起業家の働き方改革(4)

(3)より続く 

 

起業家が忙しい理由など、言い出したら切りがありません。ポイントは、いかに効率よく個々の作業を処理するのか、ということ以上に、事業を成長させることにつながる以外のことは、そもそも仕事をしないように仕事そのものを区分して処理することです。

 

起業した多くの方々が、起業前に思っていた以上に、起業してからやるべき仕事が多いことを痛感されているようです。

登記や経理などの事務処理にせよ、営業や資金調達などに関するアポ取りひとつとっても、時間と労力がかかります。もっとも、こうした事務処理の仕事は、今後はAIで処理できるようになりそうな気もします。ただし、ひとりひとりの癖や特徴に合った処理の仕方を機械学習するには、サービスとして開発できたものがあったとしても、実際に活用するには時間もかかりそうですが。

起業の肝となる営業にも開発にも手間と時間がかかります。顧客からの問い合わせにも起業家自らが答えなければならないことも多いでしょう。それらの仕事を任せる人を採用したくても、まずは人材の採用のために面接の日程調整やら労務管理上のペーパーワークやらに時間とエネルギーを取られることになります。

 

こうした状況にありながら自覚的に仕事の仕方を見直さずに放っておくと、自分のやりたいことや得意なことばかりに時間を割くようになりがちです。そして、苦手なことややりたくないことを放置してしまい、後で慌てて対応しなければならなくなり、つまらないミスや余計なコストがかかったりして、ますます時間がなくなる現象も往々にして見られます。

特にエンジニア出身の起業家の方々にありがちなのは、新しい技術やサービスの開発や導入には何時間でもかけたいが、営業や事務管理など、その人にとって「どうでもいいこと」と思えるものほど、手がつかないままになる状況です。その結果、時間がなくなって、慌てて処理するので、間違いも多くなり、プログラムの手直しやら書類の再提出やら、業績や事業の成長に結びつかないという意味において無駄な時間と手間がかかってしまうのです。

これが営業出身の起業家の方々となると、顧客へのプレゼンやVCや金融機関との交渉などを優先しがちで、事務管理やシステム開発などへの時間配分がおろそかになる例を多く目にします。また、起業家どうしの会合やベンチャー向けのイベントへの参加など、外向きの仕事を優先しがちで、「忙しいからやっておいて」が口癖であるわりに、ボールペン1本の購入まですべて自分で決めないと気が済まないタイプの人が多いかもしれません。

 

さて、「やらないこと」を決めるには、労働生産性(特に時間当たりの生産性)を意識する習慣をつける必要があります。そのためには、まずは「見える化」をすることから始めます。

今日1日、何をやったのか、どのような結果を生み出すに至ったのか、頭の中で整理するだけでなく、物理的に書き出しましょう。そして、やるべきことを見直して、時にはやるべきことと思って書き出したものを消し込むのです。

毎日、寝る前に今日1日やったことを書きこんだり、前日に書きだした「やるべきこと」を消し込んだりするなどして、自分で今日1日、どのような結果を生み出せたのか、振り返ってみることを習慣づけしたいものです。

たぶん、当初はやるべきことだらけになるでしょう。または、やるべきことは絞り込むことができていても、今日1日やったことを書き出してみると、昨日や一昨日にやるべきこととしてリストアップしたものが、あまり手がついていないことに気づくでしょう。

こうした作業を1週間でも続けてみると、やるべきだと思って書き出したことが本当に事業成長に必要なものであったかどうか、また、実際に行動に移したことが事業を成長させるアイデア・資金・人材・顧客などの獲得につながったかどうかを、事後的に検証できるようになります。

すると、事業成長に寄与したものが、かなり少ないことを実感されるのではないでしょうか。よくあるのは、起業に関するイベントや会合に参加することが目的化してしまい、週に何日も参加するばかりで忙しい割に具体的な成果が何もあがらないとか、展示会やセミナーなどを次々に行って顧客となりそうな先とのコンタクトをとることができたにも関わらず、その後のフォローアップがないまま時間が経ってしまい、実際の仕事につながらないといったものです。こうした無駄な努力をできるだけ少なくして、いかに結果に結び付けていくかが起業家にとっての労働生産性です。

 

労働生産性を向上させるには、大きく3つのアプローチがあります。

第一に、自分の行動のなかで結果につながっているものを抽出することです。これは、当面、自ら進めていくべき仕事でしょう。もちろん、より効率のよい方法を試行錯誤しながら、という条件はつきます。

次に、自分の行動のなかで結果につながっていないものを仕分けすることです。

ひとつは、やる必要のないこと、不要なことです。これは、やってはいけない仕事のリストに入れておいて、二度とやろうとはしないことです。このリストにどれだけ多くのことを入れられるかが、実は最も重要です。他の起業家の動き方を参考にしようとすれば、あれもこれもやらないとダメという状況に陥りがちですが、参考にしても実際にやることは絞り込み、絞り込んだことをやり切るようにしないと、労働生産性は一向に上がらないでしょう。

もうひとつは、本来やるべき仕事であっても、手がついていないとか、なかなか実行に移すことができていないものです。これは、第三のアプローチ、すなわち、他人に任せることが必要となります。

起業家は同時にCEOでもありますから経営者から現場担当者まで、一人でこなすのは、原理的に無理な話です。一時的で緊急避難的であれば対応できるかもしれませんが、それを日常化しては仕事になりません。

この点を自覚することが、個人事業から組織として事業が成長していく第一歩に他なりません。

 

(5)に続く

 

作成・編集:経営支援チーム(2017731日)更新