一年の計は元旦にあり(前)
ことわざに「一年の計は元旦にあり」といいます。今年も、正月三が日に今年の目標を立てた方も多いと思います。
目標を立てるにあたって、「やりたいこと」「できること」「やるべきこと」の3つの要素を考えてみてはいかがでしょうか。
まず、「やりたいこと」です。
これは、実現可能性などは無視して、願望やビジョンを表現したものです。ベンチャーであれば、この内容は明らかであるはずです。
たとえば、グーグル(現アルファベット)では「世界中の情報を整理して使えるようにする」(注1)というビジョンが有名です。このように、起業の志そのものがビジョンでしょう。
スタートアップのベンチャーにとっては、具体的な製品やサービスを事業化するのが当面の目標でしょう。そこでは、「やりたいこと」は具体的な製品やサービスをどこまで市場化するか、ということになるかもしれません。
創業間もない時期であれば、「やりたいこと」の具体的な内容と起業の志とは、あまり乖離していないものと思われます。しかし、創業から2~3年も経てば、事業化(および早期の黒字化)の目標が本来のビジョンにとって替わり、「やりたいこと」と「やるべきこと」の混同が生じやすい点に注意しておきたいものです。
もうひとつ注意したいのは、「やりたいこと」がホンネで言い切ることができるものであるかどうか、という点です。
「やりたいこと」は、口当たりのいい表現で、もっともらしいビジョンを語ることではありません。特に、自ら起業したり、新しい事業を担当しようとしたりしている場合には、ビジョンから具体的な製品やサービス、さらに個別の打ち手のレベルにまで、ホンネの連鎖が望まれます。
「やりたいこと」を語ると、聞いている人が思わず引き込まれていっしょにやりたくなるとか、反対に非現実的だと思って、できるわけがないと嘲笑するとか、何らかの強い感情を伴った反応がないのであれば、ホンネを語っていると受け止められることはないでしょう。
いっそのこと、大金持ちになりたい、というほうがましかもしれません。聞いている人が呆れるか、実に正直な人だと思うか、反応は人さまざまですが、聞いている人が何の反応も示さないよりは、ましです。
次に、「できること」です。
これは、いま現在、すぐに実行可能なことです。ビジネスでいえば、ヒト・モノ・カネ・情報など、活用可能な経営資源を用いて実際に実行できることです。
ベンチャー、なかでもスタートアップでは、通常は、ないものねだりになりがちです。ここでは、いま現にある資源で何が可能か、を明らかにして、まずはリストアップしてみましょう。
もちろん、「できること」は資源の制約などで、思うようにならないことばかりかもしれません。「できること」と「やりたいこと」には大きなギャップがあるでしょう。そこから、調達すべき資源とその調達手段を組み立てることで、今年、まず何から手をつけるべきか、明らかになるはずです。
もし、人材が不足しているというのであれば、最も必要とする人材を絞り込んで、その調達に向けた活動(採用だけでなく人材確保を目的としたM&Aなども含む)に着手すべきでしょう。
また、事業資金が足りないというのであれば、その調達方法を考えて取り組むことを優先すべきでしょう。一般の金融機関にせよ、VCにせよ、公的機関にせよ、資金調達先をきちんと納得させることができる、事業計画を組み立てているかどうか、まずは見直すことが必要かもしれません。
こうした目標の延長線上に「やりたいこと」がつながってくれば、ビジョンと今年の目標がうまく整合性が取れていることになります。もし、そうでないとすると、「今すぐにできること」「今はまだできないこと」「早急にできるようにすべきこと」の区分けから、見直さなければならないかもしれません。
最後に、「やるべきこと」です。
実際に会社を設立して事業を立ち上げてみると、資金の問題や人材採用、製品開発に営業開拓と、やるべきことは次から次へと出てきます。そうこうしているうちに、毎月の給与の振込もあれば、請求書の処理など事務的なこともこなさなくてはなりません。そして、すぐに決算やら税務申告やらの時期を迎えてしまいます。
こうした経営管理にまつわる作業は、クラウドサービスなどを活用したり社外専門家に委ねたりして、すべてを自社内で取り扱うわけではありません。しかし、起業家や経営者にとっては、けっこうな手間と時間を取られることも事実です。
さらに、最大の「やるべきこと」は、事業の黒字化ということも多いのではないでしょうか。起業してから一定の年数は経っていなくても、事業計画に則って黒字化することは不可欠です。とはいえ、そのために事業本来の目的(言い換えればビジョンといってもいいでしょう)を見失っては、元も子もなくなります。
つまり、「やるべきこと」に振り回されずに、目先の稼ぎに汲々となることなく、「やりたいこと」に取り組んでいるかどうか、その実行・実現に向けて「できること」がある程度は揃っているかどうか、こうした点が今年の目標に含まれていることが望まれるでしょう。
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作成・編集:経営支援チーム(2016年1月4日更新)