HubSpot Culture Code : Creating A Lovable Company (3)

 

(3)透明性と自律~情報はオープンだから自分で判断する~

 

 ミッションがいかに優れたものであり、顧客の課題を解決して結果を生み出すことにこだわったとしても、経営者がそれを「やれ」というだけでは社員は動かないでしょう。

そこで、第3のカルチャー・コード「オープンに共有し、はっきりと透明性をもつ」が求められます。

 

オープンな会社というと、個室中心でオフィスが形成されるアメリカ企業の場合、まずはオープンドア(CEOなどの経営幹部の部屋をいつ誰が訪れてコミュニケーションをとって良いとするルールや慣習)というポリシーが一般に見られます。一方、ハブスポットは、オープンドアではなく、ノードア(HCC-43)です。

原則として、全ての情報を全社員(1100名超)にオープンにしています。財務情報、取締役会や経営幹部会議などのプレゼン資料、戦略的に重要な事項、ハブスポットに伝わる様々なエピソードや物語など、すべてがオープン(HCC-37)ということです。

もちろん、全てといっても限定的な例外はあります。法的に禁じられているもの(NDAを取り交わし当事者以外にオープンにすることが明確に禁じられているものなど)と、会社に所有権があるとは言えないもの(給与データといった個人情報など)は、オープンの原則から除外されています(HCC-38)

ちなみに、ハブスポットは2014年に株式公開をしています。経営情報(特に株価に影響を与えるおそれのある重要な情報)に社員全体が接するので、社員はインサイダーということになります(HCC-3940)。

ここで注意したいのは、透明性は必ずしも民主制を意味しない(HCC-46)ということです。ハブスポットにおいて、透明性はオープンな組織運営を意味するもので、コンセンサスによる意思決定を意味しません。必要な情報に接し、意見を表明することは、必ずしも投票権(意思決定に直接関わる権利)があるわけではありません。

また、3カ月毎にセミ・ランダムに席替え(HCC-44)をすることで、多少の混乱はあるものの、社内政治的な動きを回避できるとしています。いろいろな情報に接すると、インサイダー取引も含めて、問題行動を起こす社員が出てくる可能性はあるでしょう。それをできるだけ低減させるための仕掛けのひとつが、社内を物理的にも固定化しないことなのかもしれません。

 

情報公開性や透明性は、仕事をするスタイルでいえば、自分で自分の仕事をマネジメントするというスタイルを促すものです。いちいち、上司が手取り足取り指示したり、マニュアルなどで事細かにやりかたを規定したりするといった仕事のスタイルとは、正反対のものでしょう。

そこで、第4のカルチャー・コードである「自律を好み、オーナーシップをもって仕事をする」ということが提示されます。具体的には、次のような特徴があります。

たとえば、多少は間違える人がいたからといって、大多数の社員を罰する(規程類やルールで縛る)ことはしない(HCC-49 )というのがハブスポットの方針です。そして、ハブスポットのルールは次の3語で終わりです。

 

真っ当な判断力を使え(Use Good Judgment)(HCC-51)

 

これで、通常は、分厚い従業員ハンドブックに細々と記載されている就業に関するルールや手続き事項などが、すべて収まっていることになります。

ただし、判断する際に考慮すべき点があります。それは、個人よりもチーム、チームよりも顧客、という優先順位を絶えず念頭に置いておくことです。

 

個人よりチームを、チームより顧客を優先して考えよ(HCC-53

チームに損害を与えてまで個人の利益を求めない(HCC-54

自社の利益よりも顧客の利益を優先するのは当然

SFTCはわれわれの長期的な目標でもある(HCC-55

 

もうひとつ忘れてならないのが「結果」です。ここで結果というのは、何時間働いたかとか、それを生み出した場所がどこか、といいったことを問題とするものではありません。ましてや、休暇を何日取るかよりも大事なのが結果(HCC-5659)であることは言うまでもないでしょう。

結果は、洞察力をもって行われた意思決定で、しかもデータに裏打ちされたものであれば、最良のものとなるでしょう。議論を決するのはデータであって、職位(の上下関係)ではありません。とはいえ、ハブスポットでもまだまだ職位が意思決定を左右することもありますが、それは決して好ましいものではないと表明しています(HCC-6061)。

サイモン・シネック(注4)の言葉を借りれば、「社員は会社の方向性をはっきりと知りたいのであって、日々の細かな意思決定を求めているわけではない」ということになります(HCC-62

優秀で自己動機づけができる人材がいれば、はっきりしていて説得力のあるビジョンを提示することで、持続可能かつ拡張可能な成長が実現できます(HCC-63)。細かな指示やルールは不要ですし、むしろ有害ですらあります。それを実践・実証しているのが、ハブスポットであるのかもしれません。

 

【注4

サイモン・シネックは、リーダーシップとマネジメントを専門とする、イギリス出身の著述家でコンサルタントです。TEDにも登場しています。

詳しくは、ウィキペディアの記事および以下のTEDを参照してください。

https://www.ted.com/speakers/simon_sinek

 

文章作成:QMS代表 井田修(2016112日更新)