(5)挑戦と健全性~個人も組織も~
「驚くほどの人材」にとって仕事上の挑戦というのは、本気で取り組むに値する大きなテーマを設定することが不可欠です。
そこで、第6のカルチャー・コードである「人と同じことはするな、現状に疑問をもて」が重要となります。絶えず、今やっている仕事、これまでの結果やプロセス、他者・他社のやりかたなどに疑問をもって、現状を否定し新たな課題を設定し、次のテーマに挑戦していくことが求められます。
ちなみに、IT業界のように成長や変化が著しい業界であっても、挑戦を続けて革新的であり続けるというのは容易なことではありません。ありきたりでない、例外的な存在でスタートしたはずの会社でも、成長するにつれて平凡な会社になってしまうのが普通です。
平凡な会社になってしまわないためには、顕著な成果を生み出し続けることが必要ですが、それは並みのリスクテイクからは生まれるはずはありません。そこでハブスポットでは、試みることを奨励するという以上に、座して何も挑戦しないよりは、やってみて時には失敗するほうがよいと言い切ります(HCC-105)。失敗を繰り返すのであれば問題でしょうけれど、1回の失敗は構わず、その失敗から何らかの教訓が学べるはずで、それをしっかりと学ぶことが大事であると考えているようです。
また、何かに挑戦するには、まずは人と違うことを考え出すことが必要ですが、そのためには人とは違うことが肝かもしれません。したがって、経歴や信念が多種多様な人材で構成されていること(ダイバーシティ)が、組織を構成する際に、何にも優先して求められるのかもしれません。
人と違うことを考え出すには、物事の捉え方や考え方についても心掛けるべきことがあります。
ハブスポットでは、シンプルに考えよ、と説きます(HCC-109)。伝統的な考え方では、いろいろと多面的に考えるほうがよい、警鐘はより多く鳴らすべきだ、という声が優勢なようですが、ハブスポットはシンプルであることが競争上の優位をもたらすという信念を有しています(HCC-110)。
どのような物事も、始めはシンプルですが、時が経つにつれて、複雑なものが少しずつ浸入していくでしょう。長期を見据えて複雑さと戦っていくには、勇気とコミットメントが必要です。しかし、目先の課題を解決するには、手早くやりやすい解決策をとってしまうものでしょう。特にベンチャーや急成長している企業は、とかく目の前の問題を処理することで、経営者も従業員も手一杯です。ふと気がつくと、例外事項やら新たな業務プロセスなどが多くなっています。こうなると、平凡な企業になってしまっているのです。
そこで、ハブスポットでは、複雑なものを取り除くべく、リファクタリングを勧めています。これは、ソフトウエアのリファクタリングと同じことを組織においても行うことです。それもできるだけ頻繁に行うべきであると説いています。
リファクタリングとは、(ソフトウエアの)外から見た振る舞い方は変えずに現状を保ったまま、内部構造を改善し、(ソフトウエアの)理解や修正をよりしやすくすることですが、組織においても同様のことを実施するように勧めています。
具体的には、次の5点を挙げています(HCC-116)。
・使いもしない報告書を作成することを止める
・非生産的なミーティングをキャンセルする
・不必要なルールを廃止する
・人手のかかる業務プロセスを自動化する
・本来の趣旨から逸脱した業務プロセスをカットする
これらの頭文字をとってSCRAPと名付けているようです。このSCRAPを実行することで、ハブスポットがシンプルを実践している会社であることを求めています。その結果、購入しやすい、使いやすい、好きになりやすい、そういう会社にハブスポットがなることです。
ここまでの6個のカルチャー・コードだけを聞くと、ハブスポットは随分と厳しい会社だと思われる方が多いのではないでしょうか。その通りというところも多いかもしれません。ただ、厳しいだけの会社ではないことが、第7のカルチャー・コードの存在から推測できるかもしれません。
第7のカルチャー・コードは、「人生は短いことをしっかりと認識する」というものです。
一般に、人生は限りのあるものですから充実して楽しく過ごしたいし、その人生において多くを占めるものが仕事である以上、仕事も充実して楽しいものにしたいと思う人が多いでしょう。では、仕事を充実して楽しいものにするにはどうすればいいでしょうか。
まず、健康であることは、基本的な条件でしょう。ハブスポットも健康管理を忘れてはならない重要なことと認識しており、従業員が健康であるような施策を実施しています(HCC-121)。
・座らずに立ったまま仕事をする
・身体によい食事を提供
・フィットネスルームを完備
・笑いが自然に湧き起こるように
心身ともに健康であることの重要性は、改めて議論する必要もないでしょう。特に心の面の健康や個人の心に大きく影響する組織自体の健全性については、過労死や自殺などに注目せざるを得ない日本の状況を振り返ってみると、その重要性を説くまでもないことでしょう。
今回ご紹介しているスライドの最後のほう(HCC-122・123)に、ハブスポットでは心の面の健康や組織の健全性にも触れているように思われます。
すなわち、私心のない意見や批判はどんどん言ってほしい、ただし「人生は短い」のだから、思いやりと優しさをもって事に当たってほしいと表明しています。また、仕事なのだから厳しい選択を迫られることばかりだろうし、それが王道というものであることも言及しています。王道を歩んでこそ、よい眺めに出会うこともあれば、人混みも避けられるというもので、それでこそ、人と違うものを生み出せることを示唆しているようです。無用なストレスやプレッシャーをかけることは避けて、真っ当な道を歩む人をサポートするように促しているように思われます。
こうした考え方や行動様式こそが、組織におけるカルチャーそのものでしょう。どのように明文化されたルールや最先端のITを駆使した業務システムがあっても、仕事をする組織のなかで日常がどのように過ぎていくのか、ここにカルチャーが現れているからこそ、ハブスポットではカルチャー・コードの最後に「人生は短いことをしっかりと認識する」を掲げているのかもしれません。
文章作成:QMS代表 井田修(2016年11月13日更新)