ダグラス・レインの訃報に接して
先週、カナダ人のある俳優が90歳で亡くなりました。
シェイクスピア劇なども演じたことがある彼の名を広く長く知らしめたのは、映画「2001年 宇宙の旅(原題“2001:A Space Odyssey”)」で木星探査宇宙船ディスカバリー号をコントロールするコンピューター HAL 9000 の声に扮したことでしょう。
この映画をご覧になったことがある方は、「これぞまさにSF映画」と呼びたくなる映像の数々とともに、人間と自然に会話しながらもどこかに機械的なものを強く感じさせるHAL 9000の存在も、見終わった後に強く記憶に残るではないでしょうか。
映像上は、まったく動くことはありませんから、機械(コンピューター)であることは自明なのですが、宇宙船のクルーと会話する際のダグラス・レインの声は、もともと人間が発している声ですから人間的である部分があるにしても、どこまでも平板で感情がないように感じられるものでした。
さて、スマートスピーカーが実用化され、コンピューターやAIなどと人間が自然言語でインターフェースをもつようになりつつある現在、HAL 9000 のような声と口調は必ずしもスタンダードとはいえないものの、フィクションとしてはコンピューターやAIが自然言語を話すモデルのひとつとなったのかもしれません。
偶然にも、2018年はダグラス・レインが HAL 9000 の声を担当した「2001年 宇宙の旅」の公開から、ちょうど50年が過ぎました。
この50年の間に、宇宙開発については、映画で提示されているような惑星間の有人航法は実験段階にすら達していません。とはいえ、AIと人間がインタラクティブにコミュニケーションを取ること、たとえばAIとロボティクスを連動させて人間と機械が将棋を指すところ(注2)までは、テクノロジーは着実に歩みを進めています。
ちなみに、今年に入り、Baxter(注3)の製造販売元が突然、廃業したり、ハウステンボス内の変なホテルでは売りのひとつであったロボットの大量導入を大幅に見直すこと(注4)に方針を転換したりするなど、ロボットの導入・普及に見直しの動きも出ています。
今後もこうした紆余曲折はあるものの、AIやロボットは確実に進歩して、日常生活に広く普及していくでしょう。その際に、人間と機械とのインターフェースに自然言語を用いるのであれば、機械側の“声”にダグラス・レインの声を、オプションでいいので、必ず選択できるように入れて欲しいと思うのは、筆者だけでしょうか。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
https://www.cinematoday.jp/news/N0104858
https://www.gizmodo.jp/2018/11/gouglas-rain-dies-at-90.html
【注2】
映画「2001年 宇宙の旅」では人間のクルーとHAL 9000がチェスを指すシーンがありました。
【注3】
Rethink Robotics 社製の研究室用のロボットのことで、モニター画面が「顔」に相当しており、そこに表情を示すことができたり、人間が指で示すとその動きをセンサーが受け取って取ってほしいものを取ってくれたりするといった機能があるそうです。
なお、Rethink Robotics 社の廃業については、次の記事があります。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181122-00010000-wired-ind
【注4】
変なホテルのロボット導入の見直しについては、次のように報じられています。
https://www.fnn.jp/posts/00380080HDK
作成・編集:QMS代表 井田修(2018年11月24日)