コミュニケーションがうまくいかない?
大きな組織でも、少人数のスタートアップでも、社内のメンバー同士やいっしょに仕事をしている関係者の間で、思ったようにコミュニケーションがうまくいかず、仕事がなかなか進まない、そういう悩みや愚痴のようなものをよく耳にします。
また、自分は周囲の人(上司や同僚、後輩や部下など)とあまりうまくコミュニケーションがとれていないかもしれないとか、○○さんみたいに上手にプレゼンができない、といった悩みをもっている方も、かなりいらっしゃるようです。
こうした問題や悩みを自覚されたときは、コミュニケーションをいくつかに分けて考えてみましょう。手始めに、話す・聞く・書く・読む、以上の4種類に分けてみたら、いかがでしょうか。
「話す」と「書く」は自ら情報を発信するものであるのに対して、「聞く」と「読む」は受動的なものと受け取られてしまいがちです。「聞く」や「読む」は、こちらが何もしなくても相手が勝手に話したり書いたりしてくれるので、それを受け止めるだけ、と思われるかもしれません。
実際の仕事では、「聞く」だけ、「読む」だけ、ということはまずないでしょう。顧客の話を聞くにしても、顧客が何を伝えたいのか、聞くだけということはありません。仮に商談であるとすれば、技術的な事項の説明を求めているのか、納期について懸念をもっているのか、価格交渉をしようとしているのか、などなど、相手の言いたいことや聞きたいことを的確に読み取ることが必要です。
そこで、「相手の立場に立って」とか「顧客目線で」話を聞くことになります。これは、かなり主体的な行為です。決して、受動的な待ちの姿勢で相手のいうことを聞いていれば済むことではありません。
このように一言で「聞く」といっても、ただ聴力があって相手と同じ言語が理解できればいいわけではありません。相手や話題に対する興味や関心を発信し、相手に適切に伝わるからこそ、相手も話をする気にもなるでしょう。特に一対一で話す場面では、適切な質問を投げかけることが不可欠です。話を「聞く」のが目的とはいっても、黙っているわけではなく、むしろ積極的に話を聞き出す姿勢が求められます。
コミュニケーションに問題があるのは、「聞く」能力というよりも、「聞く」姿勢や話をしている相手への興味や関心にこそ、何らかの問題があるのではないでしょうか。聞く耳をもっていない(話をまともに取る気がない)とか、相手の話に興味がなさそうと思われてしまうおそれがあるとすれば、そこを改善するだけでもコミュニケーションがうまくいく可能性が高まりそうです。
「読む」というのも同様です。仕事では何かを調べたり、意思決定に必要な資料を作成したりするために、読むわけです。その目的を取り違えていたら、ダメです。ありがちなのは、全てを理解しようとして、資料やマニュアルを隅々まで読み込むことが目的化してしまい、レポートを作成するとか今日中に口頭でもいいから何らかの報告をするといった、その次の作業になかなか進まない、そんな状況に陥ってしまいがちです。
仕事を頼んだほうは「明日までにこの資料を読んでおいて」と言葉の上では言っただけかもしれませんが、その真意は「(資料を読んで)ポイントを要約して明日までに報告してくれ」だったとすれば、翌日、「読みました」と報告しただけでは仕事をしたことにはなりません。
「読む」も言語を使えるだけではダメで、まず必要なのは、読む目的を意識して、いつまでに何を読み取るべきかを明確に意識しておくことです。何となく面白いから読むのは、個人の私的生活においてはいいのですが、ビジネス上の「読む」という行為においては不適切と言わざるを得ません。反対に、個人的にはつまらなくても、仕事を進めるのに必要であれば、どんなものでも読み解くことが求められます。
また、「読む」際には時間という制約要因が必ず存在します。少なくとも、仕事上「読む」のであれば、一定の時間内に読み終わらなければ仕事になりません。したがって、文字通り、一字一句、丹念に読むようでは、ほとんどの場合、仕事にならないでしょう。ここはというポイントだけ、しっかりと読み込んで、それ以外はざっと目を通す、そういったメリハリのきいた読み方が求められます。
コミュニケーションに問題がある例の一部は、こうした読み方のメリハリがついていないことに起因するようです。いつになっても資料を読みおわらず、報告がなかったり、できあがるはずの資料ができていなかったりして、上司からは「昨日やっておけと言ったじゃないか」となりますが、部下本人は「こんなに大量の資料なんて読み切れません」となります。要は、読むスピードではなく、読み方に大きな食い違いがありそうです。
次に「話す」を考えてみましょう。ただし、「話す」といっても、一方的に自分のいいたいことを言えばいいわけではありません。いかにプレゼンの達人とはいえ、プレゼンをすればそれでいい場面など、仕事の現場では皆無といっていいでしょう。
「話す」という場面で能力が高いということは、喋るのがうまいということを必ずしも意味しません。ビジネスの現場で「話す」というのは、相手の聞きたいことに言及することです。これを外してしまっては、相手は耳を貸してくれません。
商談であれば、商談をまとめるうえで相手が気になっていること(価格、納期、アフターサービスなど)にきちんと向き合って、その懸念を解消するようにその場で情報を提供することが「話す」ことです。それ以外の話題をいかに面白おかしく喋ったところで、雑談力はあるかもしれませんが、肝心の商談をクローズできなければ無意味です。同じように面白おかしく喋ることができても、できる営業とそうでもない営業の違いは、喋りそのものではなく、その最中や前後に、相手に促すべき行動(たとえば購買の意思決定)をさりげなく指示・示唆していることに気づくでしょう。喋りが下手でも、タイミングさえ間違わなければ、相手に促すべき行動を取ってもらうことはできるでしょう。
