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初任給引き上げに伴う賃金の調整方法(5)~オーソドックスな号俸表の場合~

初任給引き上げに伴う賃金の調整方法(5)~オーソドックスな号俸表の場合~

 

給与等級ごとに金額の上下限を定める給与管理の方式として、号俸表によるものがあります。前回説明したレンジマトリクスよりもオーソドックスな方式かもしれません。号俸表はレンジマトリクス方式と似ており、等級ごとの金額が一定の幅の中にあり、同じ給与等級で同じ評価結果であれば概ね同じ水準の給与額であるべきだという考え方に基づくものです。

 

5・基本給号俸表(改定前)

   

給与等級

給与レンジ

給与月額

定期昇給額

3等級

滞留上限(16号)

397,000

0

(主査)

超過滞留(11号)

387,000

2,000

 

標準滞留年(6号)

367,000

4,000

 

初号(下限)

327,000

8,000

2等級

滞留上限(16号)

339,500

0

(主任)

超過滞留(11号)

330,500

1,800

 

標準滞留年(6号)

313,000

3,500

 

初号(下限)

278,000

7,000

1等級

滞留上限(16号)

285,000

0

(担当)

超過滞留(11号)

280,000

1,000

 

標準滞留年(6号)

270,000

2,000

 

初号(下限)

250,000

4,000

 

この表に示した号俸表は、レンジマトリクス方式とは給与管理のテクニカルな部分が異なり、それは昇給ルールに最も表れています。

この表の右端にある「定期昇給額」というのは、標準滞留年数(上位等級に昇給するのに標準的に掛かるであろう所要年数の目安、ここでは5年)の間は毎年この金額分の昇給を適用することを明示しています。ただ、全ての社員が標準滞留年数以内で昇級できるとは限らないので、超過滞留年数を標準滞留年数の2倍に取っています。

この超過滞留年数の間は定期昇給があるといっても減額されており、超過滞留の初めの5年間は標準滞留期間の定期昇給額の半分ほど、超過滞留の後半の5年間は更に減額して前半の半分ほどになっています。そして、超過滞留年数を超えての昇給はないものとしてルール化されています。

また昇級時には、昇格昇給として標準滞留年数で適用される定期昇給の2年分に相当する金額を上乗せして基本給を増額するというルールを採用しています。標準的に昇級していくと、初号(1号俸)の金額に5年分の定期昇給額を加算し、更に2年分の定期昇給額を上乗せした金額が直近上位の給与等級の初号(1号俸)の金額となるように設計されています。

この昇格昇給は、昇級した人全員に適用されるので、滞留上限にいた人が昇格した際にも適用されます。例えば、1等級16号俸だった人が2等級に昇級する際は、285,000円に8,000円が加算されて293,000円となり、その金額の直近上位の号俸の2等級4号俸299,000円が昇格後の基本給与となります。

このように、表5のような号俸表は原理的にはあり得ても、実務的には昇給額の幅が大きく、運用しにくいケースに直面することが多々あります。そこで、表5における1号俸を5等分に細分化して標準的な評価であれば毎年5号俸ずつアップさせていくのが、表6に例示した段階号俸表です。

 

表6・基本給段階号俸表(改定前)

 

給与等級

1等級(担当)

2等級(主任)

3等級(主査)

