ゴミだらけの職場(3)
職場の掃除や整理整頓を日常の習慣にしていくには、①リーダーが率先垂範する、②下士官的なキャラクターの人が他の社員の尻を叩き続ける、というもの以外にも、いくつかのやり方があります。
③ゲームの要素をもった仕組みで動かす
④公式化・ルール化して強制する
⑤外部業者に全面的に任せる
「他にも手段はあります。たとえば、整理整頓ができていないことで問題を起こした人に“だめだめ(NG)”シールを張るとか、掃除をしてくれた人に“Thank You”カードを贈るとか、ちょっとしたことでいいので、お互いにフィードバックし合うのはいかがですか?」
「カードを贈るんですか? 社員同士で?」
「良いことでも悪いことでも、何か気がついたことがあれば、そのことを本人にゲーム感覚でフィードバックする仕組みを運用するのです。いかがですか、社長のところでも軽い感じでトライされては?」
「軽い感じでといってもねえ、社員のレベルというか、価値観みたいなものが、あまり統一感がないのも事実だからねえ……将来的にはやってみたいとは思うが、今すぐには、ちょっと……」
こうした、社員同士の相互チャックとかピア・レビューは、社員一人ひとりがある程度は自己管理できるレベルで、揃っていることが重要かもしれません。
はっきりと自己管理ができている人と、そうでない人に二分されるくらいならいいのですが、個々の社員が職場環境に対してもっているイメージがバラバラであると、特定の社員を攻撃したり、我関せずといった社員が出てきたりして、却って職場が荒れるようになってしまいがちです。特に、中途採用者が多いほど、前職での職場イメージを現在の職場に持ち込んでしまい、ゲームのルールやその解釈で混乱してしまう虞があります。
「そうですか。ちなみに、最も普通のやりかたは、当番を決めて週1回掃除をするとか、年末の大掃除みたいに、毎月1回、日時を決めて無駄なものを一斉に廃棄するとか、原則として社内では紙は一切使用しない(社内の打ち合わせなどは完全ペーパーレスにする)とか、ある種のルールを決めて、半ば強制的に実行するものです。」
「それでうまく行くかな?」
「現実には、ルールが無視されるか、ルールを守らないとペナルティを課すことでギスギスした感じになるか、あまりうまくは行かないでしょう。こういうのは、当事者である社員のほうから、こういうルールでやりたい、といってくるようでないと、難しいですね。」
「そうだろうね…最後は業者任せか…しかし、経費的にそんな余裕はないなあ。」
「業者任せは、止めたほうがいいですよ。大企業ならともかく、小規模なほど効率が悪くなりますし、次につながる投資ならともかく、無駄な経費ですから。同じコストをかけるなら、5Sをちゃんとやれば、その分、ボーナスを払うほうが、ましです。」
結局、相談とも雑談ともつかない形で、この場は終わったのですが、実はもうひとつの方法があります。積極的な意味で選ぶのではなく、特に何も選択しなかった結果として、多くの場合にそうなってしまう方法です。
それは、これといって何もせずに、そのまま時間が過ぎていき、ゴミだらけという自覚がないまま、これが普通の職場ということに誰もが疑問をもたないようにしていくという方法です。
オフィスの移転などで、時には一気に片付けることもありますが、経営者にせよ社員にせよ、当事者として優先順位の高い問題とは思っていないので、他の課題に取り組むことで、職場のゴミ問題は先送りされていくことになります。
なかには、注意したり叱責したりする経営者や管理職などもいるかもしれません。ただ、社員から見れば、職場の整理整頓をして、褒められたりボーナスが増えたりするわけではありません。仕事で結果を出さないほうが、当然、問題視されることになりますから、多少、注意や叱責があっても、結果を出せば文句はないはず、というマインドになりがちです。
その結果、普通のつまらない会社になるのか、きちんとしたカルチャーをもった真っ当な職場の会社を作り上げていくのか、今がその分岐点にいることを自覚しているかどうかが問われているのでしょう。
経営者自らがそのことを意識すれば、自ずと採るべき選択肢ははっきりしてくるでしょう。後は、それをどこまで徹底できるように行動し続けるか、ということに尽きます。