ジョナサン・デミの逝去
映画監督のジョナサン・デミ氏が食道がんの合併症により73歳で逝去されました(注)。
ジョナサン・デミ監督というと、一般的には映画「羊たちの沈黙」で知られているでしょう。ジョディ・フォスターが演じたFBI捜査官実習生のクラリスと、アンソニー・ホプキンスが扮したハンニバル・レクタ―博士との緊迫したサイコサスペンスの傑作です。
こうしたドラマを監督する一方で、ジョナサン・デミ氏はドキュメンタリーの監督としても、大変魅力的な作品を残しています。「ストップ・メイキング・センス」です。
これは、トーキングヘッズというアメリカのロックバンドのコンサートを収めたドキュメンタリーです。通常、こうしたドキュメンタリーでは、ライブステージの模様だけでなく、バンドのメンバーやスタッフなど関係者へのインタビューがあったり、ツアー中のエピソードを途中に挿んだり、時にはプロモーションビデオの一部やスタジオでの曲作りのシーンを挿入したりすることがよく見受けられるのですが、「ストップ・メイキング・センス」にはそうしたシーンはありません。
“I’ve got a tape I wanna play.”と言いながらカセットデッキのスイッチを押すと、ベースとリズムセッションだけのテープが回り出し、アコースティック・ギターを弾きながら“サイコキラ―”を歌うデイヴィッド・バーン(トーキングヘッズのフロントマンのボーカル)一人の姿がステージにあります。ジョナサン・デミはこのオープニングシーンを、手持ちカメラでステージに登場するデイヴィッド・バーンの足元から全身へとカメラをパンしながら、音楽とともに全体像がわかるように見せていきます。
こうして映画が始まったその瞬間から、曲が終わりエンドロールとなるまで、終始、ライブステージそのものが映し出され続けます。観客やステージスタッフの姿すら、時折映り込む程度で、トーキングヘッズのメンバーが演奏するシーンだけが1時間半弱、続きます。その間ずっと、映画を見ている観客は自分がバンドのメンバーになったつもりで、ステージ上で音楽を楽しんでいるかのように感じることになります。
極めて個人的な経験ですが、映画や舞台(ミュージカルなど)、ビデオクリップなどでは音楽を楽しむことはよくありましたが、私はこの映画を見るまでは、ライブで音楽を楽しむことはほとんどありませんでした。この映画を見たのが渋谷でのレイトショーだったせいか、まずは公園通り近辺のホールやライブハウスに通い始めました。もちろん、武道館で行われたトーキングヘッズの公演にも行きました。
このようにライブステージの楽しさを覚えるきっかけを作ってくれた作品が「ストップ・メイキング・センス」でした。今夜は、その作品を監督したジョナサン・デミを偲んで、DVDをまた見てみたいと思います。
【注】
たとえば、以下のように報じられています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170427-00000027-reut-ent
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170427-00000016-flix-movi
作成・編集:QMS代表 井田修(2017年4月27日)