マービン・ミンスキーの訃報、AIが囲碁でプロに勝利、次は……
今週、AI(人工知能)研究のパイオニアで、MITメディアラボを立ち上げたマービン・ミンスキーが22日に死去した、とのニュースがありました(注1)。
ご存知の方も多いと思いますが、マービン・ミンスキーは1959年にMIT人工知能研究所を立ち上げて、ニューラルネットワークやロボティクスなどの研究を推進しました。
また、「心の社会(原題:The Society of Mind)」(1990年、安西雄一郎訳、産業図書刊)」では、脳(脳細胞や神経細胞)が心(知能や常識といったものをもつもの)となる仮説的なメカニズムを、“エージェント”や“インタラクティブ”といった概念を用いて、一般の人にも理解できるように説明した本もあります(注2)。
ところで、27日には、イギリスの科学雑誌Natureの電子版に、AIとプロの囲碁棋士が対局して、AIが5戦5勝という結果を挙げたことが公表されました(注3)。
ミンスキーもアドバイザーとして参画した映画「2001年宇宙の旅」には、HAL9000(宇宙船全体を管理するAI)が人間とチェスを指すシーンがあります。
これが現実のものとなったのが、1996年のIBMのDeep Blueとガルリ・カスパロフとの対戦です。1968年の映画の公開から、実に30年近い時間がかかっていました。
ちなみに、HAL9000は、SF映画上の設定ですが、極めて汎用性が高く、人間との日常的なコミュニケーションも問題なく行うことができるものとして描かれています。それに対して、Deep Blueはチェス専用のコンピューターとして開発されたもので、実用性よりもチェスのチャンピオンであるカスパロフに勝つことをターゲットとして開発されたものです。
チェス用のAIと呼べるDeep Blueから20年ほどで、まだまだ実用的なレベルでは実現が難しいと思われていた囲碁でも、とうとうAIがプロ棋士に勝つレベルにまで、その能力・性能を高めてきたわけです。
20世紀後半が、AIを研究して基礎的な開発を行う時期であったとすれば、21世紀前半は、AIが本格的に実用化される時期に差し掛かっているようです。
晩年のミンスキーは、近年の人工知能開発に批判的なところもあったようです(注4)。特にエキスパート・システムのような、特定の分野やテーマに特化したものより、もっと人間の日常に近いもの(3歳の子供でもわかる常識を自律的に習得して活用するもの)に対応できるAIを開発すべきだ、と考えていたようです。
日本ではPepperが実用的になってきていますが、これからの5年、10年で、どこまでAIが私たちの生活やビジネスに普及していくのでしょうか。
たとえば、IBMのワトソンなど、すでに幅広く活用されて、それなりの結果を出しつつあるAIもあります。また、これまでのAIに関する知見をもとに、特定の分野や業務処理においては、既に多くのAIやロボットが使われるようになっています。
特にビジネスにおいては、マシン・ラーニングやディープ・ラーニングがクラウド・ベースで実用化されつつあります。このまま開発が進んでいけば、「月額1万円で使い放題」というようなプランが出てくるのも時間の問題でしょう。そうなると、個人が趣味でちょっとしたAIを作って楽しんだり、個人事務所や中小企業でも手軽にAIをパートナーとして仕事を進めたりするのが、当たり前になりそうです。
問題は、そうしたサービスを提供するのが、やはりグーグル(現アルファベット)なのか、追随しようとするライバルたちなのか、それとも今はまだ名も知られていない(そもそも存在していないかもしれない)ベンチャー企業なのか、きっと、数年のうちに答えが出ていることでしょう。
【注1】詳しくは以下の記事を参照してください。
「人工知能研究の大家、マービン・ミンスキー氏が死去」
IT media ニュース 1月26日配信
「『人工知能の父』マービン・ミンスキー氏が88歳で死去」
ロイター 1月27日配信
【注2】「心の社会」の概要については、たとえば「松岡正剛の千夜千冊」第452夜を参照してください。
【注3】詳しくは以下の記事を参照してください。
「Googleの囲碁ソフトがプロ棋士に初勝利 アマチュアレベルからの飛躍的な進歩に驚きの声」
ねとらぼ 1月26日配信
「囲碁でプロ棋士に初勝利=グーグル、コンピューターで」
時事通信 1月28日配信
「プロ棋士に勝ったGoogle人工知能のすごさ」
Buzz Feed Japan 1月29日配信
【注4】 Wired.jp 2003年5月15日のインタビュー記事を参照してください。
作成・編集:QMS代表 井田修(2016年1月29日更新)