入社式の訓示に注目!(前)
4月は、入学式や入社式でトップに立つ人がスピーチをする機会を多く目にします。今年は、東大の卒業式や信州大の入学式の式辞が注目を集めましたが、入社式の社長訓示にも注目してみたいものです。
そこで、入社式で社長が新入社員を前にして述べた訓示や挨拶などを読んでみると、今年(も)さほど世間の注目を集めるようなスピーチにお目にかかることはあまりないようでした。むしろ、第三者が見れば残念としかいいようのないスピーチが目につくのが実情です。
まず、話の構成が似たり寄ったりです。入社式訓示マニュアルとか例文集などもありますから、似てくるのは仕方がないのかもしれません。ただ、聞いている新入社員に何か伝えたいものがあるのかどうか、不安になります。
よくありがちな流れは、入社の祝辞、外部環境の説明、自社の概要説明(事業内容、経営課題、経営計画など)、経営理念や社是社訓の紹介、創業者の言葉などの紹介、期待する人材像の説明、締めの言葉、といったものです。実際の訓示や挨拶は、これらの中のいくつかの要素で組み立てられているものが多いように思われます。
ここで注意したいのは、いずれもホームページや会社案内に書いてある程度のことなので、さすがに新入社員でも既に知っているのではないでしょうか。それを改めて訓示として言われても、いかがなものでしょうか。
期待したい人材像あたりは、聞いた新入社員がピンとくる具体的な要素があればいいのですが、そこまでわかりやすくて踏み込んだ内容のものは、少ないようです。
そもそも、期待したい人材像を新入社員にいきなり提示するのはどうでしょうか。新入社員とは、そういう人材になっていくであろうという期待を込めて採用したはずの人たちです。非正規雇用の社員や中途採用で即戦力として採った社員ではないのですから、そうでなければ、新卒定期採用の採用基準がおかしいことになります。
改めて期待したい人材像はこうですと示されても、新入社員からすれば「そういう人材により近いから採用されたのでは?」ということにしかならないでしょう。
最も残念なのは、会社名がなければ、どこの会社の社長が語ったのかわからなくなってしまうものです。あまりにも一般的な話ばかりで、その社長、その会社の個性や特徴がまったく見えてこないのです。
実際、ある同じ業界3社の新入社員への訓示の要旨を、会社名を記号に置き換えてみたところ、当事務所の関係者では区別がつかないケースがありました。これでは笑うに笑えない話です。
先日、ある個人投資家の方にこの話をしたところ、一言。
「入社式?訓示?そんなことをやる金と時間があったら、さっさと現場に出して稼がせれば。だいたい、この程度の訓示しか出せない社長の会社には、とても投資できないよね。」
この方によれば、アニュアルレポートやホームページにある経営者の挨拶や年頭所感などとともに、新製品発表会や入社式などにおけるプレゼンテーションや公式なコメントなど、経営者が会社を代表して述べている言葉をチェックすれば、その会社のカルチャーや事業の動向はもとより、経営者の表現能力を通して会社の能力そのものまでもが、ある程度は把握できるそうです。
入社式の訓示をホームページなどで公開している企業もありますし、入社式にメディアを招いて取材をさせている企業もあります。オープンなのは結構ですが、入社式の訓示ひとつとっても、厳しい外部評価に晒されていることも忘れてはなりません。
作成・編集:経営支援チーム(2015年4月9日更新)