リファレンス・チェックのポイント(3)
さて、中途採用のなかでも、特に役員や管理職として経験者を採用しようとする場合は、入社後に担当する予定の部署との相性を考えるでしょう。すでにいる役員や社員などから拒絶される虞はないか、反対に同僚や部下に合わせすぎて、やるべきミッションを実現できない虞はないか、採用する側も考慮すべきことがいろいろと出てきます。
そこで、現に勤めている会社や以前の勤務先にリファレンス・チェックを依頼したくなります。なかには、前職(現職)の会社の人事部門を照会先として、書類の提出まで求めるケースもあるように仄聞しますが、履歴書に記載されている事項の確認でない限り、人事部門では対応は困難でしょう。
リファレンス・チェックを強制的に行うのは無理ですし、そもそも、職務経歴書に書かれている内容や職場でのマネジメントぶりを確認しようとするのであれば、人事部門に問い合わせるのは筋違いと言わざるを得ません。実際に仕事をいっしょにしたことがある人や、担当して欲しい職務の内容を熟知している人でないと、職務経歴書に書かれている表面的なことから、その人の仕事ぶりや実績を判断することは難しいでしょう。
もっとも、履歴書に書かれていることであれば、リファレンス・チェックを持ち出すまでもなく、採用実務や入社手続きを担当者としてやったことがある人であれば、確認する方法のひとつやふたつはご存知でしょう。
職務内容をよく知っている人であれば、採用面接でディテールを詳しく尋ねるとか、実際にやってもらう(実技試験といってもよい)ことで、職務経歴書に書かれていることを間接的に確認することができます。
インタビューを多重(少なくとも二重)で行い、クロス・リファランスを作成・分析するといった方法もあります。ただ、ここまで作業を行うとなると、採用しようとしている側からの信頼が既に失われていることは明らかで、こうした場合はそもそも採用しないほうがいいでしょう。
リファレンス・チェックはどうしても時間や手間がかかるので、やらずに済むのであれば、やらないほうがいいかもしれません。しかし、経営幹部のヘッドハンティングなどの重要な採用においては、必要なプロセスとしてやるべきですし、役員など経営幹部を採用するのに必要なコストとも考えられます。
ちなみに、間接的に耳にしたケースをご紹介しましょう。
あるIT系サービスの企業で、同業他社から開発部門の上級幹部を引き抜くことができそうになりました。そこで、リファレンス・チェックを部下にしたところ、○○の開発は部下のXさんが実質的なプロジェクト・マネージャーとして切り盛りしたからできたもの、××の仕組みを作ったのは隣の部のYさんを中心とした非公式なチーム、△△のマニュアルを整備したのは派遣社員で△△の仕事を担当していたZさん、ということが明らかになってきました。結局、引き抜こうとしていた人が実績として書いていたことは、虚構というわけでないものの、本当に担っていた人はすべて別人(別のチーム)ということでした。当然、この話は自然と消滅しました。噂では、この幹部はアウトプレイスメントの対象者だったとも言われていました。
また、別の企業では、ある製品が大きく売れたのに中心となって貢献した社員を、業界は異なってはいましたが、三顧の礼をもって迎えたことがありました。業界紙やビジネス誌などにも採り上げられていた人だったので、その実績には何ら疑いをもちませんでした。いざ仕事をしてもらおうとすると、会議などで言うことは言うのですが、担当プロジェクトは進捗が見られず、具体的な成果はこれといって挙がりませんでした。後でわかったことですが、この人は製品開発チームを代表して取材を受けていた間に、メディア側からは話がうまい人ということで、たびたび採り上げられていただけ、ということでした。
この話を耳にしたとき、あるコンテンツ制作会社の方から聞いた一言を思い出しました。
「ヒット作が一つ出れば、『あれは俺がやった』って言う人間が10人出ますけど、シリーズものになれば100人は『あれは俺がやった』って言いますよ。」
このように、実績を判断するのは、難しいものです。慎重にリファレンス・チェックをして、その結果、実績があると判定しても、そもそも、業界の特性や職種の特徴などから、リファレンス先も含めて、実績がインフレ気味に言われる場合があることは、十分に頭に入れておいたほうがよさそうです。
作成・編集:QMS 代表 井田修(2016年4月28日更新)