ノーマン・ジュイソン氏の訃報に接して
今月20日、映画監督やプロデューサーであったノーマン・ジュイソン氏の死去を広報担当者が発表しました(注1)。97歳でした。カナダのトロント出身で1960年代以降、様々な作品を50年近くにわたって手掛けてきました。
実際に鑑賞したことがある作品として次のもの(注2)があります。
監督兼プロデューサーの作品
「華麗なる賭け」(“The Tomas Crown Affair”1968年)
「屋根の上のバイオリン弾き」(“Fiddler on The Roof”1971年)
「ジーザス・クライスト・スーパースター」(“Jesus Christ Superstar”1973年)
「フィスト」(“F.I.S.T.”1978年)
「結婚しない族」(“Best Friends”1982年)
「月の輝く夜に」(“Moon Struck”1987年)
製作総指揮のみの作品
「戦争の犬たち」(“Dogs of War”1980年)
プロデューサーと監督を兼ねるのは、60年代ころまではよくあったことかもしれませんが、それ以降はコッポラやスピルバーグといった大物の監督たちか、特にその作品について最終的な決定権(ファイナルカット)を監督がもちたい場合に限ってプロデューサーを兼ねることはあるようです。そうした中で、氏は自らプロデュースをしながら監督も担うことが多いという特徴があります。
名作ミュージカルの映画化(「屋根の上のバイオリン弾き」と「ジーザス・クライスト・スーパースター」)もあれば、ラブ・コメディ(「結婚しない族」と「月の輝く夜に」)もあれば、闘う男の姿を描く作品(「フィスト」と「戦争の犬たち」)もあります。銃や車を駆使して戦う姿を見せることが多かったスティーブ・マックイーンが知的な犯罪とロマンスを演じる「華麗なる賭け」もあります。
「屋根の上のバイオリン弾き」と「ジーザス・クライスト・スーパースター」は、今でもミュージカル映画の代表作に数えられるものでしょう。前者の音楽がジョン・・ウィリアムス、後者がアンドリュー・ロイド・ウェバーです。20世紀後半のエンターテインメント音楽を代表するこの二人と仕事をした監督は、多分、ジュイソン氏だけでしょう。
個人的には「ジーザス・クライスト・スーパースター」が素晴らしいの一言に尽きます。野外劇場に連れてこられたかのように始まると、あっという間に1時間半ほどの上映時間が終わってしまいます。どちらもミュージカル映画の歴史に残る作品と言えるでしょう。
アクションものを中心に人気があったバート・レイノルズをコメディエンヌのゴルディー・ホーンと組ませた「結婚しない族」は、正式な結婚はうまくいかない同棲カップルが仕事(脚本家)を通じて友人がベストな関係となるラブ・コメディです。ラブ・コメディと言っても、70年代以降扱われることが多くなる結婚(離婚)をテーマに据えたところとコメディに仕立てたところにチャレンジが見られます。
一方、シェールとニコラス・ケイジ主演の「月の輝く夜に」はニューヨークを舞台にしたロマンティック・コメディで、大人の童話という表現がぴったりです。
シルベスター・スタローンが労働運動のリーダーに扮する「フィスト」、フレデリック・フォーサイスの原作をクリストファー・ウォーケン主演でクーデターを引き起こす男たちの姿を描いた「戦争の犬たち」は、正に闘う男を描いた作品です。ただ、“ロッキー”のイメージが強いスタローンがリングから街に出て闘争の主役となるとか、“ディア・ハンター”でベトナム戦争において戦闘では生き残りながらロシアンルーレットに嵌まり死んでしまう男を演じたウォーケンがクーデター屋に扮するというのは、当事者の俳優とともに作品を作るスタッフにとっても、きついチャレンジだったのではないかと思われます。
闘う男と言えば、スティーブ・マックイーンを主演に迎えてアクションやカーチェイスを封じて犯罪を犯人の側から描いた「華麗なる賭け」は、フェイ・ダナウェイとのラブ・コメディの要素もある秀作です。ここでは、後にバート・レイノルズなどが挑んだように、それまで演じてきた役柄からイメージされるものとは異なる役を敢えて演じさせて、見事に成功しました。テーマ曲“Windmills of Your Mind”とともにこれからも残っていく作品でしょう。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
映画監督のN・ジュイソン氏死去、97歳 「夜の大捜査線」 | ロイター (reuters.com)
映画監督ノーマン・ジュイソンが97歳で死去、「屋根の上のバイオリン弾き」など手がける - 映画ナタリー (natalie.mu)
【注2】
以下に予告編などで作品を紹介します。
作成・編集:QMS代表 井田修(2024年1月24日)