「今すぐ採用」を活かすには(1)

 

「今すぐ採用」を活かすには(1)

 

ベンチャーでは「○○ができる人が欲しい、今すぐ」ということがよくあります。ここで注意したいのは、○○の内容によって、採用すべき人材が大きく3種類あり、それぞれ採用の方法やタイミングが異なるということです。そして、採用される社員のほうも、自分のキャリアについて考えるべきポイントが、それぞれ異なります。

 

第一は、やってほしい仕事が極めて具体的で、とにかく人手が欲しいという場合です。ここでは、「今すぐ」という人材ニーズに応じるには、人材派遣か短期のアルバイトという方法をとることになります。それでも人を調達できなければ、最後は親族・友人・知人に頼ることになるでしょう。

 

この場合、特に注意したいのは、今すぐ何をやってほしいのか、そのためには具体的にどのようなスキルが必要なのか、きめ細かく明らかにしておくことです。経理ができる、パソコンができる、英語ができる、という程度では不十分で、実際に調達できた人材とやってほしい仕事との間に大きな隔たりが生じてしまう理由がここにあります。

具体的にやるべき仕事が現にあり、その担当者がいないから困っているはずで、それをそのまま採用の条件とすればよいのです。

たとえば、「経理事務」とひとくくりに表現するのではなく、○○システムによる支払伝票の仕訳と入力(毎月○日××件程度、△△人時かかる)というように、実際に担当してもらう仕事を具体的に提示するほうが、応募してきた人もできるかどうか判断しやすいでしょう。

同様に「パソコンができる」ではなく、たとえば、営業管理システムからデータを抽出して、エクセルで顧客別の販売データを一覧表にし、その結果を折れ線グラフと棒グラフで表わし、その際に、当月の売上と累計売上高を表示するといった、具体的なタスクに落とし込んで記述するほうがいいでしょう。できれば、採用面接の場で、実際に(データは架空のものに加工して)やってもらえれば、必要なスキルがちゃんとあるかどうか一目で判断できます。

「英語」もできるかどうかとかTOIECのスコアなどを問うのではなく、たとえば、海外の関係者と直接、電話やスカイプなどでやり取りをしてもらうことで、試験に替えるといった方法が望ましいでしょう。

 

アルバイトであればこうした採用プロセスを経ることで必要なスキルの有無を判断できます。派遣についても、派遣会社と十分に話し合って、できるだけ事前にスキルを自社の現状に即して個別具体的に評価するプロセスを経るようにすることで、派遣されてきた人材と仕事のミスマッチを予防できる可能性が高まります。

もちろん、求めるスキルは一般的な表現に留めておいて、採用(派遣)後に自社で必要なトレーニング(担当を決めてOJTを行うとか研修プログラムをひととおり履修してもらうなど)を実施することで仕事ができるようになるというのでも構いません。とはいえ、残念ながら、ベンチャーや中小企業でそうしたプログラムが整備されている企業には、滅多にお目にかかることがありません。

 

こうして調達した人材の中には、もっと仕事ができる人が存在することも稀にあります。といっても、確率的には極めて低いのですが。

そうした偶然を多くの会社が期待しているわけではないので、基本的にやるべき仕事を処理してもらう以上のことを期待しているわけではありません。したがって、担当する仕事がなくなったり、別の人が担当したり、契約が打ち切られたりすることになります。

言い換えれば、目先の人手欲しさから行われた採用には、キャリアプランとか人材の長期的な成長を企業内で実現することは難しいのが実態です。少なくとも、意図的かつ計画的なものはあり得ないでしょう。

そういう環境で社員として活躍したいのであれば、人材として育ててもらおうという発想は捨てて、事業や組織の不断の変化を楽しんで、担当する仕事どころか自分のスキルや価値観までもがどう変化していくのか、その変化の大きさを享受するといった姿勢をもつことが望まれます。

つまり、たまたま派遣された先が創業1年にも満たない会社だったとか、パートタイマーで働こうとしたところがたまたまスタートアップであったとか、そういったふとしたきっかけで、ベンチャーで仕事をすることになった人は、そこが自分に向いているのか(いないのか)、早めに見切りをつけるほうがいいでしょう。それは、働く社員にとっても、採用した会社にとっても、重要なことです。

 

(2)に続く

 

 

作成・編集:人事戦略チーム(2016831日)