「2001 キューブリック クラーク」に見るリーダーシップとイノベーション(1)
昨年は映画「2001年 宇宙の旅」(注1)が公開されてから50年が経つ記念すべき年でした。その映画公開日に合わせてアメリカで出版されたのが、これからご紹介する「2001 キューブリック クラーク」という、映画製作のドキュメンタリーの本(注2)です。
この本は、映画の監督兼製作のスタンリー・キューブリックと小説版の作者であるアーサー・C・クラーク、そして映画製作に関わった多くのスタッフやキャスト及びその家族などが、1964年冬から1968年春にかけてどのようにこの作品の製作に当たっていたのかを、当事者のメモを含む数多くの資料や関係者へのインタビューなどからドキュメンタリーとして再構成したものです。
20世紀を代表する映画作品がいかに製作されていったのか、その細部を知ることができるので、映画及び映画史を研究する上で重要な書籍であることは間違いありません。それに止まらず、「2001年 宇宙の旅」というイノベーションの塊のようなものを生み出し、映画市場にSFというジャンルを確立した画期的なプロダクトを作り出した、ベンチャー的なプロジェクトの詳細を描いたものとして読むことが可能なものでもあります。
実際、この本の中からベンチャー経営を考える上でのヒントを、読みながら気がついたものだけでも、ざっと挙げてみましょう。
<組織体制作り>
● 知のスパーリング・パートナーを確保する
● スポンサー兼後ろ盾を得る
● 各分野の専門家を手早く集める
● 未経験者でもすぐに戦力化する
<リーダー個人のキャラクター>
● 仕事は任せて、ダメ出しを徹底する
● 限界を超えて要求する
● 憎まれない性格
● 去っていくものは追わない
● 自ら最も働く
● 一貫性
<マネジメントのポイント>
● ビジョンを形作るにはとにかく粘る
● 期限はあってもないものと同じ
● 機密保持
● 使うべき資金と使わざる資金の峻別
● 業界の常識に囚われず、何が最も効果的か追求する
● 既存の勢力の評判は気にしない(若い世代に受け入れられるかどうかが、イノベーションの勝敗を分けるポイント)
● 捨てるもの・諦めるものが必ず生じる
次回以降、これらのヒントを本書に描かれているエピソードを交えながらご紹介していきます。
【注1】
昨年末に発売された4K/BD版の予告編だけでも、この映画作品の一端は見てとれます。
【注2】
このコラムでは、「2001 キューブリック クラーク」(マイケル・ベッソン著、中村融・内田昌之・小野田和子訳、添野和生監修、2018年早川書房刊の日本語翻訳版)によります。
作成・編集:QMS 代表 井田修(2019年3月5日更新)