ファクトフルネス(8)

 

ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣~(8

 

(8)小さな変化は必ず起こっている

 

パターン化本能と関連して、一度確立されたパターンなどの思い込みの内容は時間が経ってもそうそう変わらず、下手をすれば一度できた思い込みがより強化されていくこともあります。そうなると、現実は少しずつでも変化していることが圧倒的に多いので、ある瞬間に変化の大きさに驚かされることがあります。そこで変化に驚いて、変化を認めることができればいいほうで、変化を認めず、「そうはいっても〇〇は○○だから、変化(成長、改革、変身)するなんてありえない」といった態度を取るほうが多いのではないでしょうか。 

これが、本書で第7の思い込み(本能)とされる宿命本能です。 

 

アフリカの国を全部いっしょくたにしてアフリカはヨーロッパに絶対追いつけないという見方は、宿命本能に典型的な現れだ。それから「イスラム世界」は「キリスト教世界」と根本的に違う、というのもよくある勘違いだ。宗教であれ、大陸や文化や国家であれ、根強い「価値観」と伝統のせいで未来永劫変わらない(か、変わるはずがない)、という人は多い。言い回しは違っても、考え方は同じ。一見なんらかの分析があるように見える。でもよく見ると、たいていは本能にだまされている。理屈があるようで、実はただの思い込みなのだ。(「ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ~」218ページより)

 

本書で宿命本能の例として紹介されているのは、出生率や子供の数、家庭や家族のありかた、開発や発展のスピードといったことに関して、ヨーロッパやキリスト教の国家が優越的であり、非ヨーロッパや非キリスト教の国々はいつになってもヨーロッパやキリスト教の国家に追いつくことはできないというものです。 

こうした思い込みの例として思い浮かぶもののひとつに、近頃ではホワイトパワーという白人優越主義の標語があります。確かに、白人が黒人を奴隷として扱ってきた歴史がありますし、21世紀になっても、白人のキリスト教社会が黒人やイスラム教徒の世界や中国よりも優れているはずだと思い込みたい心理も推測できないではありません。 

ただ、それは、自らの現状の不平不満の原因から目を逸らして昔話的なストーリーに逃げているに過ぎないかもしれませんし、そもそも最新のものにアップデートされた情報やデーに基づく議論や見解の表明でもありません。 

この宿命本能に囚われている人の話は、話を聞く相手が同じ宿命本能に囚われている人であれば、共感を得ることもできますが、相手のことを対象とする話であれば、相手から反発や蔑みを受けたり、本書の著者が受けたように憐みを施されたりするでしょう。 

つまり、「(こんな時代遅れの話をして私たちの現在の姿を知らないなんて)この人もまた、口では尤もらしいことは言っても、今の私たちの姿を知ろうともしないし、現に知らない。多分、この人は私たちと対等な関係をもちたくないのだろうし、そもそも私たちのことに心からの関心を抱いていないのだろう」というようなものです。 

 

ファクトフルネスとは……いろいろなもの(人も、国も、宗教も、文化も)が変わらないように見えるのは変化がゆっくり少しずつ起きているからだと気づくこと。そして、小さなゆっくりとした変化が積み重なれば大きな変化になると覚えておくこと。 

宿命本能を抑えるには、ゆっくりとした変化でも、変わっているということを意識するといい。(「ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ~」236ページより)

  

ここで記されている“ゆっくりとした変化でも、変わっているということを意識するといい”ということを実感するには、テレビのクイズ番組やネット動画などでよく出てくるアハ体験の動画(注3)を見てみるのがいいでしょう。 

風景や室内など動いているものが何もない静止画の一部が徐々に変化していき、いつの間にか全く異なるもの(色、形、大きさなど)になってしまいます。どこかが変化しているはず、と思って画像に注意を集中してみても、変化しているところがどこか全くわからず、最初と最後の画像を見比べてようやく変化していた箇所がわかるようになった経験を、大概の方はお持ちでしょう。 

目の前で起こっているわずか数十秒程度の変化でも気づかないとすれば、特に注意も払わず、年単位や十年単位で変化していること、それも人々の日常生活やライフスタイルといった注意を惹きにくい事象についてということであれば、気がつくほうが異常と言うべきことかもしれません。 

したがって、この宿命本能というものは、他の思い込みにもまして、誰もが必ず陥っている思い込みであると心に刻み込んで対処する必要があります。 

 

【注3

 検索サイトで“アハ体験 画像”と検索してみると、数多くのサンプルやクイズが出てきます。 

 

(9)に続く

 

文章作成:QMS代表 井田修(202076日更新)