ティナ・ターナー氏の訃報に接して
昨日、70年代から80年代のロックのアイコンであったティナ・ターナー氏が、自宅(スイスのチューリッヒ)で死去していたことが報じられました(注1)。直接の死因は公表されていませんが、近年は腸や腎臓の病気で闘病生活を送っていたようでした。83歳でした。
個人としてのバイオグラフィーやアーティストとしての音楽活動については、訃報を伝える記事や関連するサイト(注2)を参照していただくとして、ここでは彼女が出演した2本の映画についてご紹介します。
ひとつは、「マッドマックス/サンダードーム」(“Mad Max Beyond Thunderdome”1985年豪米合作、注3)です。ティナ・ターナーのビジュアル・イメージとして、この作品で扮したアウンティ・エンティティ(舞台となる近未来の街バータータウンの支配者)の姿を思い浮かべる人も多いでしょう。
映画のタイトルにあるように、マッドマックス・シリーズの第3作として製作された本作で、主人公の元警官マックスを雇って敵対的なマスター・ブラスターをサンダードームでの対決で殺させようと画策するヒール役を体現するのが彼女です。そして、映画のサントラ盤では“We Don‘t Need Another Hero”と“One of The Living”の2曲を歌っています。前者は今でも歌い継がれるヒットとなり、後者はグラミー賞受賞曲(最優秀女性ロック・ボーカル・パフォーマンス)となりました。
もうひとつは、マッドマックスの10年前に製作された「トミー」(“Tommy”1975年英米合作、注4)というロック・オペラの映画です。この作品は、ロックバンドThe Who の同名アルバムを元に作られたのですが、監督のケン・ラッセルの持ち味が十二分に発揮されて、ストーリーを理解するよりもインパクトのある個々のシーンを見ることを要求される作品かもしれません。
主人公のトミーは目が見えず、耳が聞こえず、喋ることができない設定とは言え、扮したロジャー・ダルトリ―(ロックバンドThe Whoのボーカル)は演技というよりも、PVに出ているアーティストといった風情です。一方、脇役は強烈なキャラクターばかりで、母親役のアン・マーグレットやピンボールの魔術師に扮するエルトン・ジョンなどが特に忘れがたいものです。
その中で、氏は、アシッド・クイーンというパートで同名の役を演じます。この当時いっしょに活動していた夫のアイク・ターナーがアルコールと薬物の中毒であったことを知ると、アシッド・クイーンが主人公のトミーをドラッグで治療?しようと試みるシーンは、演技と呼べるのかどうなのか、正に虚実皮膜のごとしです。
ふたつの映画の間で彼女はさまざまな苦境を体験したようです。アーティストとしての不調、夫の暴力、時間のかかった離婚訴訟、離婚に伴う法的・経済的な問題などを乗り越えて、ロック・アーティストのティナ・ターナーとしてようやく復活したわけです。演じたキャラクターは偶然かもしれませんが、それぞれの役をオファーする側もそれを受けて演じた側も、役と本人が不即不離な関係であるからこそ、パワーをもって演じられると想定していたのではないでしょうか。
さて、最後に個人的に気に入っている曲をご紹介します。ティナ・ターナーならではの独特な声とともに、歌っている姿も独自のパンチがあって、なかなか他には見られないものです。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
音楽界のレジェンド、「ロックの女王」ティナ・ターナー死去 闘病の末に|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
【注2】
特に、以下の記事が参考となります。
ティナ・ターナー、家庭内暴力を乗り越え自立した女性をめざして 歌で世界に愛と勇気を与えた生涯 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)
【注3】
【注4】
32分から41分くらいまで、アシッドクイーンに扮するティナ・ターナーが出演しています。
作成・編集:QMS代表 井田修(2023年5月26日)