AlphaGoという目標設定
先週、アルファベット(旧グーグル)傘下のディープマインド社の開発したAIのAlphaGoが、世界ランキング4位のイ・セドル9段と5回対局し、4勝1敗の成績を挙げたことが、世界中で報じられました(注1)。
その結果、暫定的とはいえ、AlphaGoが世界ランキングで2位となり、イ9段は5位となりました(注2)。
AIというよりも、コンピューターと人間がゲームで戦うというと、1996年のIBMのDeep Blueとガルリ・カスパロフとの対戦が思い出されます。
Deep Blueはチェス専用のコンピューターとして開発されたもので、実用性よりも、チェスのチャンピオンであるカスパロフに勝つことをターゲットとして開発されました。
一説によれば、アメリカとソ連の政治的軍事的な対立を背景に、ロシア人のチェスの世界チャンピオンを、アメリカの科学技術が打ち破るという目標を掲げて、数年に及ぶ開発の結果が、このときの対戦だったとも言われています。
そこから、AlphaGoの開発が米中間の政治的対立の代理競争と邪推することも、頭から否定する気にはなれません。なにしろ、囲碁の世界ランキング1位は、1997年生まれの中国人カ・ケツ(カー・ジエ)9段ですから。
AlphaGoが当初、予想されていた通り、10年程度の期間で人間のチャンピオンと対局して勝利することが目標であったとすれば、チェスの時と同様の目標設定と言えます。ただ、今回は、10年もかからず、開発から僅か2年ほどで、目標水準に到達したことが、誤算といえば、誤算かもしれません。
ディープマインド社はアメリカ企業のアルファベット(買収した当時はグーグル)が2013年に買収した会社とはいえ、もとはイギリスで2010年に起業された会社(注3)です。
当面は、医療面で人工知能を活用するようですが、最終的には、人間並みの汎用の人工知能を作り出すことを目指しているそうです。
こうした抽象的な目標を、「囲碁の世界チャンピオンに勝つ」ことができるAIを作り出すという、絞り込んでイメージしやすく、それでいて、その目標に向かってチャレンジしたくなる、そんな目標に立て替えてみせるところに注目したいと思います。AlphaGoという名称も、目標を具体的にイメージしやすいものにしています。
古くは「人類を月面に送り込む」というアポロ計画、さらにDeep Blueのプロジェクト、そして今回のAlphaGoというように、大きなイノベーションや波及効果をもたらす計画を進めるに際して、さすがに目標の立て方がうまいと思ったのは筆者だけではないでしょう。
起業家や経営者の方々も、自社の製品やサービスを開発するにあたって、自ら目標を具体的に設定してみせるとともに、イメージしやすく、いっしょに取り組みたくなる表現にも、留意されてはいかがでしょうか。それが、プロジェクト成功の鍵のひとつかもしれません。
【注1】たとえば、以下の記事を参照してください。
「グーグルのAI『アルファ碁』が人間に勝った理由とその意味とは」
日経トレンディネット3月19日配信
【注2】以下の記事を参照してください。
「囲碁AI『アルファ碁』、世界2位にランクアップ」
IT mediaニュース3月16日配信
囲碁の世界ランキング及びレーティングについては、以下のサイトを参照してください。
ちなみに、今回対局したイ・セドル9段は、韓国人で2007年から2011年までは世界ランキング1位でした
【注3】 ディープマインド社については、たとえば、下の記事に紹介されています。
「人間を破った人工知能を作ったDeepMindとは何者か?」
WIRED.jp 3月13日配信
【注4】関連するコラムに、2016年1月29日のものがあります。
「マービン・ミンスキーの訃報、AIが囲碁でプロに勝利、次は……」
作成・編集:QMS代表 井田修(2016年3月24日)更新