ウォルフガング・ペーターゼンの訃報に接して
一昨日、映画監督のウォルフガング・ペーターゼン氏が81 歳で膵臓癌により今月12日にカリフォルニアの自宅で亡くなったことが報じられました(注1)。もともと西ドイツでキャリアを積んでいた氏は、代表作と思われる「ネバーエンディング・ストーリー」のヒットを受けて1985年以降はUSAで映画製作に当たるようになりました。
実際に鑑賞したことがあるのは次の4作品(注2)です。
「U・ボート」(“Das Boot”1981年)
「ネバーエンディング・ストーリー」(“The NeverEnding Story”1984年)
「アウトブレイク」(“Outbreak”1995年)
「エアフォース・ワン」(“Air Force One”1997年)
最初に観たのが「U・ボート」です。この作品は第二次世界大戦中にナチスドイツが大西洋で行ったU・ボート(潜水艦)作戦を担った、ある潜水艦の物語です。映画の大半が潜水艦の中で進行し、ドラマだとわかっていても敵(連合国)から受ける対潜水艦戦のプレッシャー(ソナー探知、爆雷攻撃など)で、「ここから出してくれ」と叫びたくなるほどで、今でも潜水艦を舞台にした作品として最も評価されているかもしれません。個人的には、トム・クランシーの「レッド・オクトーバーを追え」が活字で現代の潜水艦戦を描いた傑作とすれば、「U・ボート」はその前の時代の潜水艦戦を映像で描いた傑作であると思います。
次に鑑賞したものが「ネバーエンディング・ストーリー」です。これは、ミヒャエル・エンドの「はてしない物語」を原作にとするファンタジーといえるでしょう。当初公開されたドイツ語版にはない主題歌(注3)を入れた英語版を、公開当時最大の規模であった日本劇場で観た記憶がありますが、ジョルジオ・モロダーのシンセポップの音楽と空を飛ぶ感覚に秀でる映像の組み合わせに驚きました。「ゴースト・バスターズ」と同様に、主題歌と映像とキャラクターがセットで強く記憶に残る作品です。
実は、音楽と映像がセットとなって優れた映画となっている点では、「U・ボート」も同様です。こちらもテーマ曲(注4)を聴くと、「U・ボート」が沈潜していく姿が目に浮かびます。
アメリカに移ってからの作品としては「アウトブレイク」と「エアフォース・ワン」があります。どちらも、ハリウッドのスターをキャスティングして、サスペンスあり、アクションあり、権力闘争のドラマあり、ラブストーリーあり、といった大作志向のものです。
「アウトブレイク」は疫病パニックものです。コロナ禍、更にはサル痘が流行し始めている現代に、改めて見るべき作品かもしれません。町ひとつを爆撃して葬り去ることで、ウイルスの急激な蔓延を防ごうとする軍や政府の姿は、図式的すぎるとは思われますが、(細近兵器として開発されたウイルスによる)疾病の蔓延を防止するには何かを犠牲にする、そのタイミングと方法を逡巡している間に感染が拡大してしまう、という疫病パニックものの古典的なプロットは、現実の世界では余計に解決しにくい厄介事であることを、私たちは自らの経験として知っているだけに、あり得ない架空のプロットとは断言できません。
一方、「エアフォース・ワン」はハイジャックものです。ただ、ハイジャックされるのがアメリカ大統領専用機であるエアフォース・ワンであり、ハリソン・フォード扮する大統領自身が「ダイ・ハード」の主人公ジョン・マクレーンさながらにテロリストと現場で戦う点でユニークなプロットとなっています。
「アウトブレイク」と「エアフォース・ワン」では、主人公以上に脇役に目がいってしまうところがあります。「アウトブレイク」ではウイルスを兵器に転用する計画をもち、その秘密が漏れそうになると感染者を町もろとも焼き尽くそうとするマクリントック少将を演じたドナルド・サザーランドの冷酷な佇まいや最後に主人公を信じてマクリントック少将を逮捕するフォード准将を演じたモーガン・フリーマンが見せる部下を何とか庇ってやりたいが上の命令は命令として守らなければならない立場に置かれた普通の人ぶり、「エアフォース・ワン」では大統領を最後まで信じて望みを捨てない副大統領役のグレン・クローズが見せる毅然とした態度など、監督の演出と役者の演技が見どころを作っていいます。
実は、4作品ともに共通する主人公の姿が見出せるように思われます。大きな敵に遭遇しても決して逃げることなく、絶望的な状況であってもただ運命に流されるのではなく、今自分にできることを全力で行って毅然として立ち向かう姿こそ、氏が作品を通じて(無意識に)伝えていることなのかもしれません。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
『ネバーエンディング・ストーリー』のウォルフガング・ペーターゼン監督が逝去 81歳 (ign.com)
『U・ボート』ウォルフガング・ペーターゼン監督が死去、享年81歳 (msn.com)
【注2】
各作品のご紹介まで。
【注3】
英語版の主題歌はリマールが歌いました。
【注4】
クラウス・ドルディンガーのサントラ盤の2曲目がテーマ曲で、そのバリエーションが24曲目となります。
作成・編集:QMS代表 井田修(2022年8月19日)