結果を評価する視点~東京オリンピック2020を例として~(4)
メダルを獲得したという絶対数で見るのか、メダルの総数のなかでの獲得率(シェア)で見るのかによって、同じ東京2020大会の結果を評価するとしても、その結論は正反対とは言わないまでも、かなり違った印象となります。
これを参加国の側ではなく、オリンピックを主宰する側(つまりIOC=国際オリンピック委員会)から見ると、獲得したメダルの数に注目してもらうほうが望ましいように思われます。
というのも、獲得したメダル数は、これまで述べてきたように、競技種目数が増加すればするほどその総数が増えますから、「史上初めてメダルを獲得」とか「過去最多」といった高評価につながりやすいのです。獲得率(シェア)は、一種のゼロサムゲームですから、シェアを伸ばした国があれば、反対に落とす国が必ず出ます。また、競技種目数が増えてより多くの国にメダル獲得のチャンスが訪れるとすれば、従来はシェアが高かった国は次第にその比率を低下させる虞があります。この点は、競技種目数も参加国数も大きく異なる夏季大会と冬季大会を比べてみれば一目瞭然です。
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夏季大会でひとつの参加国で10%以上のシェアをもつのは、1970年代には3ヶ国ありましたが、北京大会で自国開催となった中国を除けば2000年代では1ヶ国というのが通例となっています。
冬季大会は、競技種目数の増加は着実に見られるものの、夏季大会に比べれば3分の1にも届かない数です。参加国も圧倒的に少なく、ノルウェーのように伝統的に冬季大会に強い国が高いシェアを依然として保っています。今後、冬季大会も夏季大会並みに大規模化することが主宰者IOCにとっての成功を意味するとすれば、より多くの国々が参加できるように競技種目を多様化していくことが課題でしょう。
これまでは冬季大会とは縁がなかった多くの国々が参加できるように、競技人口が少ないなどマイナーな競技であっても、冬季大会の会場周辺で競技が実施できるものであれば、室内競技を中心に冬季大会に組み込むことで、規模の拡大(=獲得メダル数の増加)に焦点を当てて、「史上初めてメダルを獲得」と「過去最多」を両立させて大会を盛り上げることが可能となります。
夏季大会は既に競技種目数が1000に達しており、これ以上の大規模化は難しいかもしれません。もしそうであるなら、階級(クラス分け)の再編成、個人競技の団体戦化、団体戦の個人競技化といった方法で、競技種目の細分化を図る必要があるかもしれません。
既に、体操、卓球やバドミントンなどは団体戦が導入されていますし、今後はバスケットボールやサッカーなどの団体球技でも、一定時間でのフリースローやPK(ペナルティ・キック)の成功本数を競うとか、野球なども投手の投げる球のスピード競争とかMLBオールスターゲーム時に行われるホームラン競争のように、個人で競う種目が創設されるかもしれません。
もちろん、eスポーツのように、まったく新たなジャンルが競技種目としてオリンピックに参入してくる可能性もあります。むしろ、IOCは新たなジャンルの誕生・発展を好ましく感じているかもしれません。オリンピック競技として実施されることが一流のスポーツであると認めることになるのであれば、IOCにとっても新興スポーツの競技団体にとっても望ましいものでしょう。
さて、オリンピックでのメダル獲得を例に、絶対値での評価と比率(シェア)での評価の違いを見てきましたが、一般の企業においても同様の課題が付いて回ります。
絶対値での評価は、市場や事業規模が伸びている状況にあれば、多くの人が伸びたことを褒められる機会を提供します。しかし、オリンピックでは未だに生じていませんが、市場や事業規模が伸びない、更には縮小している状況では、絶対値での評価は前年割れなどこれまでの実績を下回るものばかりになってしまいます。全体がマイナス成長なのだから仕方がない、では済まされません。
比率(シェア)での評価は、市場や事業規模が伸びている状況であっても全員が褒められるとは限りません。また、市場や事業規模が伸びないか縮小している状況でも、比率(シェア)は減少する人もいれば、増える人もいます。伝統的な日本企業にありがちな、できるまで頑張るとか長時間勤務に耐えるといった方法ではなく、相当の創意工夫や革新的なアプローチで絶対値を多少なりとも引き上げて比率(シェア)を増やした人がいるのであれば、真に高く評価できると言えます。
このように、市場動向や事業規模の推移といった状況の変化を考慮した上で、絶対値にせよ比率(シェア)にせよ、結果を数値で評価し、適切な褒賞につなげていくことが望まれます。オリンピックのように、はっきりとした順位付けが可能であれば、なおさら望ましい褒賞プログラムと言えるでしょう。
作成・編集:経営支援チーム(2021年8月27日)