(6)今後の課題について
ところで、創業補助金の制度では、申し込みがあったものも採択された事例についても、代表者の属人的な情報(年齢、性別、最終学歴、家族構成、現職、これまでの職業経験、過去の起業経験など)は、個別にも集約されたものも公表されていません。
比較のために、日本政策金融公庫の実施している「新規開業に関する調査」(注9)を見てみましょう。ここでは、以下の5項目から、開業した人の属性を調査しています。
・開業時の年齢
・性別
・最終学歴
・開業直前の職業
・勤務キャリア(業界や職種の経験)
また、次のような質問もあり、起業した人(正確にいえば「開業して1年以内に日本政策金融公庫の国民生活事業の融資を受けた人」)が起業する前や1年程度を経た時点でもっている意識(の変化)を窺い知ることができます。
・開業したビジネスを選んだ理由
・開業時や回答時の苦労している点
・開業しようとした動機
・開業前後での知識や能力の変化
・現在の満足感
・今後の方針
この調査では、開業した会社についても、次のような質問があり開業の前後で比較することができるものもあります。
・アンケート回答時の開業からの経過月数
・開業時の従業員数
・開業した業種
・フランチャイズチェーンへの加盟の有無
・商圏の範囲
・回答時の従業員数
・開業費用の額とその調達先
・売上と採算の状況
これらの質問から業種や開業費用にまつわる傾向などを推測することもできます。
このうち、開業費用について見ると、平均値も中央値も長期的に漸減傾向にあり、2016年度では中央値で670万円と3年ぶりに700万円を切っています。特に自己資金については平均で320万円となっており、金融機関からの借入額の平均931万円に対して3分の1程度となっています。
開業資金全体が1400万円強と2016年度とおおむね同程度の1998年について見ると、自己資金435万円に対して金融機関からの借入額が723万円となっており、自己資金は借入のほぼ6割に相当していました。つまり、この間に自己資金調達力は半分近く低下したことは否めません。
こうした傾向を目にするにつけ、起業プロセスにおいて創業補助金の果たすべき役割は大きいものがあると思われます。
ただ、創業補助金は現状では採択された起業者も申し込んだ起業家についても、その属性などが公表されていないため、その政策目的がどの程度実現されているのか不明です。
たとえば、若手や女性の起業をバックアップしようとしているとしても、実際に申し込んだ人や採択された人の年齢分布や男女比などのデータが明らかにならなければ、政策目的に沿って運営されているかどうかは、外部から判断できません。
さらに、属性情報が明らかになること以上に、創業補助金が本来の目的であるはずの「創業」を実現し、多少なりとも雇用の拡大につながっているのか、事後の検証も必要です。そのためには、5年とか10年といった一定の期間、補助金を受けた起業家や会社について、その経営状況をトラッキングするような調査も重要でしょう。
もちろん、こうしたトラッキング調査は、創業補助金に限ったことではなく、広く様々な補助金制度や起業に対する優遇措置のある融資制度などについて、フォローアップ・プログラムとして求められることは、改めて申し上げるまでもありません。
【注9】
以下のサイトに、毎年の新規開業に関する調査の結果や、その年の特別調査(2016年度は「経営経験者の開業」の実態についての調査)の結果などが公開されています。
https://www.jfc.go.jp/n/findings/eb_findings.html
作成・編集:QMS代表 井田修(2017年10月3日)更新