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ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織

(5)進化型(ティール)組織を作り出すには

 

 本書は、自主経営(セルフ・マネジメント)・全体性(ホールネス)・存在目的(エボルーショナリー・パーポス)という3種類の突破口(ブレイクスルー)から、その特徴を描いていますが、最後に進化型(ティール)組織を作り出したり、既存の組織を進化型(ティール)組織に作り変えたりしていくポイントを述べています。

そこで最も重要なのが、経営トップ(CEO)と組織のオーナーです。その果たすべき役割が従来の組織とは大きく違うことを、当人たちが自覚的に理解して、従来のCEOや取締役および株主の役割や行動を自ら変えていくことが求められます。

 

組織の運命を左右するのは、経営トップと組織のオーナーの世界観だけなのだが、かなり高い壁であることは間違いない。(中略)ミドル・マネジャーやシニア・マネジャーは何ができるだろう? もちろん、具体的な事例を示したり、実際の進化型(ティール)の慣行をとり入れていくべきだとCEOと経営チームの説得を試みることはできる。しかし残念なことに、私はこの方法もそれほど有効とは思わない。なぜなら、リーダーたちに進化型(ティール)の見方を無理強いしているのと変わりないからだ。発達段階を上がるのは、複雑で、神秘的で、精神的なプロセスだ。それは自らの内側から起こるもので、どんなに素晴らしい主張をもってしても、外から強制されてできるものではない。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」396397ページより)

 

 このように断言されてしまうと、進化型(ティール)組織で働きたいと思っても、まだまだ進化型(ティール)組織が多く存在するとはいえない以上、一般の人はなかなか機会に恵まれないことになります。

現実には進化型(ティール)組織を自ら謳って採用活動を行う企業にそうそうお目にかからないということは、自ら起業するなどして創業者=経営トップとなるのが、進化型(ティール)組織で働く近道といえるかもしれません。

 

CEOが果たすべき、極めて重要な、二つの新しい役割があるという点だ。進化型(ティール)の運営を行うこと、そして、進化型(ティール)の行動の模範を示すための空間をつくって、維持することだ。それ以外の点では、CEOは社員と何ら変わるところはなく、必要なものは何かを感じ取り、プロジェクトに関わり、助言プロセスを用いて判断を下す。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」400ページより)

 

進化型(ティール)組織の経営トップというのは、従来のCEOと異なり、アメリカ企業社会で典型的に見られるヒーローとしてのリーダー=CEOでもなく、古い日本企業に見られたお神輿として担がれる存在のサラリーマン経営者でもなく、ましてや独裁的独善的なオーナー社長でもありません。

CEOこそが、自主経営(セルフ・マネジメント)のチームの一員として働き、自分だけでなく社員も安心して本音で語ることができる職場を実現し、組織の存在目的(エボルーショナリー・パーポス)を社員とともに振り返ってみることになります。

ここでは経営トップは、対外的に会社を代表する役割であるとしても、対内的には進化型(ティール)組織を運営する社員の一人に過ぎません。そうはいっても、CEOが自ら進化型(ティール)組織で働く人の「よき見本」となることは不可欠です。この見本が倫理的にも実務的にも正しいものとして機能しない限りは、進化型(ティール)組織はあり得ません。

 

組織を進化型(ティール)の視点から運営するための二番目の条件は、CEOだけでなく、取締役会も進化型(ティール)のレンズで世界を見なければならない、という点だ。(中略)調査した企業の中の二社については、新しい運営方法を始めたにもかかわらず、従来型の経営方式に戻ってしまった。いずれも、取締役会が創業者と同じ目線で世界を眺めることができず、進化型(ティール)の経営方式をとりやめたのだ。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」420421ページより)

 

経営トップに経営を委ねるのが取締役会である以上、経営トップを選び、その報酬や評価を決める取締役会もまた、進化型(ティール)組織について理解し、その運営について支持する必要があります。取締役会の運営そのものも、進化(ティール)型組織の運営がなされるべきかもしれません。

というのも、事業組織がいくら進化型(ティール)組織の運営を実現しているとしても、取締役会が従来の組織と同様の運営の下にあるとすれば、そこは依然として達成型組織であったり多元型組織であったりする以上、財務目標の縛りが厳しかったり、さまざまなステークホルダーの思惑が蠢いていたりするので、経営トップが全体性(ホールネス)を感じながら仕事をする状況にはないでしょう。その結果、事業運営も進化型(ティール)組織の運営から離れて従来の組織運営と変わらないものに移り変わっていくことが十分に予想できます。

 

今日の世界では株主が企業を所有し、オーナーとして会社が何をすべきかを自由に選ぶことができる。多元的(グリーン)組織の観点に従うと、株主は数多くのステークホルダーの一つにすぎず、株主の力は従業員、顧客、サプライヤー、地域社会、環境といったそのほかのステークホルダーに与えられた発言権によって制約を受けるはずだ。進化型(ティール)組織の視点に立つと、株主の力は制約されるべきではないが、組織の存在目的のほうが超越した存在なのだ。(中略)たとえばホラクラシ―は、取締役会が採用でき、将来の株主までも拘束する「憲法」の草案を作り上げた。この草案では、株主は財務に関する事項で正当な発言権を得るが、戦略を一方的に押しつけたり、組織を従来型の経営慣行に戻したりすることは禁止されている。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」427ページより)

 

 進化型(ティール)組織を運営し続けていくには、こうした意味での経営の民主化が必要とされます。さきほど引用したなかで言及されているように、進化型(ティール)組織として運営されていたものが、オーナーシップの移動をきっかけに従来の組織運営に変わってしまった例もあります。

 本書は進化(ティール)型組織の考え方や運営手法を解説する本でありながら、ある意味では失敗と呼ばざるを得ないケースについても紹介するなど、著者がこのテーマに取り組む姿勢についても誠実さが感じられます。

 

 

文章作成:QMS代表 井田修(2018625日更新)