62歳差であってもできる仕事

 

62歳差であってもできる仕事

 

一昨日は、将棋の公式戦で史上最大の年齢差である62歳差の対局がありました。76歳の加藤一二三 九段と14歳(中学生)の藤井聡太 四段が第30期竜王戦ランキング戦61回戦で対局し、110手で後手番の藤井四段の勝ちとなりました。

加藤九段といえば、近年はTVのバラエティ番組やネット動画などへの登場も多く、ご存知の方もたくさんいらっしゃるでしょう。60年以上もプロの将棋棋士として活躍し続けている、正に生きる伝説と呼ぶにふさわしい棋士です。

一方の藤井四段は、その加藤九段がもっていた最年少棋士の記録を塗り替えた、史上最も若くプロになった棋士です。これから、伝説を作っていくであろう、今最も将来を嘱望されている棋士と言えるでしょう。プロとなって最初の公式戦が今回の対局だったわけで、既に伝説を作り始めているかのようです(注)。

 

さて、この二人が対局することとなった竜王戦ランキング戦は、持ち時間が各5時間なので、単純に計算しても10時間程度の勝負になります。その間、自分しか頼る者がない状況で対局を続けることになります。これを労働とか仕事と呼んでよいのかわかりませんが、賞金がかかったプロの勝負であることは間違いありません。

通常の企業では、これだけ年齢が離れているもの同士が、まったく同一の条件でいっしょに働くことはまずないでしょう。もしかすると、同じ仕事をすることはありうるかもしれませんが、処遇(支払われる賃金の額や作業する場所などの諸条件)が同じというのは、高齢化が進んでいるとはいえ、まだまだ考えにくいことです。

しかし、今後は年齢による区分が一般の企業社会においても、意味をもたなくなる方向に進むことは十分にあるでしょう。

たとえば、プログラマーです。若ければ中学生どころか、小学生でも経済的な価値のあるものを生み出すことが可能です。一方、年齢が高いからダメということもなく、特に海外では60歳代、70歳代の現役プログラマーの例が見られるようです。日本でも、いわゆるレガシー・システムの運用などは、大ベテランのエンジニアでないと対応できないため、定年退職後も仕事を依頼されるケースもあるようです。

また、経営者や起業家も年齢はあまり関係のない仕事かもしれません。実際、若いころから起業家や経営者として一筋にキャリアを歩んでいく人は珍しくありません。適性や能力という以上に、雇われる働き方に慣れ親しんだ時間が長いほど、経営者や起業家へ転身することが難しいのではないかとも思われます。

 

ICTの発展により在宅勤務やテレワークなどが一般化するほど、仕事を担当した人の個人的属性(年齢がその代表的なもの)に関係なく、仕事の成果とその報酬のバランスが問われることになります。棋士のようなトーナメント・プロを一般の労働者と同じように見ることはできないとしても、文字通り、生涯、現役で働くことができるような労働環境や柔軟な就業条件は実現しつつあります。

少なくとも、一般の人と同じ条件で働くことができるのであれば、年齢が高いからといって定年などで無条件に締め出すのはもったいないとすら言えるでしょう。

加藤九段と藤井四段の対局というニュースは、年齢だけでなく、性別・国籍・出身地などで区別することが、労働力の損失につながっているのではないかと改めて考えさせられるものでもありました。

 

【注】

年齢差対局について詳しくは、公益社団法人日本将棋連盟の公式サイトに掲載されている佐藤友康氏の以下のコラムを参照してください。

http://www.shogi.or.jp/column/2016/12/fujikato01.html

 

 

作成・編集:QMS 代表 井田修(20161226日更新)