組織 「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー(1)
(1)教科書通りに組織はデザインできるか
今回ご紹介するのは、建築デザイナー、経営コンサルタント、経営者、(社会システム・デザインの)研究者として、組織デザインを追究している著者独自のアプローチを書き記した本です。
組織 「組織という有機体」のデザイン
28のボキャブラリー
(横山禎徳著、ダイヤモンド社より2020年3月発行)
書名からは、組織をデザインする上で求められるルールや原則、用いられる手法や分析ツール、組織デザインの進め方、担当者に必要なスキルやマインドセットなどを論じているものと想像されるかもしれません。
実際、それらにも言及しているのですが、最も強く主張されているのは、組織は有機体であり、その動態的な存在を明確に意識しておくことが組織をデザインするのに不可欠であるということです。言い換えれば、組織デザインに標準的な手順やスケジュール、使用すべきテンプレートやフォーマット、目指すべき理想的な組織のイメージといった一般的なものはありえないということです。
現実にあるのは、組織デザインを依頼した人との間の信頼関係やプロジェクトに対する時間的な縛りです。同じ業界で同程度の規模の会社であっても、個々の組織のありようが異なり、そもそも競争戦略が他社との差別化戦略である以上、組織デザインには標準的なアニュアルのようなものはあり得ないのかもしれません。
そのためか、本書は組織デザインの教科書というよりもむしろ、28のボキャブラリーと称される箴言を提示して、短文で表現されたそれらのものを解説していく、組織デザインの箴言集のような形をとっています。たとえば、次のようなものです。
ボキャブラリー15
組織図をいじることが組織デザインだと、勘違いする人が多すぎる。
ここでは、組織というものが、単に「組織図」としてハコや線で表現されるものではないことが強調されています。
組織には、個々の人が配置され、その人々が日々の職務行動や意思決定を行います。それらを支える情報や業務の仕組みや職場慣行も組織を構成する要素であり、実際に人々の行動や意思決定に大きく影響します。
特に、人事権(異動や評価に関する決定権)や個人の処遇などは、職務権限規程などで明示的なルールが一応はあったとしても、実態は、いわゆる実力者や職制上の上下関係はないはずの本社の人事部門が握っているとすれば、組織図を見ただけでその実態を理解することはできません。
したがって、組織をデザインするには、人事権の現実のありようであったり、処遇上の差のつき方や差をつけるのに最も影響力があるのは誰かといったことにまで考えを巡らして、何らかの打ち手を捻り出すことが求められます。
こうした28のボキャブラリーをすべて知りたい方は本書そのものを読んでいただくとして、ここでは特に見落としがちと思われるものに絞って、紹介者自身の経験も踏まえて、組織デザイン=組織改革=を行うポイントを紹介していきます。
文章作成:QMS代表 井田修(2020年9月17日更新)