バート・レイノルズの訃報に接して
先週6日、米国の俳優で映画監督でもあったバート・レイノルズ氏が心不全のため82歳で死去しました(注1)。
氏は70年代後半から80年代前半に4度も「マネーメイキングスター(ハリウッドで最も興行収入をあげた俳優)」の地位を獲得しました。ちなみに今年はジョージ・クルーニーが最も稼いだ俳優だそうですが、その稼ぎは映画出演ではなく、所有していたテキーラのブランドの売却によるものだったそうです(注2)。
個人的に見たことがある作品に限っていえば、アメリカンフットボールの選手だった経験が活きていた「ロンゲスト・ヤード」は、さすがにはまり役でした。主演と監督を務めた刑事ものの「シャーキーズ・マシーン」やカーアクションの「キャノンボール」なども、アクションと明るいキャラクターが活かされていた記憶があります。
しかし、単なるアクション俳優ではないことを主張するかのように、ジェイムズ・ボンド(「007」シリーズ)やハン・ソロ(「スター・ウォーズ」シリーズ)のオファーを断る一方で、ほぼ同時期に「結婚しない族」などのコメディにも出演しました。
こうした例は、後に他のアクション俳優にもよく見受けられるようになりました(注3)。
これらの俳優としてのキャリアチェンジは、必ずしも成功したと言えるものではありませんでした。実際、80年代半ば以降は、マネーメイキングスターの座に返り咲くことはありませんでした。
アクション俳優として、またセクシーな魅力に溢れる男優として、その地位が確立してしまったが故に、そこからの方針転換は本人の意図や能力だけでは如何ともしがたいものがあったのかもしれません。彼のファンや出演オファーをだす映画関係者からすると、敢えて確立していないキャラクターに挑戦するよりも、これまで成功してきた役柄を演じ続けて欲しいし、その姿を見たいという要望こそが強かったのではないでしょうか。
こうしたことはハリウッド俳優のキャリアに限ったことではありません。一般の企業社会においても、ある職種で実績を上げた人に求められるのは、通常、その職種でのさらなる成功です。営業担当として高い成果を上げてきた社員に、本人が特に強く希望しない限り、いきなり管理部門や開発部門の仕事を任せる組織はそうそうないでしょう。昇進させるにしても、営業部門の管理職というのが普通でしょう。
もしかすると、本人は営業一本のキャリアに飽きてきているのかもしれません。内心は、別のキャリアにチャレンジしたいと思っていることもあるでしょう。
それを自ら手を挙げて挑戦する人は、そうそう多くはありません。個人としては誰でも失敗は避けたいものですし、仕事をしてもらう組織の側も、既に成功している社員にゼロから別のキャリアを歩む機会を提示する余裕はありません。その前に、未だこれと言って誇れるような実績を上げていない社員をどうするのか、というほうが人事上の大きな命題となっているのが、ごく一般的な組織でしょう。
そうしてみると、全盛期にキャリアチェンジを図っていったバート・レイノルズ氏は、本当の意味で、自らに挑戦し、それを俳優として生涯続けていた人だったと思われます。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
http://rollingstonejapan.com/articles/detail/28966
https://www.cinematoday.jp/news/N0103428
【注2】
もとはフォーブスの報道によりますが、以下のように転載されています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180908-00010001-binsider-int
【注3】
たとえば、「ロッキー」「ランボー」「エクスペンダブルズ」のシリーズでアクションスターの代表と想定されるシルベスター・スタローンは「刑事ジョー ママにお手上げ」でコメディに挑戦したり、「パラダイスアレイ」や「ステインアライブ」で監督にも挑んでいます。
また、「コナン・ザ・グレート」「ターミネーター」のシリーズや「プレデター」「トータル・リコール」などで知られるアーノルド・シュワルツェネッガ―は「キンダーガートン・コップ」や「ツインズ」といったコメディにも出演しました。
作成・編集:QMS代表 井田修(2018年9月10日)