結果を評価する視点~東京オリンピック2020を例として~(3)
オリンピックの結果というと、どうしても獲得したメダルの数、特に金メダルの数に目が行きがちですが、競技数を増やして獲得可能なメダルの総数を増やせば増やすほど、より多くの国がより多くのメダルを獲得できたように見えるのは当然の帰結です。今回の東京2020大会における日本の獲得メダルが史上最多というのも、その一例に過ぎません。
言い換えれば、オリンピックでのメダル獲得が求められる結果であるとすれば、獲得数だけを見れば史上最高と言えたとしても、獲得率(シェア)で見れば前回の東京1964大会を超えることはできなかったという、この結果はどう評価すればよいのでしょうか。
一般に企業や個々の社員の評価も、結果で判断されます。それは、売上高(出来高)であったり利益であったり獲得件数(客数)であったりします。こうした数字で結果を評価する際には、いくつか注意すべき点があります。
オリンピックのメダル獲得で述べたように、絶対値で見るのか、シェア(市場全体に占める割合)で見るのか、という点がまず指摘できます。市場全体が伸びている(オリンピックのメダル獲得で言えば競技種目が増えてメダルの総数が増えていく)状況にある場合、絶対値が増えたからといって自動的にいい評価を下すわけにはいきません。たとえば、市場全体が年率20%で拡大している最中に、もともと100あった売上を10%伸ばして110にしたというのでは、市場全体から見ればシェアを落としていることになります(注3)。
対前年比(いわゆる昨対)や伸び率だけで評価するのも、いま言及した絶対値だけの評価と同様の陥穽があります。評価される本人のことしか見ておらず、本人を取り巻く環境(市場動向など)を見ていないが故に生じる問題です。
そこで、市場動向(オリンピックでいえば競技種目の数=メダル総数)を加味して、達成すべき目標を立てて、その目標の達成度で結果を評価するという考え方が出てきます。
結果を評価する上でこのようなアプローチは理屈では正しいのですが、実際に行おうとすると大きな課題に直面します。
一般の企業では市場動向を目標設定時に確実に読むことは容易なことではありません。といって、事後的に市場動向(市場の増減率)を加味して売上などの結果を割り戻すというのも、本人の努力やモチベーションよりも市場の変化で結果が左右されるように見えてしまい、目標を達成しようとする意欲を削ぎかねません。
ただし、オリンピックについては、この点は事前に競技種目数が確定しており、市場の伸び(競技数の増加の程度)ははっきりとした数字で明かになっています。従って、基準とする大会(たとえば前回の東京1964大会)での競技種目数(メダルの総数)から、当該大会(今回の東京2020大会)での競技種目数(メダルの総数)が増加した割合を算出し、その割合を基準とする大会で獲得したメダル数に乗じて得られる値を、当該大会で目標とする獲得メダル数とする、ということで目標を設定するとしましょう。
すると、今大会の達成率は92%(注4)ほどとなり、目標未達と評価せざるを得ません。この目標設定の方法は、基準となる前回の東京大会並みでよいということを暗黙に認めており、前回を上回ることが目標であったとすれば、非常に不本意な結果と評価されます。
「史上最多のメダルを獲得」というフレーズを耳にすれば、アスリートが大活躍して大成功の自国開催だったと、東京2020大会を高く評価したくなりますが、競技種目数の増加といった事情を勘案して獲得が期待されるメダルの数を目標値として設定してみると、50年以上も前の前回の自国開催に及ばなかったと言わざるを得ません。
このように、数字の選び方で評価が正反対になってしまうほどです。結果を評価するためには、適切な数字を選択しなければなりません。このことは、オリンピックはもとより一般の企業や個々の社員に至るまで、肝に銘じておきたいものです。
【注3】
市場全体を仮に1000だったとしましょう。もともとの100の売上はシェア10%に相当しますが、市場全体が20%拡大すると1200となり、10%の売上アップは110となりますから、シェアは110を1200で除しますから9.2%ほどになります。つまり、10%から0.8%ほどシェアを落としたことになります。
【注4】
実際に獲得した58個を、東京1964大会と同程度の獲得メダルのシェアであった場合の63個で除すると、約0.92となります。
作成・編集:経営支援チーム(2021年8月23日)