コロナ禍も3年
「石の上にも3年」と昔は言いましたが、VUCAと呼ばれる時代も21世紀には当たり前となり、急激な環境変化にいかに迅速に適応していくかが問われています。その問いは、一人ひとりの個人にも、企業に限らず組織全般にも、迫られるものです。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の発生とグローバルな流行から2年が過ぎ、今年は3年目となります。既にCOVID-19とかコロナ禍といった表現は少なくなり、オミクロン株のように最新の変異株の名称で流行を言い表すようになっているほど、新型コロナウイルス感染症も一般化し、より新しい呼称が求められています。
このコラムでも何回か採り上げているように(注)、コロナ禍に対応して事業戦略から日々の仕事の進め方に至るまで、多く(全て)の企業において見直しと再生のプロセスが進められています。そのなかには、さまざまな試行錯誤があり、チャンレンジしてみたものの早くも撤退・廃止となったビジネスやマネジメントもあるでしょう。
一時は全員がリモートワークだったはずが、気がつくと出社する社員の比率が増え、けっこう満員となっている電車に乗っている方々も多いでしょう。自転車や電動キックボードでの通勤通学に切り替えてはみたものの、冬ともなれば寒くて公共交通機関に戻ってしまった人たちも少なくありません。
こうしてみると、けっこうコロナ禍以前に戻っているように思われますが、ビジネスやマネジメントの根本は、コロナ禍前に戻ることを前提にして考えることは無駄でしょう。なぜなら、基本的に元に戻ることはないからです。
コロナウイルスは、希望的観測を含めてみれば、ある時期から季節性インフルエンザ並みの病気となるでしょう。しかし、感染症に限ってみても、次の別の感染症がいつグローバルに流行りだすか、誰にもわかりません。これこそ、VUCAなのです。
また、感染症だけが注意すべきリスクではありません。地球温暖化に代表される環境問題、ジェンダーや人権に関する問題、社会的法的な規制への対応など、リスクとして認識すべき問題は次々と現れます。それらに対して事前に網羅的な対応を用意しておくことは、すべてのリスクを認識することができない以上、原理的に不可能です。
企業にせよ個人にせよ、できることは、何らかの未知のリスクが顕在化したときに、まず当面の対応をして被害や損害などのマイナスの影響を抑えつつ、出現したリスクへの適応策をできるだけ早く打ち出し、試行錯誤はあっても数年のうちにビジネスやマネジメントをアップデイトして、次の展開につなげていくことです。こうした迅速な適応力や一度はマイナスに陥っても何とか回復するレジリエンス(復元力)こそ、個々の事業のスキルやコンピテンシー以上に、組織のケイパビリティとして必要とされるものです。
これは個人についても同様で、仕事上のキャリア計画や資産形成プランなどの長期的な展望をもって取り組みたいテーマこそ、直線的な見通しに頼らず、絶えず見直しや軌道修正を行える柔軟な取り組みを考えておくべきでしょう。精神的にも肉体的にも、財務面でも学習・能力面でも、レジリエンスやリスキリング(学び直し)が求められます。
もちろん、日々の稼ぎも重要です。決して疎かにしてはいけません。コロナ禍を言い訳にして企業収益の赤字を正当化するのは、今期まででしょう。既に少なからざる企業が、黒字転換や更なる収益力の向上を実現している以上、いかなる業種業態にあっても、コロナ禍への対応に3年もかかって未だに赤字というのは、経営能力の欠如を証明しているだけです。
仮に今年も公衆衛生的にコロナ禍が収束しなかったとしても、2022年は企業経営上、コロナ禍から脱却しなければならない最後の年と覚悟を決めて経営に当たる時期です。その覚悟と具体的な赤字脱却策がないのであれば、経営を退くか事業を止めるべきです。
信用調査会社2社の報じるところでは、企業の倒産件数は歴史的な低水準にあるようです。これは、セーフティネット保証などの政策的な信用供与によるところが大きいものと思われますが、その保証が切れる時期も到来しつつあります。脱コロナ禍を実現できる見通しがない企業は、中小企業だけでなく大企業にも見当たります。コロナ禍3年目は、そうした企業の清算が一気に進むタイミングに当たりそうです。
【注】
当コラムではコロナ禍への対応策などについて、これまでもいくつか言及してきたものがあります。ご参考までに以下に挙げておきます。
コロナ禍を考える二つの戯曲~「白い病」と「疫病流行記」を巡って~(1)~(4)
作成・編集:経営支援チーム(2022年1月3日)