月額が決まっているような社員についても、同様の発想をもった賃金制度を設計・運用することが可能となります。

 

作成・編集:人事戦略チーム(201543日更新)