新商品発表会などの大規模なプレゼンであれば、集まったメディアやその先にいる顧客層に向かって、その人たちの期待を裏切らない内容を伝えなければなりません。研修などで講師として話すにしても、式典などで役員がスピーチをするにしても、受講者や聴衆が心のどこかで聴きたいと(無意識にでも)思っていることを語らない限り、コミュニケーションは成立しません。そのポイントを外してしまうと、いかに面白おかしく話を盛り上げても、聞いている方は次第につまらなくなってしまいます。
つまり、ビジネスにおいて「話す」ということは、こちらのいいたいことを伝える前に、まずは相手の聞きたいことを察知してそれに応えることです。そのプロセスが成立してはじめて、こちらの言いたいことを聞いてもらう可能性が生まれてくるでしょう。
「話す」を要素で分解すれば、話すスタイル(声の高さ・音量、抑揚、リズムなど)、話している最中の態度や外見(表情や身振り手振りなど)、周囲の演出(スライドや資料など)、用いる語彙、話す内容(構成)などから成り立っています。聞いている相手の反応も、実はこれらの要素に分解してみることができます。聞いている最中の態度や外見(顔の向き、目の輝きまたは虚ろな感じ、姿勢、頭の動き、手の動き、資料やスライドへの興味・関心など)、拍手・質問・反論などのリアクションなどから、話していることがどの程度受け入れられているか判断できます。その程度に応じて、その場で話すスタイルや内容を変えていくことができれば、「話す」能力は十分でしょう。
「書く」も「話す」と同様です。その要素を分解してみれば、書くスタイルと書く内容に大別できます。
書くスタイルというのは、言語の選択は別として、公式性の高さ(書式の定まった公的な文書から落書きなどのまったく自由な私的文書までのさまざまなもの)、文章・図表・画像等の選択、文体や用いる語彙、書くメディア(公的書式、一般のペーパー、メール、ブログ、SNSなど)の選択、書くタイミングの選択、読ませるべき読者の想定など、多くの要素がスタイルに大きく影響します。
そして、スタイルは書く内容を左右するところがあります。上層部に上げる報告書としても、役員や社長までも回覧するものと、担当の部長まででよいものでは、書くべき事項や意思決定につながるポイントなどが違うのが当然です。同じ投資案件の調査レポートであっても、CEOレベルにはポイントを絞って検討すべき事項に焦点を当てておくべきでしょう。一方、担当部長がしっかりと内容を理解して役員会で報告する際の資料であれば、詳細かつ網羅的にまとめておき、背景となる事情や報告の要点などもきめ細かく記述することが要求されるでしょう。
「書く」というコミュニケーションがうまくいっていない時によく見られるのは、書いて伝えるべき内容がはっきりしないものです。箇条書きにするというのは、ビジネスにおいては簡潔で理解しやすい方法のひとつですが、箇条書きにされた個々の項目の相互の関係が不明で、結局、何を言いたいのか、結論は何なのか、理解に苦しむものを実によく目にします。もちろん、長々と文章を書き連ねるのは問題外ですが、短ければ何でもよいわけでもありません。
また、図表やデータシートや参考資料などが多すぎて、伝えるべきメッセージが埋もれてしまう場合も、よく見受けられます。こうした際は、サマリー(要約)をつけて、その1枚を読めば全体がわかるようにするなど、ちょっとした工夫も必要です。メールも、標題を見れば用件の内容がわかるように具体的に書くというのも同様です。
ビジネスにおいて「書く」というのは、学術論文や文学作品を書くこととはまったく違うことは、誰でも理解されているでしょう。読み手と目的を絞って、できるだけ簡潔に書くことが要求されます。そこで、タイトルや標題に結論(伝えるべきポイント)を掲げてしまうといった手段をとることで、何を言いたいのかわからないといった反応はなくせるのではないでしょうか。
コミュニケーションについての問題や悩みを自覚されたときは、いくつかの要素に分解してみれば問題がはっきりしてきます。「聞く」「読む」「話す」「書く」いずれかに苦手意識をもっているとしても、コミュニケーションのすべての要素が苦手という人は滅多にいないことを思い出して下さい。
むしろ、コミュニケーションが得意とか人よりすぐれていると思っている人のほうが、周囲から見れば実は問題があるということが多々あります。たとえば、自分のプランや見解を巧みに語り、リーダーシップを発揮してチームを牽引していると自他ともに認める人であっても、周囲(特に部下など)はいちいち反論するのが面倒臭いから黙っているか相槌を打つだけで、あとは適当に仕事を処理して、本人のいないところでは誰も動こうとしない、だから、思うように仕事は進まない、そういう状況が典型的です。
こういうケースでは、コミュニケーションの問題と自覚されることがあまりありません。部下や周囲の能力不足とか、経営資源の不足とか、業績評価制度の不備とか、もっともらしい理由はつきます。元はといえば、周囲が少しずつでも動いていくように、リーダーと周囲とのコミュニケーションが適切にとれていないところに問題があることに、リーダーも周囲も気づいていないことが原因ということもあります。
作成・編集:人事戦略チーム(2016年6月29日更新)