プレミアム○○デ―(後)

 

プレミアム ○○デー(後)

 

(前篇より続く)

 

 皆さんは、2回目のプレミアムフライデーをどのように活用されましたか。

年度末の金曜日ということで、早めに仕事を切り上げるなんて、ありえないという方々も多かったかもしれません。一方、早めに仕事を終えて、イベントに参加したり、趣味を楽しんだりした方々も、相応にいらっしゃったことでしょう。

 

昨日、あるITサービスの会社を経営されている方にお目にかかったところ、早速プレミアムフライデーの話題になりました。

 

「社長の会社は、何か取り組まれたんですか、プレミアムフライデーは?」

「プレミアムフライデーだか何だか知らないけど、先週は通常通りでしたよ。翌日の土曜日は、初めて花見の会をやってみたんだ。昼間とはいえ、いやあ、寒かったよ。」

「会社の行事ですか?」

「うちは、社員の誰かが言い出して、企画・運営する行事がほとんどだから。花見は、確か、パートタイムで週3日来てもらっている社員が言い出したんじゃなかったかな」

「皆さん、集まりました?」

「寒い寒いっていいながら、みんな来てたよ。一応、社員の7割が参加すれば会社のイベントということで、費用は補助しているけど。」

「確か、ご家族も参加していいということでしたよね。」

「そう。配偶者またはパートナー、お子さんも構わないよ。花見も家族で来ていたほうが多かったんじゃないかな。途中で参加したり、早めに帰った人もいたけど、40人近くは来たんじゃないかな。」

「アットホームな会社ですね。」

「どうかなあ。どちらかというと、人間関係はドライじゃないかな。仕事は仕事、プライベートはプライベート、花見だって来なかった役員もいるしね。でも仲が悪いわけじゃないだ。仕事以外のところは、それぞれの個人の事情を優先するのは、当然でしょう。」

「そう言われると、会社として成り立つのか不安はありませんか。」

「会社なんだから、基本は仕事でしょう。仕事が終われ帰ればいいし、普通にやって終わりが見えないのであれば、ヘルプをアピールすればいい。社員によっては、毎日3時半に帰宅する人もいるよ。」

「毎日ですか?」

「実際は、お子さんを迎えに行って、夕食を用意して、それからまた、在宅勤務で2時間くらいは働いているんじゃないかな。」

「けっこう、ハードですね。」

「実際、プロジェクトベースで動いているので、仕事の繁閑とかプレッシャーとか、人によって随分と違うし、もともと女性社員だって、伝統的な日本企業、特に大手企業みたいな配置や仕事の割り当てはしてこなかったから。まあ、男女の別なく、働いてくれって、いうこと。もちろん、ちゃんと成果を出せば、報酬なり他の処遇なりで、報いるところは報いているつもりだよ。そうは言っても、うちもまだまだ古い会社だよ。」

「どうしてですか?」

「たとえば、オフィスに毎日通勤してもらうわけだけど、通勤は無駄だよね。往復2時間も3時間も掛けて通勤したのに、働くのは5時間とか4時間? プレミアムフライデーって、そんなものでしょう。おかしいよね。」

「むしろ、通勤時間が長い分、一気にまとめて仕事を片付けたほうがいい?」

「そのほうが、誰が見ても効率的。どうしてもオフィスに出勤しなければ仕事ができないというのであれば、隔日勤務のほうがいいんじゃないかな。山手線のなかにオフィスを構えていて言うのもなんだけど。」

「在宅勤務は認めていないのですか。」

「個別には、部分的に在宅勤務という人もいるけどね。まあ、うちあたりは社員の数も少ない(役員やパートタイマーなども含めて30名強)し、それぞれの家庭の事情とかライフスタイルとかもわかるから、柔軟にプログラムを作れるよね。極端な話、仕事をちゃんとやっていると周囲の社員が認めてくれれば、一人ひとり違う人事制度が運用されているようなものだから。」

「そうなんですか?」

「規模が大きくなると、ルールとか手続きとか、いろいろと面倒なことも決めておかなければならないかもしれないけど、今の程度なら、直接話すこともできるし、チャットやメールで提案したり、申し込んだりすることもできるから。一人ひとりの都合とか事情に応じて、仕事の時間や場所を選ぶこともできるね。それを可能とするICTのベースがあることは、うちの本業そのものだしね。」

「頭ではわかっていても、踏み切れない会社がまだまだ多いように思いますが。」

「育児で忙しい人もいれば、介護で仕事どころではない人もいるわけだよ。一律に何年とか何ヶ月って、休業期間を区切るわけにもいかないこともあるでしょう。だから、個々の事情に応じて、在籍したまま必要な期間は休業するほうがいいと思うんだ。もちろん、法律上の要件は満たした上での話だけど、うちみたいな小規模な会社は、いつでも社員に戻ってきてほしいんだよ。」

「ゼロから改めて採用するのは難しいですか?」

「新規採用なんて大変だよ。採用そのものに労力も時間もかかるし、その後も仕事を覚えてもらわなければならないし。一度はうちで働いたことがあれば、技術的なことや顧客の事情などもわかっているから、話は早いよね。内勤というか事務的なことしかやっていなくても、この会社のやりかたとかカルチャーみたいなものはわかるでしょう。それに合う人であれば、いつでも仕事に戻ってきてほしいんだ。よその会社もそうだと思うよ。特に人材不足を実感している、中小企業の経営者なら、皆同じことを言うでしょう。」

「仕事ができるとは言っても、個別の事情に応じるとなると、それなりにコストもかかるのでは?」

「いちいち、年間のスケジュールとか予算とかは組んでいないよ。年によって忙しさも違うし、イベントの中身や数も違うんだ。それに勤務体系なんて、完全にフリーにしたところで、大してコストはかからないでしょう。通勤をなくしたほうが、通勤定期の分だけ交通費がカットできるし、その分をICTのツールや使い方の研修なんかに回したほうが、社員のレベルアップにつながると思うよ。」

「ちなみに、昨年度は?」

「社員旅行はやめて、夏にバーベキューと花火大会のセットのイベントをやってみたよ。これも社員の中から出てきた意見を採り入れた結果なんだ。花見の時にも言ったんだ、『うちはプレミアムエブリデーだ』ってね。」

「プレミアムエブリデー?まさか、毎日3時で仕事を終えるわけではないですよね。」

「そうじゃなくて、毎日、仕事もプライベートも充実しよう、っていうこと。それも、特定の日を会社が指定するのではなくて、社員が自分の事情や仕事の状況に応じてプレミアムな日を選べばいいわけで、そのほうが特定の社員に仕事が集中することもなくなるし、組織としても仕事を回していきやすくなると思うよ。」

 

伝統的な日本の企業組織モデルがメンバーシップ志向(注)であるとすれば、無理にジョブ志向の人事組織に変えていこうとするよりも、より開かれたメンバーシップを志向するものに発展させていくといったアプローチもあるでしょう。

役員、管理職、正社員、非正規社員などという固定的な堅いメンバーシップから、仕事をする人=社員というメンバーシップにフラットにしていくことで、制度上はより個別的に運用ができる柔らかいメンバーシップを実現していくことも十分に可能です。

プレミアムフライデーを巡るある社長との会話から、その一例を見出したような気がしました。

 

【注】

メンバーシップ型労働とジョブ型労働については、『若者と労働~「入社」の仕組みから解きほぐす』(濱口桂一郎著、中公新書ラクレより2013年に刊行)に詳しく論じられています。

 

 

作成・編集:人事戦略チーム(201745日更新)