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MBAを活用するには(1)

 

MBAを活用するには(1 

 

先日、アメリカのある大学院でMBAを取得して帰国した人から相談を受けました。 

「頑張ってMBAを取得してきたのに、元の職場に戻ってまた国内営業を担当するんじゃ、留学してきた意味がないですよ。社命で行ったんだから、MBAを活かす仕事が待っていると思ったんですけどねえ。やっぱり、転職するほうがいいでしょうか?」 

実際すぐに転職するかどうかはともかく、こうした不満をもつ人は少なくないでしょう。MBAホルダーといっても、希望する部署や職種を申告したところで、その部署や職種に異動できるとは限りません。むしろ、そうした希望が実現しない人のほうが多いのかもしれません。その結果、MBAを取得するや否や、勤めていた会社を辞めて転職したり自ら起業したりする人が相当数に上るものと思われます。 

なかには、MBA取得だけでは飽き足らないのか、他の修士号や博士号を取得する人も珍しくはありません。 

 

既に欧米では、MBAとサイエンスやエンジニアリングの修士または博士号を取得していないとCXOクラスの経営幹部のポジションには事実上就けないケースもありますし、病院や医療サービス系の組織であれば医学博士かつMBAホルダーというのもよく見られます。 

以前から、通常は弁護士資格を有するロースクール出身者については、経営幹部、特に法務部門責任者やゼネラル・カウンシルからCEOへ昇進するケースが見られました。近年は、MFAMaster of Fine Arts、美術学修士)など、一見、企業経営とは関係がないのではないかと思われる修士号取得者が、デザインやリベラルアーツ系の知見を企業経営に導入できるものと期待されて、経営幹部に採用・登用される例も増えているようです。 

 

ただ、こうした動きは日本ではまだまだ散見されるといった程度ではないでしょうか。 

タレントマネジメントとかラーニングオーガニゼーションといった考え方が出てきてから、既に30年を超える時が過ぎています。とはいえ、MBAを実際の企業経営に活用することに長けた会社というものに、外資系企業はともかくとして日本企業では、お目にかかった記憶がほぼありません。 

 企業経営の研究者や人材コンサルタントなどからは、MBAを活かせない企業経営のありかたにこそ問題があるという意見をたびたび耳にしてきました。なかには、MBAをうまく活かすことができないような経営の体質や仕組みが、グローバルな競争環境で日本企業が勝てない原因とまで語るような人もいます。 

 一方、現役の経営者や人事責任者からはMBA不要論も根強く残っています。自ら若い頃にMBAを取得し、会社として社費留学のプログラムを長年、運用してきている経営者でさえ、MBA取得のための留学は新卒採用対策のひとつと言って憚らない人もいます。 

 海外、特に欧米のMBAについては、留学経験ということでの評価も加わって、それなりに価値を認めるところがまだあります。一方、国内のMBAについては、その価値を疑問視した扱いとなっているのではないでしょうか。実際、カフェテリアプランなどのように教育研修プログラムが社員本人の自由選択式となっている場合でないと、会社からの学費補助やスクーリングへの支援などは受けられないことが多いようです。 

 個人のレベルでは、MBAで学んだことを企業経営に活かしている経営者も少なからずいることでしょう。しかし、企業の経営システムや人事プログラム、組織風土や人事慣行といった面では、MBAがうまく活用されるようになっている企業は、まだまだ少ないでしょう。 

 その理由や背景にある事情などを次回以降、考えてみましょう。

 

(2)に続く

 

  作成・編集:人事戦略チーム(2020127日)