「働き方」改革を巡る座談会(4)~見習うべきモデル~
以下の座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が経営される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。
ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。
Aさん(男性40歳代):外食サービスを創業。現在もCEOとして複数の業態で多店舗展開の陣頭指揮を執る。
Bさん(男性50歳代):ある地方でマルチ・フランチャイジーを経営。外食、コンビニエンスストア、事業所向けサービス、教育関連サービスなどをフランチャイジーとして展開。
Cさん(女性30歳代):IT関連サービスを創業。観光や宿泊などに特化してビジネスを展開している。
Dさん(女性40歳代):製造業の会社を父親より引き継ぎ、CEOとして大きく業態転換を図った。現在、一種のSPA(製造小売業)として事業展開中。
Eさん(男性30歳代):建設関連の会社で新規事業を立ち上げ、その後、立ち上げた事業をスピンオフしてCEOに就任。現在、建設関連のITサービス会社を経営。
― 現状を把握したところ、問題があって「働き方」を改革しようとして、参考となる事例とかモデルといったものはありますか。
Dさん 私は、HILLTOP(注5)とかコミー(注6)とか、中小企業のメーカーでユニークな取り組みをされているところは参考にさせていただいています。そういう会社では、実は相当長い間、職場環境や仕事のやり方などを改革されてきています。多分、10年単位で取り組んでこられたようです。
Cさん 一時的な改革というより、企業のありかたそのものを変化させてきたみたいですね。
Dさん もともと製造業はバブルの頃には3K(きつい・きたない・危険)職場と揶揄されていて、採用もできませんでした。それを何とか変えたいと思われた経営者のなかから、成功例が生まれてきました。
Bさん 何か共通点とか、うまくいく秘訣みたいなものはあるのでしょうか。
Dさん 敢えて言えば、ものつくりの職人から脱して、多能工化したりシステム化したりして、物理的にものを作ることは容易にして、人間は作業者から問題を解決する人に変えてきているような気がします。
そうしないと、製造コストの面で海外との競争に負けてしまいますし、取引先から頼りにしてもらうには、取引先が本当に困っていること、それには無理難題もあるとは思いますが、そういう無理難題にこそチャレンジして何とか解決策を編み出して、そこから付加価値を生み出すことに仕事を再定義した会社が生き残っているように思います。
Bさん ご指摘のことが、本当の「働き方」改革ですね。
Aさん それはわかりますが、仕事を再定義といわれても、接客は接客ですし…
Bさん うちは働き方がどうこう言う前に、坪効がまず問題です。
― 坪効といいますと?
Bさん 店舗1坪当たりの月商です。フランチャイジ―としていろいろな業態を運営していますが、共通のものさしは坪効です。人の配置は業態によって異なりますし、自販機ビジネスのように、極端にいえば自社で人を配置しない事業もありえます。
Dさん 労働生産性とともに、資本生産性や資産稼働率も経営効率を見る上で重要な指標です。ただ、同じ坪効を上げるにしても、営業時間が短いほうがよくないですか。売上が同じでも営業時間が短く人件費が少ないほうが経営効率はいいはずです。
Bさん 人件費と物件費の比較の問題ですね。電気代や設備の減価償却費よりも人件費が高くなったのも事実です。どうも、人件費を単なるコストと捉えすぎているのかもしれません。さきほどのお話のように、人が付加価値を生み出すようなチャレンジをするように、人を雇うということを見直さなければいけないのでしょう。
Aさん うちあたりでは、まだまだ作業担当として人を雇うのが大半です。
― 「働き方」改革の実例というと?
Cさん 旅行や観光の業界で一例を申し上げれば、陣屋さんのケース(注7)が典型的でしょう。業績不振を脱するのに、仕事のやり方をゼロから見直して、週休3日などの「働き方」改革を進める一方で、仕事のやり方を根本的に見直して、IT化できるところは次々にシステム化したり、営業効率を上げるために休業日を増加させたり、さまざまな工夫をしていて参考になるところが多いのではないでしょうか。
Aさん 外食産業では、「働き方」改革といっても、人手不足への対応、残業抑制、特に店長の長時間労働抑制といったところがテーマです。いまお話に出た陣屋さんの考え方や方法論は外食ビジネスにも使える気がします。
Bさん 小売業でも、営業時間や営業日数を無駄に費やさない方法はあるはずです。
― 業界や業態に関係なく「働き方」を改革する視点はありますか。
Eさん たとえば、中国企業とやりとりすると、本当にレスポンスが早いですね。経営者が部下にスマホで指示して、それがすぐに文書化されて日本にいる私の方にも送られてきます。いまどき、会議や稟議などで意思決定に週や月単位の時間がかかっていてはダメです。まずは、経営のスピードをアップするにはどうしたらよいか、考えてみてもいいと思います。
Aさん 中小企業は経営者が変われば会社もすぐに変わります。自戒を込めて思いますが、経営者が新しいことを学んで、それをいち早く活かせばいいのです。中国でもインドでも、学ぶべき点がたくさんあります。
Cさん そうですね。経営者が働き方を変えていかなければ、結局は何も変わらないでしょう。うちもそうですが、特にサービス業が大きく変わらないと、小手先の残業対策でお茶を濁すことになりかねません。
Eさん よく紹介されるのは、サイボウズですね。経営改革の進め方を研修パッケージにして経営塾を始めるみたいです(注8)が、金と時間をかけてでも、まずは経営者が学ぶのが筋ですね。
Dさん 経営者が会議やメールなどに時間を取られていてはダメです。まして中小企業やベンチャーは、経営者が率先してITを活用してどこでも仕事を処理したり、社員が付加価値を生み出すことができる環境を整備したりすべきでしょう。
【注5】
京都府宇治市にある機械加工や装置開発を手掛けるHILLTOP株式会社のこと。詳しくは同社のHPを参照してください。
【注6】
埼玉県川口市にある産業用ミラー(鏡)のメーカーであるコミー株式会社のこと。詳しくは同社のHPを参照してください。
【注7】
元湯陣屋(旅館の詳細はHP参照)の経営改革と「働き方」改革については、以下に紹介記事があります。
https://www.tkc.jp/cc/senkei/201502_interview
以下の旅行業界誌にも紹介されています。
http://www.ryoko-net.co.jp/?p=27816
http://www.ryoko-net.co.jp/?p=28436
また、陣屋コネクト(陣屋が開発した宿泊施設向けのクラウド型経営管理システム)に女将自身のブログがあります。
https://journal.jinya-connect.com/authors/okami
【注8】
サイボウズが始める経営塾については、以下に紹介記事があります。
https://president.jp/articles/-/25929
文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(2018年9月3日更新)