ひとり人事委員会(3)

ひとり人事委員会(3)

 

(2)より続く

 

次に、社員のランキングを報酬と比較します。

 

縦軸に人材の価値のランキング、横軸に報酬額のランキングをとって、2次元のマトリクスを作成してみましょう。

 

その結果、人材価値のランキングと報酬額のランキングの間に正の相関関係が概ね見られれば、報酬が価値を表示するツールとなっているといえます。反対に、負の相関がみられたり、これといった相関関係が見られないのであれば、そこに人事上の課題があることになります。

なお、報酬額は雇用区分によって支給方法も支給額も大きく異なるので、ちょっとした数字の加工が必要です。たとえば、標準的な勤務日数で換算した年収を算出して報酬額とするとか、または、各人の標準的な月間労働時間数で月収(固定的な賞与がある場合はその年間支給額を12で除した金額も加えたもの)を割って算出した標準時間給を報酬額とするか、いずれにしろ何らかの方法で標準化した報酬額により、この比較を行います。

 

ここでのポイントは、経営判断としての人材価値と、報酬という形で表現されている社員の価値は、もともと異なる基準で決めているものであることを、まず思い出しましょう。

よく起こりがちなのは、経営として必要な人材を検討しているのか、報酬とのバランスを議論しているのか、異なる軸の議論をいっしょにしてしまい、話が混乱してしまうことです。経営トップ自身の頭の整理に、こうして検討する場を改めて設けることが必要かもしれません。

異なる基準で定めるとはいっても、企業経営上許容できる範囲がありますから、問題が全般的にあれば、報酬制度を早急に見直すことが求められます。個別対応で処理できる程度であれば、特別ボーナスの支給とか臨時の昇進・昇給などを検討することになります。

 

さて、本来の人事委員会であれば、現時点、1年後、3年後というように時間軸を定めて、それぞれの幹部社員およびその候補者について、それぞれの代替可能性や昇進可能性を検討し、いわゆるサクセッション・プラン(後継者計画)を策定していくことになります。

そのために、各種の経営幹部向けの研修プログラムを実施するのに加えて、360度評価やアクション・ラーニングなど、多面的に個々の対象者を評価する機会を設けます。さらに、戦略的配置転換やミッション・チャレンジなど対象者の能力をストレッチする機会を通じて、経営幹部の計画的な育成を図ります。

 

中小規模の企業やベンチャー・ビジネスでも、同様のアプローチで事業の核となる人材を計画的に育成できれば、それに越したことはありません。

そこで、経営トップが果たしている役割も含めて、いくつかの経営上重要な役割を棚卸して、それぞれの役割を現に果たしている人と、現時点で実際に代替可能な選択肢を記入してみましょう。役割もカードに書いて、個人名の記入されているカードと突き合わせてみてもいいでしょう。

 

試しにやってみると、多分、空欄が多くなったり、適当な人が見つからない役割カードだらけになったりするでしょう。

こうした結果が、強化すべき人材に他なりません。経営トップとしては、これらの空欄や空きカードを埋めるために、無理を承知で今いる人の中から誰かを抜擢するとか、時間はかかりますが社外から人材を確保できるように中途採用に注力するとか、次の3か月の打ち手を決めて、すぐに実行しなければなりません。

 

ひとり人事委員会のような手法は、ベンチャーや中小企業の経営者にとって有力なだけではありません。

大手企業でも、事業部門の管理職や役員にとって、自分の担当する部門を一つの企業と考えれば、まったく同じことが実行可能です。報酬などの人事情報などは入手できないかもしれませんが、人事評価の結果などから独立して、個々の社員の価値を自分なりに判断しておくことは、組織を運営し事業を推進する上で、いずれにせよ、避けて通ることはできないでしょう。

 

作成・編集:経営支援チーム(201578日更新)