ショーン・コネリーの訃報に接して
一昨日、007シリーズで初代のジェイムズ・ボンドを演じたショーン・コネリー氏が90歳で亡くなっていたことが明らかになりました(注1)。イーオン・プロダクション(007シリーズの映画製作会社)が製作に当たらなかった“ネバーセイ、ネバーアゲイン”を含めて、7本でジェイムズ・ボンドに扮し、今でもジェイムズ・ボンドと言えばこの人が演じたイメージを想起する人が世界的に多いでしょう。
ここでは、007シリーズ以外の作品を通じてショーン・コネリー氏の俳優像を振り返ってみたいと思います。ちなみに、筆者が見たことがある氏の出演作品は、以下の13本です。
「史上最大の作戦」(1962年)
「マーニー」(1964年)
「未来惑星ザルドス」(1974年)
「オリエント急行殺人事件」(1974年)
「王になろうとした男」(1975年)
「ロビンとマリアン」(1976年)
「遠すぎた橋」(1977年)
「メテオ」(1978年)
「バンディットQ」(1979年)
「ハイランダー 悪魔の戦士」(1986年)
「薔薇の名前」(1986年)
「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(1989年)
「レッド・オクトーバーを追え!」(1990年)
このうち、「史上最大の作戦」と「遠すぎた橋」は第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦およびその後の戦いを舞台にした作品で、オールスターキャストの戦争大作として製作されたものです。作品としては見ているのですが、登場人物が多い上に、台詞のある役の大半が主演級の俳優たちであるため、氏の存在を強く記憶しているわけではありません。
「マーニー」と「オリエント急行殺人事件」はサスペンス&ミステリーの作品です。「薔薇の名前」もミステリーの一つで、修道院での殺人の謎を解く主人公の修道士を演じており、単に謎を解くだけでなく、ある種の難題に挑むという点で共通の役割を果たしているかもしれません。
「ハイランダー 悪魔の戦士」や「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」では、アクション映画の中で主人公を導く師・父という役柄を演じています。演じ方はシリアスとコミカルという対照的なものですが、俳優としてのキャリアを積んでベテランの域に達してきたが故に、演じる役も自然と合っているように思われます。
「王になろうとした男」や「バンディットQ」では、王を演じています。このほかの作品でも、英雄(「ロビンとマリアン」でのロビンフッド)や危機に立ち向かうリーダーといった、決断を下して果敢に行動する男性像を体現しています。
「未来惑星ザルドス」の主人公ゼッドはコンピューターに支配された不死の人々が棲む惑星ザルドスの秘密を探り出し、人々に死をもたらします。「メテオ」の主人公ブラッドリー博士は地球に迫りくる大隕石を破壊するのに尽力し、「レッド・オクトーバーを追え!」の主人公ラミレス艦長は試験航海中のソ連の最新鋭原子力潜水艦レッド・オクトーバー号とともにアメリカに亡命しようと企てます。
こうして見ると、軍人とか英雄といったアクション系のヒーロー(そのなかにジェイムズ・ボンドも含まれるでしょう)から、王や師といった威厳が求められる役へとキャリアを進めているように思えます。また、必ずしもアクションシーンを必要としない、困難に立ち向かうリーダー(ミステリー作品でも謎を追究しようとするところに何らかの困難が出現します)の姿を観客に見せてくれました。それは、現実の世界でそうあって欲しいにも関わらず、現実には見られなくなって久しい、リーダーの姿でもあります。
氏の訃報によって、今後の私たちは映画の中ですら、困難に立ち向かうリーダーの姿を見ることができなくなったのかもしれません。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
https://www.bbc.com/japanese/54762246
作成・編集:QMS代表 井田修(2020年11月2日)