同一労働同一賃金を巡って(1)
昨年12月に政府のガイドライン案が公表されて以来、同一労働同一賃金を巡る議論が注目を集めています。
関連資料(注1)を読んだ限りでは、正規労働者(いわゆる正社員、フルタイマー)の処遇が良くて、非正規労働者(パートタイマー、アルバイトなど)の処遇が悪いことを是正するために、同一労働同一賃金という考え方を改めて持ち出してきたように見受けられます。
ただ、そうしたテクニカルな問題に対処するのが目的とするようでは、企業の人事戦略としては本末転倒かもしれません。人事管理の本質は、雇用区分や労働時間の形態に関係なく、公正かつ公平に処遇することにより、労働生産性を向上させていくことだとすれば、同一労働同一賃金というのは、実現されていて当然の状態だからです。もし、実現されていなければ、働く人のモラールは低下してしまうでしょうし、組織全体としてモチベーションが高まるとも思えません。
つまり、同一労働同一賃金が自社で実現されていないとすれば、人事管理が真っ当に機能していないことに他なりません。ある程度の許容範囲はあるにしても、不公正・不公平な処遇にも構わずしっかりと働いてくれる人など、いるはずがありません。
一般に、処遇は、労働(仕事)と賃金(報酬)の両面から考えるべきものです。そこで、まず、労働の面から考えるとどのような課題があるのでしょうか。
労働、すなわち、どのような仕事を担当するかという職務の設計や配分の面と、仕事をどのように成し遂げたのかという業績評価の面を、両方ともしっかりと把握しておかないと議論が成り立ちません。
多くの企業で問題となるのは、まず、担当する仕事が不明確だったり、仕事の割り当てが量的にも質的にも不合理であったりする現実があることでしょう。その最も極端なケースとして近年注目を集めているのが、過重な残業実態の問題です。
同時に、仕事をするプロセスやその結果をきちんと管理するという業績管理(パフォーマンス・マネジメント)が適切に機能しているかどうかも、多くの企業で問われるべき課題であるでしょう。
次に、もうひとつの面である賃金(労働の対価)の面から考えると、どのような課題があるのでしょうか。
まず、想定されるのは、賃率の問題です。雇用区分や労働時間管理の違いによって、賃率(標準労働時間1時間当たりに支払われる賃金単価)に合理的とはいえないような違いがある可能性があります。これは、賃金における内部的な衡平性の問題として捉えることができます。
この問題は、たとえば賞与のように毎月支払うと定められているものではないものでも、実態として年間を通じてみれば支払うことが確定的な現金報酬がある場合に、その支給対象の基準によっては、衡平性を欠く場合もあるでしょう。
同様に、ストックオプションなどの現金以外の報酬制度について、その付与対象の問題もあります。実態として担当している仕事が同じなのに、こうした報酬スキームの支給対象となる人とならない人が存在するのであれば、これも是正すべきものとして把握しておくべきです。
さらに、報酬以外の処遇プログラムについても検討すべきものがあるかもしれません。一般的には福利厚生と呼ばれる分野であっても、たとえば有給休暇の付与日数や付与の条件および取得の実態などが、雇用区分や労働時間管理の違いから大きな差があるとすれば、やはり見直すべき事項として指摘できます。
こうした観点から、同一労働同一賃金を実現する上での具体的な課題やその解決策について、全6回にわたって基本的な考え方を整理していきたいと思います。
【注1】
厚生労働省「同一労働同一賃金」特集HPは以下のサイトを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
また、「同一労働同一賃金」ガイドライン案は以下のファイルを参照ください。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf
作成・編集:人事戦略チーム(2017年1月29日)