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人的資本経営時代に給与を適切に調整するには(9)

人的資本経営時代に給与を適切に調整するには(9)

 

人的資本経営という以上、給与や報奨も資本の要素を採り入れて大きな成果には大きな報酬を実現することで、次の人的資本の形成に寄与する仕組みが必要なはずです。そうした観点から言えば、「人材版伊藤レポート2.0」の中で株式連動型の報酬制度に具体的な言及がないことに疑問を持たれた方も多いでしょう。

株式連動型の報酬制度の代表といえば、ストックオプションです。日本で最初に疑似的なストックオプションを導入したソニーを始めとした大企業はもとより、現在ではスタートアップで人材を獲得する上でのツールとして必須のアイテムと言っても過言ではないくらい、広く普及しています。既にNstock(注8)のように、ストックオプションをより簡単に提供できるプラットフォームも生まれています。

退職金や年金など、ストックオプションと同様に会社との長期的な契約(特に報酬に関するもの)については、会社の管理に委ねるのではなく、専門のサービス事業者によりクラウド上で第三者が管理することで、ポータビリティ(勤務先が変わっても未実現の長期的な報酬がそのまま保障されたり、次の勤務先のプログラムに統合されたりすること)を確保し、従業員が安心して働くことができる体制を整備することが人的資本経営を支える仕組みとして不可欠です。

一方、これらの長期インセンティブ(ストックオプションなどの株式連動型報酬や退職金・年金など)は、短期の給与や賞与などとは異なり、当面は未払い債務として会社の負担となります。バランスシート上、その実態を見える形にしておくことも求められます。

また、未消化の有給休暇は退職率が急激に上昇する際に大きな負債として顕在化する虞がありますし、介護や育児をきっかけに退職する社員の比率が高い企業であれば、介護や育児などの事由ごとの発生確率とその際に発生する退職や採用に要する費用も事前に見積もって計上すべきかもしれません。

勤務地やリモートワークなどの場所に関する労働条件、また出退勤時間やシフトなど時間に関する労働条件など、従業員個々の事情によってさまざまに労働条件は違います。それらの条件や育児・介護など個人の事情が何であれ、同じ成果を挙げたのなら同じ報酬を支払うべきでしょう。それが処遇の衡平性の基礎になります。

在宅勤務において配偶者のいずれか一方に過大な負荷がかかるという現実もあります。特に未成年の子供や介護を要する高齢者が家族にいる場合、男性よりも女性のほうに育児・学業支援・介護などの負荷が大きくかかるでしょう。その現実の下で、男女ともに在宅勤務となると、家族の中の家事分担や人的・経済的な負担の配分には企業が介入すべきではないとはいうものの、在宅での仕事が回るように何らかのサポートを企業が行う必要性も出てきています。

たとえば、家事全般を代行するサービスがいつでも利用しやすいようにメニュー化するとか、育児や介護などの専門サービスを割安に活用できるプログラムを用意するといったことも忘れてはなりません。これは(3)でも言及したポイントであり、今こそ、トータルコンペンセーションの視点や発想を採り入れなければ、人的資本経営など有名無実となるでしょう。

そして、個人ごとに異なる人事ニーズに対応しようとすれば、それを可能とするような人事業務のプラットフォームが不可欠です。個々の企業ですべてを賄うのは、相当な大企業でも容易ではないでしょう。カフェテリアプランの提供など福利厚生プログラムの一部で実現しているものはあるものの、より包括的で企業横断的な仕組みであることが求められます。ちょうど、ストックオプションについてサービスを提供するNstockのように、ここにビジネスチャンスがあることも事実です。

 

人事責任者の一部、特に上場企業などからは、人的資本経営の趣旨はわかるが非財務情報の報告に手間取ることを危惧する声が出ているようですが、「人材版伊藤レポート2.0」で挙げられている課題を単なる報告書の作成と見ては本質を見失います。

その結果、人的資本と呼ぶべき真の人材を失うことになれば元も子もありません。まさにヒューマンキャピタルフライトを招かないように先手を打った人事施策を実現していくことこそ、人事部門に課せられたテーマです。そのためには、積極的に外部サービスを活用することも大事でしょう。

 

(10)に続く

 

【注8

Nstockについて詳しくは以下のサイトを参照してください。

Nstock | 株式報酬と金融で、スタートアップのエコシステムを強くする

 

 

  作成・編集:人事戦略チーム(20221231日)