リモートワークで評価するには(3)
リモートワークでの評価を検討するに際して、仕事を日々定義(再定義)し、何らかの形(映像や日報など)で日々の仕事を記録し、上から指示命令するスタイルよりも本人や周囲が発案し助言するスタイルで職場内のコミュニケーションを習慣化し、定期的に振り返って再定義した仕事を文書化するには、当然ながら、それらを可能とする職場の環境を整備しなければなりません。
この環境整備は主にIT環境の整備を意味します。リモートワークを現に行っているということは、既にその仕事や職場がITで処理可能なものであるはずです。誰がいつどのファイルにアクセスしたのか、何らかの操作を行った結果(仕事のアウトプット)はどうなっているのか、といったことは基本的に把握できます。
こうしたことを可能とするには、会社(組織)として何らかのアプリやシステムを導入しなければなりませんが、既に世の中にあってそれなりに普及しているもので大概の組織は対応可能です。リモートで打ち合わせをするのにZoomやTeamsを活用するというのも、その一例です。またファイルの共有やデータのクラウド化も行われているでしょう。
これらを導入するのに何をどこから取り組んだらよいのかわからない、ということで、そもそもリモートワークを導入・定着するのに至らなかったり、一度はやってみたものの結局は元に戻ってオフィスに出勤したりという企業も見られます。それでは、リモートワークで評価を行う必要がないばかりか、感染症等の状況によっては従業員を曝さなくてもよいリスクに曝している虞もあります。
極端なことをいえば、パソコンでファイルを共有しながら、スマホで動画と音声のやりとりをしながら打ち合わせをすることもできるのにも関わらず、管理職や経営層がITツールに馴染んでいない故に、なかなかリモートワークのインフラ整備が進まないのかもしれません。
リモートワークをうまく進めているケースを見ると、現場主導でより使いやすいツールやアプリを試験的に導入しつつ、いつの間にかそれらが仕事を回すうえで不可欠なものになっているようです。そういった状況を経営者やマネージャーが事後承認していたり、ITに個人的に詳しい現場の社員や若手社員が使い方を手取り足取り教えていたりすることで、リモートワークを可能とする環境が整備されていきます。
こうしてみると、経営層や管理職といった評価を行う人と現場の社員など評価の対象となる人との関係が逆転していることに気づかされます。従来の仕事であれば、先輩や上司がより熟知しており、後輩や部下を指導するという構図が実態と一致しますが、リモートワークや働き方改革といったことを推進しようとすると、後輩や部下が先輩や上司に教えなければならない事態が多発します。
そしていざ評価を行うときになると、被評価者のほうが仕事のできる立場にあることを評価者(上司)の方が認めたくない心理が働いていたりするのかもしれません。それがまた、リモートワークの普及・定着を心理的に妨げることになりかねません。
リモートワークを実施するために必要な環境整備を行うことも仕事のひとつです。その一環として、ボランティア的に上司を含む他の社員にツールやアプリの使い方を教えたのであれば、それも正しく仕事です。こうした仕事こそ、仕事の再定義を行ううえで、決して忘れてはならないポイントでもあります。
一方、急激にリモートワークが普及したことならではの問題として、上司と部下とはいいながら人間関係が希薄なまま1年ほどが過ぎてしまった人たちの存在があります。
昨年入社したばかりの人は、新規学卒者の新入社員はもとより、中途採用で入社した中堅・ベテラン社員についても、評価者と直接会っていっしょに仕事をしたことが(ほとんど)ないということがあるでしょう。それなのに、どうして評価ができるのか?と訝しむ気持ちも当然です。
同様の問題は、ここ1年以内に人事異動した社員についても見られます。特に地域をまたいで異動するケースでは、異動そのものが実現しにくく、済し崩し的にリモートワークとなってしまった人も少なからずいることでしょう。
そこでリモートワークを行っている場合の評価では、誰に評価してもらうかを本人に指名してもらうという方法もあります。これは多面(360度)評価を行う際にも用いられますが、日常的に仕事上の関係がある人を部署や職位などの公式の枠組みとは関係なく、誰でもよいから指定するものです。時には正規の従業員や役員に限らず、非正規の従業員などにも対象を広げるほうが望ましいこともあります。
したがって、正式な評価表は用いずに、アンケート調査の要領で日常の行動がわかるようなものを実施してもよいでしょう。評価される本人のことを、すべてよく知るわけではなくても、ある局面や方向で見ている人からのフィードバックを得ることがポイントです。
評価される人だけでなく、「この人のこと(仕事ぶり)は知っている」と思う人はその人のことについて評価したり、評価の参考となる事実を評価者に通知したりするといった方法もあります。評価者を本人が指定するのに対して、評価者が立候補して評価を行うようなものです。
このようにして行う多面(360度)評価のポイントは、一定の数(たとえば6名以上)を集めることです。人数が少ないと一部の人の偏った見方しか把握できず、本人の挙げた仕事の結果や日常の行動がわからなくなってしまいます。したがって、自分のことを評価してくれる人を一定数、確保できるように本人や上司が広く呼び掛けることも必要となるケースもあります。
もちろん改めて多面(360度)評価を行うことは必須というわけではありません。リモートワークであるが故にITのツールを活用すれば日常の仕事上のやりとりを記録し自動的に分析することもできます。
リモートワークを契機に、評価は上司がするものという既成概念を脱却して、評価は関係する人々が相互で行うフィードバックの場と捉え直すこともできます。むしろ、そう捉え直して評価制度を見直すことが求められるかもしれません。
作成・編集:人事戦略チーム(2021年2月22日更新)