気候変動の何が問題か?(3)
より長期的、超長期的に、気候変動について考えてみましょう。当然予想されることですが、変動の幅も大きく、影響も広範で多岐に亘ります。そこで日本の気候変動を概略、理解するために、『日本の気候変動5000万年史~四季のある気候はいかにして誕生したのか』(佐野貴司・矢部淳・齋藤めぐみ著、ブルーバックスB-2212 講談社刊)をご紹介します。
以下に本文の目次を掲げます。
第1章 超温暖期とその後の寒冷化~日本列島以前~
1-1 5000万年前の超温暖期
1-2 4000万年前以降の寒冷化
1-3 分離し始めると日本列島と寒冷化 亜熱帯から亜寒帯へ
第2章 モンスーン時代の到来~梅雨と多雪はこうして始まった~
2-1 モンスーンの開始~そして梅雨が始まった~
2-2 モンスーンはどのようにして始まったのか?
2-3 ヒマラヤ山脈が日本列島を寒冷化させた?~3390万年前以降~
2-4 梅雨と多雪の始まり~モンスーンの強化~
第3章 日本列島誕生と気候への影響
3-1 日本海の誕生
3-2 日本沈没の時代
3-3 そして寒冷化へ~1300万年まえから800万年前~
3-4 日本の気候を特徴づける火山噴火の時代
第4章 地球温暖化アナロジーの時代
4-1 地質時代最後の温暖期
4-2 ゾウやワニが暮らす大地
第5章 氷河時代に向けた寒冷化
5-1 冬季モンスーンの再強化
5-2 日本列島の植生変化
第6章 第四紀氷河時代
6-1 氷河時代の到来
6-2 氷河時代を特徴づける動物たち
6-3 最初の日本人が見た景色
第7章 日本特有の気候成立と人類の時代
7-1 縄文~弥生時代の気候
7-2 日本史のなかの気候変動
第1章と第2章は、現在の日本に当たるものがまだユーラシア大陸の一部であった時代の話です。日本列島ができてくるのは第3章以降です。その後は、寒冷化と温暖化を繰り返しつつ現在に至ります。
こうしてみると、大きな時間の流れの中で気候変動が起こり、そこに生きる動植物に移り変わりがありました。本書の中では、人類は最後の寒冷な時期に登場します。その人類の活動が温暖化をもたらしているのが現在の姿です。
本書の最後に、著者の危惧が語られます。超長期的な気候変動をまとめて語るものでもあります。
エピローグでは、大気中の二酸化炭素濃度の観点から地球の気温の変化を振り返りながら、将来の日本の気候について思いをめぐらせてみます。……
5000万年前から2万年前にかけて、気温は数回の温暖期を経験しながら段階的に低下しており、大気中の二酸化炭素濃度は、この変化にほぼ呼応しています。……その後、気候が安定していた約1万年前以降は、260~280ppmとほぼ一定で、産業革命が始まった西暦1800年頃から急激な上昇をしました。……そして、西暦2013年には400ppmを超えてしまいました。産業革命以来の温暖化は、二酸化炭素ははじめとする温室効果ガスの増加が原因なのは明らかです。(中略)
温室効果ガスの排出規制をしないと、西暦2030年には、第4章で紹介した鮮新世温暖期(440万年前~400万年前)と同じ気候となってしまうと予想されています。すでに、現在の大気中の二酸化炭素濃度は、鮮新世温暖期と同じレベルの400~420ppmであり、(2020年時点の日本列島)、温暖化が夏季モンスーンの強化やエルニーニョの定常化を誘発する可能性があります。
(251・253ページ)
本書によると、その結果として、ゲリラ豪雨の多発、スーパー台風(台風の最強カテゴリー)の列島襲来、冷夏の頻発などが指摘されています。これらの現象は予想というよりも現実と言わざるを得ません。
そして、温室効果ガスの排出規制をしないと、西暦2100年までには、平均気温が4~5℃高い、1600万年前の中期中新世最温暖期と同じ気温になります。すると、両極の氷床・氷河が融けて、日本列島の海岸線が後退する可能性があります。……
さらに西暦2300年になると、平均気温が10℃以上高い、5000万年前から4500万年前の前期始新世最暖期の気温となってしまいます。関東から九州にかけては亜熱帯から熱帯の気候、北海道でも暖温帯の気候になるかもしれません。こうなると、降雪はなくなり、四季も消えてしまうでしょう。……たった300年で10℃以上もの気温の上昇が起こることは、地球上の生物にとってこれまでに経験したことのない激変であり、この急速な変化に合わせて森林がどう置き換わるかも予測困難で、多くの生き物の犠牲を払わなければならなくなる可能性が十分にあります。
(254~255ページ)
ここで西暦2100年に想定されている“1600万年前の中期中新世最温暖期”というのは、本書で言えば第3章の前半に該当します。日本列島が現在の形で形成されつつある時期ですが、気候としては熱帯や亜熱帯でした。当時の化石として、マングローブなどが見つかっていることからも明らかです。
日本列島が形成されるとは言っても、現在よりも海水準が50~150mも高かったため、現在とは大きく異なり大半が海中に没している状態でした。今こうなると、都内にある高層ビルでも海水面よりも上に出ている部分が少ないということになります。
この最温暖期をもたらした原因として、超巨大火山の噴火により二酸化炭素が増大して地球規模の温暖化が進んだというものと、赤道付近の海路の閉鎖に伴う暖流の変化(日本列島まで北上)によるものとあります。ただ、熱帯を特徴づけるサンゴなどの化石はこの頃の地層から見つかっていないため、温暖の程度を過大評価している可能性もあります。
専門的な調査研究は今後も進展するはずですが、その進展を待って対策を講じる時間的な余裕はありません。2100年に起きそうな“1600万年前の中期中新世最温暖期”は、未来の誰かではなく、現世代が直面するタイムフレームでの出来事です。
作成・編集:QMS代表 井田修(2023年6月12日)