(4)人口10万人当たりの採択件数について
採択件数は、単純に多い少ないというよりも、たとえば人口との比較において採択件数の多寡を見るべきでしょう。
そこで、平成26~29年度の4年間の採択件数の合計を平成27年の人口(注7)で除した値(以下、採択率と呼びます)を比較した結果、次のことが明らかとなりました。
・ 全国平均では人口10万人につき、採択率は2.07件となっている
・ 最も高い値は徳島県の6.08で、石川・東京・宮崎・岡山・大分が人口10万人当たり3.0以上の採択件数を示している
・ 反対に採択率が低いのは、埼玉と千葉が1.0に満たないほか、茨城・青森・山形・岐阜・鹿児島・富山・長崎が1.5未満となっている
さて、表10で採択率が高い地域を見てみましょう。
表10:人口10万人当たり採択件数上位10県 |
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採択件数 |
人口 |
10万人当たり |
徳島 |
46 |
756 |
6.08 |
石川 |
45 |
1,154 |
3.90 |
東京 |
504 |
13,515 |
3.73 |
宮崎 |
41 |
1,104 |
3.71 |
岡山 |
66 |
1,922 |
3.43 |
大分 |
35 |
1,166 |
3.00 |
広島 |
84 |
2,844 |
2.95 |
福岡 |
150 |
5,102 |
2.94 |
熊本 |
50 |
1,786 |
2.80 |
京都 |
68 |
2,610 |
2.61 |
人口の単位は千人
もともと人口も多く法人も多いため、起業件数も多く採択件数も多いと予想される東京都は、実は採択率も全国平均よりも50%以上も高く、数が質を高めているのではないかと想像されます。
その一方、福岡や京都以外の地域、なかでも全国平均の3倍もの採択率を示す徳島県は、人口や法人数が少なく、起業件数も多いとは想像できません。特に人口が同程度で同じ四国の高知県(1.79)と比べるとその違いが目立ちます。
採択率が2番目に高い(全国平均の2倍近い)石川県についても、同様のことが言えます。
次に採択率が低い地域を見てみましょう。
表11:人口10万人当たり採択件数下位10県 |
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採択件数 |
人口 |
10万人当たり |
埼玉 |
66 |
7,267 |
0.91 |
千葉 |
57 |
6,223 |
0.92 |
茨城 |
31 |
2,917 |
1.06 |
青森 |
14 |
1,308 |
1.07 |
山形 |
14 |
1,124 |
1.25 |
岐阜 |
27 |
2,032 |
1.33 |
鹿児島 |
22 |
1,648 |
1.33 |
富山 |
15 |
1,066 |
1.41 |
長崎 |
20 |
1,377 |
1.45 |
神奈川 |
137 |
9,126 |
1.50 |
人口の単位は千人
この表からは、次の3点に気がつきます。
第一に、首都圏、特に東京に隣接する埼玉・千葉・神奈川の3県の低さが目につきます。もしかすると、これらの地域で起業しようとする人は、東京で事務所を構えるなどして、より顧客が多いと思われる東京で起業する傾向があるのかもしれません。確かに、東京に本社や営業拠点を設けて、その周辺の地域に工場・研究施設・開発拠点などの作業施設を設ける企業は、一般に数多く見受けられます。起業する場合にも、同様の傾向があるのかもしれません。こうした見方は、茨城についても当てはまるように思われます。
第二に、青森・山形・富山など東北や北陸で降雪量が多い地域が目立つ傾向があります。ただし、同様の地理的条件である石川県の採択率が高いので、地理的条件だけではないことは確かでしょう。
そして、鹿児島や長崎といった九州の一部の地域についても、宮崎・大分・熊本・福岡といった採択率が高いほうのリストに挙がっている県の近隣地域ということから、必ずしも地理的要因だけはないと思われます。
敢えて申し上げるまでもなく、各自治体の起業促進の政策や地元の金融機関や商工会議所などの経済団体など関連する諸機関の支援など、起業および創業補助金の採択をバックアップする体制の違いなどが採択率に大きく影響するであろうことは論を俟ちません。
とはいうものの、採択率の高い地域のすぐ近くに採択率が低い地域が存在するという傾向は、首都圏・北陸・九州に広く見られることから、起業という行為が集まることでその内容もレベルアップするのではないかという仮説は捨てがたいものがあります。
【注7】
都道府県別人口については、平成27年の国勢調査の結果(総務省統計局「国勢調査結果」)による。
作成・編集:QMS代表 井田修(2017年9月1日)更新