コロナ時代のマネジメント(5)
仕事のやりかたが変われば、組織や人のマネジメントの方法やルールも変わります。一例を挙げれば、雇用契約そのものからしてテレワークを原則とするものに変更することが要請されます。契約内容ももちろんですが、契約の方法も紙とハンコやサインをベースとしたものから、電子認証や電子ファイルをベースとしたものに変わります。
そして、組織や人のマネジメントの方法やルールが変われば、自動的に組織・人事管理への適切なアプローチも見直すことになります。もう少し具体的に言えば、組織の機能や構造をよりフラットで柔軟性に富むものとし、事業環境の変化やビジネスのスピードに対応できるように作り直すこと(文字通りのリストラクチャリング)が必須です。
なにしろ、感染症の流行は日々変動するものです。それに伴って政策パッケージも生煮えのまま実行に移されることを前提に、ビジネスもそのプロセスや構造がフレキシブルに即時に対応できるものが求められます。
そうした状況である故に、一般の社員の仕事以上に管理職の仕事内容を大幅に見直すことに迫られます。担当分掌にける仕事の定義や配分に始まり、組織や個人の業績指標を再設定し、業績評価プロセスを見直すなど、仕事を進めるプロセスそのものを再構成しなければなりません。
大きく言えば、自社にとっての成果とは何かを定義し直すことが求められるわけです。経営者が求める結果さえ出せばいいと思っていても、求める結果自体が途中で変わってしまうのです。
昨日は居酒屋だった店が、今日は弁当や総菜を製造販売する弁当屋になり、明日は店を畳んでランチの移動販売業になるかもしれません。その次には、飲食に関連する事業を止めて、デリバリーに特化して物流代行の会社となるかもしれません。こうした状況で成果を定義するならば、とにかくサバイバルするということでしょうか。
一方で、多くの企業は自社単独ではサバイバルも難しいでしょう。そうであれば、ICTをより幅広い業務により高度に活用していくことで、出張や営業などの対面で仕事をすることに代替していくことが求められる以上、他の社員や業務委託者やパートナー企業の関係者などとの協業をうまく進めてプロジェクトを成功させるといった成果が要求される企業も多くなるでしょう。
そこでは、短いサイクル(毎日とかひとつひとつのタスク毎に)で評価するのは当然のことならざるを得ません。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)とは関係なく、事業環境の変化が急激な時代であり短いサイクルで仕事が変化するので、業績評価も短い時間軸で行うことになります。誰(自分でどこまで、他の人のサポートは?)が何をいつまでにどのようにするのか、事前に(毎日)設定して、1日終わったところで自己評価をするくらいは最低限、行わなければならないでしょう。
そのうえ、リモートワークともなると、管理職の仕事の大半は、仕事の設定と日々の結果確認、その間でのサポート(やりかたを助言したり協力者や参考となる情報を紹介したりするなど)など、タイミングよくコミュニケーションを行うこととなりそうです。管理職こそ、リモート・コラボレーションの名手でなければ務まりません。
これまでは、MBWAのように、目の前で仕事をしている人々が存在することを前提に、経営者や管理者は言語及び非言語で従業員とコミュニケーションをとることができました。これからは、目の前にいない従業員と、ビジネスを取り巻く環境の素早い変化に柔軟かつ迅速に対応するため、以前よりももっときめ細かいコミュニケーションをとることが必要となります。それも言語と映像を重視したコミュニケーションのスタイルが求められます。紙と非言語を偏重した従来型のコミュニケーションではマネジメントそのものが機能しません。
同時に、現場で変化に即応するには、従業員の自主性や現場での判断に委ねることが不可欠です。従業員にとって余計なお世話にならないように、押しつけがましくないコミュニケーションのスタイルも求められます。
つまり、職場での仕事の組み立てを再構築するのに、コミュニケーションのリエンジニアリングが必要です。特に管理者と部下の間で、管理職にリモート・コミュニケーションの技術を急いで身につけてもらうことが喫緊の課題です。
こうした仕事の再定義・再設計は職場内だけの問題ではありません。個々の職種においても、それぞれの再定義が必要です。
顧客などと直接、接してきた販売職やサービス職(飲食・医療・エンターティンメント・教育・交通・宿泊など個人と接点をもってサービスを提供するもの)などは、その職種そのものが消失することも含めてゼロからの見直しに迫られています。実際、販売員や現場でのサービススタッフを数多く抱えてきた業種では、これまでの販売手法そのものをゼロから見直し、店舗販売を全廃してネット販売のみに切り替えると公表した企業も、アパレルを初めとして続出しています。
その際に忘れてならないのは、直接的な接触が厳しく制限される状況で顧客に提供すべき価値は何なのか、改めて定義し直すことです。単にモノを売るという行為だけであれば、人間が直接関わる必要性はもともと低かったはずで、それがCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)を契機として明確になっただけのことです。
ことは販売職やサービス職だけではありません。研究職や開発職でも同様です。特にプロジェクトチームで運営される仕事では、場所の拘束があってもなくても共同作業が基本となります。これまでは同じ部屋で行っていた共同作業が空間的に広がって、出張や転勤がなくてもリモートでひとつのプロジェクトに参画することになります。
経理や人事、総務や法務、業務(生産、在庫、物流など)管理といったいわゆる事務職についても、仕事の再定義は必須です。在宅勤務やテレワークが一般化して明らかになったように、事務職の仕事の実際は担当者や派遣社員や業務委託者などが担っており、一部の管理職を除けば実務上の貢献が見られない管理職や担当レベルの正社員が相当数、存在しています。そうした人たちを郵便物の受け取りやハンコ押しだけに雇っておくわけにはいきません。事務職こそは、(人員整理の意味での)リストラが不可避ですし、組織をスリムにしてコスト面でも時間面でも効率を一気に向上させる絶好の機会が出現していると、経営者は認識すべきでしょう。
作成・編集:経営支援チーム(2020年7月28日)