入社式の訓示に注目!(後)
さて、今年の入社式で行われた訓示や挨拶のなかで頻出したキーワードをいくつかピックアップして、ご紹介してみましょう。
どこにでも見られるのが“グローバル”です。
いまどき、グローバルな視点をもたずに活動する組織があるとは思えません。よく言われることですが、最もグローバルにならなければならないのは、日本の本社です。製品やサービスのスペック(ガラパゴス化)、実際に働いている人の多様性、職場の慣行や風土など、いずれの面からみてもグローバル化しているとは、とてもいえない状況にあるでしょう。
もしかすると、新入社員くらいはグローバルな人材と呼べるようになってほしい、という経営者の切実な願望の表れかもしれません。
グローバルと同じくらい頻繁に顔を出していたのが、“コミュニケーション”です。
部外者の勝手な想像ですが、入社式訓示の例文集(マニュアル本)か過去の訓示に則ってスタッフが作成したとしか思えないもので、いかにコミュニケーションの重要さを説いても、当の新入社員の心にはなかなか届かないのではないでしょうか。
いっそのこと、入社式を止めて、メールか映像で一人ひとりに配布したほうが、より効果的かもしれません。本当に大事だと思えば、新入社員各人が繰り返し、読んだり見たりすることもできますから、通り一遍、ありきたりなことを話すよりも浸透度は高くなりそうです。
働き方として“チームプレイ”や“プロフェッショナル”という単語もよく見られます。これも不変の真理といってもいいほど、古くから言われ続けているようです。実際、過去30年以上は言われてきたことだそうです。
仕事が社内外の人々とチームを組んで進めるものであることも、仕事をするうえで専門性や結果への責任が問われるということも、当たり前といえば当たり前です。それらを相変わらず言い続けなければならないとしたら、新入社員に問題があるというよりも、やはりその企業の組織運営や人材マネジメントにこそ、問題があるというべきではないでしょうか。
また、パッション(情熱)をもって仕事に取り組んで欲しいとか、何事も諦めないで頑張れとか、不撓不屈で目標に挑戦することを望むといったものもよく出てくる表現です。
確かに、「不撓不屈の精神で仕事に取り組んでいるか」と問われれば、なかなかイエスと答えられる人はいないと思います。とはいえ、希望する会社に入ったばかりの新入社員が、始めからいい加減な気持ちで仕事に向き合うとは思えません。実際は、やる気が空回りするとか、周囲の言動がやる気をそぐなど悪影響を及ぼす、といったことのほうが問題ではないでしょうか。
さらに“イノベーション”や“挑戦(する勇気)”、“革新”や“変化”といったキーワードも数多く見受けられます。
考えてみれば、昨日まで学生という企業外の存在だった人が新入社員として企業組織に加わってくるわけですから、いままでやったことがない「仕事」に挑戦するのは当然です。そうした異分子を受け入れて戦力化するように「変化」を迫られているのは、企業組織のほうでしょう。
昨日までの学生が今日は既存の社員と同じになるという意味での「変化」を求めている企業は、さすがに少ないと思います。
一方で、“下積み”の仕事からスタートして、周囲の人々やお客様から“信頼”を得られるように、“地道に努力”してほしいという内容の表現も、割とよく見受けられます。“自立”や“自律”、“当事者意識”といったキーワードも、意識して実行してほしいこととして挙げられることが多いようです。
“自立”というのは、たとえば「社会人なのだから、もう親御さんの世話にはなるな」ということでしょうか。“自律”とは「言われなくても自己管理ができる人間になれ」という感じでしょうか。“当事者意識”は「これは自分の仕事ではない」とセクショナリズムに陥って問題を放置してしまいがちな、役員や管理職など先輩の社員たちにこそ向けられるべき言葉ではないでしょうか。
改めて、こうして見てみると、入社式で訓辞を垂れる対象は新入社員というよりも、既にいる社員ではないかと訝られます。新入社員にできてほしいことを、先輩社員はできているはずだ、と強く念を押しているように感じられます。もし、そうでなければ、経営者がわざわざ当然のことを相変わらず語る必要性がありません。
それでは、本来、新入社員に対して語るべきことは何でしょうか。
その答えは、ひとつではないでしょう。会社によって、ビジネスの状況によって、さまざまに異なるのが自然です。その結果、たまたま同じような表現が多くの会社で語られることもあるでしょう。
重要なのは、何を語るにしても、経営者が自分の言葉で語ることではないでしょうか。
もちろん、表現の巧拙はありますし、経営者だからといって誰もがTEDのプレゼンテーション並みに力強く語ることができるわけでもありません。だからこそ、必要とあればプロの力を借りてでも、新入社員の心に届くような訓示をするべきでしょう。
少なくとも、経営者の考えを的確に理解したうえで、それを簡潔に表現できるスピーチライター(コピーライターや構成作家といった肩書の人かもしれません)や、言葉だけでなく映像や音響効果なども駆使して伝えたいコンセプトを表現できるイベント・プロデューサーなど、表現のプロの力を活用することが求められそうです。
わずか数分の挨拶や訓示であっても、そこに注力して、聞いている人々(新入社員)の心に届く言葉やイメージを伝える経営者であっていただきたいものです。
作成・編集:経営支援チーム(2015年4月10日更新)