標準昇給

4,000

7,000

8,000

1

250,000

278,000

327,000

2

250,800

279,400

328,600

3

251,600

280,800

330,200

4

252,400

282,200

331,800

5

253,200

283,600

333,400

6

254,000

285,000

335,000

7

254,800

286,400

336,600

8

255,600

287,800

338,200

9

256,400

289,200

339,800

10

257,200

290,600

341,400

11

258,000

292,000

343,000

12

258,800

293,400

344,600

13

259,600

294,800

346,200

14

260,400

296,200

347,800

15

261,200

297,600

349,400

16

262,000

299,000

351,000

17

262,800

300,400

352,600

18

263,600

301,800

354,200

19

264,400

303,200

355,800

20

265,200

304,600

357,400

21

266,000

306,000

359,000

22

266,800

307,400

360,600

23

267,600

308,800

362,200

24

268,400

310,200

363,800

25

269,200

311,600

365,400

26

270,000

313,000

367,000

27

270,400

313,700

367,800

28

270,800

314,400

368,600

29

271,200

315,100

369,400

30

271,600

315,800

370,200

31

272,000

316,500

371,000

32

272,400

317,200

371,800

33

272,800

317,900

372,600

34

273,200

318,600

373,400

35

273,600

319,300

374,200

36

274,000

320,000

375,000

37

274,400

320,700

375,800

38

274,800

321,400

376,600

39

275,200

322,100

377,400

40

275,600

322,800

378,200

41

276,000

323,500

379,000

42

276,400

324,200

379,800

43

276,800

324,900

380,600

44

277,200

325,600

381,400

45

277,600

326,300

382,200

46

278,000

327,000

383,000

47

278,400

327,700

383,800

48

278,800

328,400

384,600

49

279,200

329,100

385,400

50

279,600

329,800

386,200

51

280,000

330,500

387,000

52

280,200

330,860

387,400

53

280,400

331,220

387,800

54

280,600

331,580

388,200

55

280,800

331,940

388,600

56

281,000

332,300

389,000

57

281,200

332,660

389,400

58

281,400

333,020

389,800

59

281,600

333,380

390,200

60

281,800

333,740

390,600

61

282,000

334,100

391,000

62

282,200

334,460

391,400

63

282,400

334,820

391,800

64

282,600

335,180

392,200

65

282,800

335,540

392,600

66

283,000

335,900

393,000

67

283,200

336,260

393,400

68

283,400

336,620

393,800

69

283,600

336,980

394,200

70

283,800

337,340

394,600

71

284,000

337,700

395,000

72

284,200

338,060

395,400

73

284,400

338,420

395,800

74

284,600

338,780

396,200

75

284,800

339,140

396,600

76

285,000

339,500

397,000

 

細分化した分、評価差を金額に反映させることもできます。良ければ6号俸とか7号俸というように昇給させたり、悪ければ4号俸とか3号俸しか上げないという運用も可能です。また、号俸が細かく分かれているので、昇格者や中途採用者の給与を比較的無理なく位置づけることが可能となります。

この表で「標準昇給額」というのは、標準的な滞留年数に該当する号俸域(126号俸)で標準的な評価を得た場合に適用される号俸の上方移動(表6では5号俸アップ)が行われた際の昇給額をいいます。表5における「定期昇給額」と同額なので、表を作成する時には表5の「定期昇給額」を5で除した金額が1号俸の差額(例えば2号と1号の差額)となっています。

改定前から表6の段階号俸表を用いているとすれば、実在者4名の等級と号俸は次のようになります。

 

Aさん:2等級17号俸300,400

Bさん:2等級10号俸290,600

Cさん:1等級14号俸260,600

Dさん:1等級1号俸250,000円(初任格付け)

 

もし、ベースアップ(号俸表そのものを全面的により高い金額に書き換えること)がなければ、評価結果は標準的なものであったと仮定して、5号俸ずつ号俸を加算することになるので、この4名は表6により次のように定期昇給が行われるはずです。

 

Aさん:2等級22号俸307,400円、昇給額7,000円(2.3%アップ)

Bさん:2等級15号俸297,600円、昇給額7,000円(2.4%アップ)

Cさん:1等級19号俸264,400円、昇給額4,000円(1.5%アップ)

Dさん:1等級6号俸254,000円、昇給額4,000円(1.6%アップ)

 

さて、表5の最も低い給与額である1等級1号俸を、25万円から28万円に引き上げたとすれば、表5の金額全体が引き上げられることになります。これは、前回説明したレンジマトリクスと同様です。給与レンジや定期昇給額を調整した結果が表7となります。

 

表7・基本給号俸表(改定後)

   

給与等級

給与レンジ

給与月額

定期昇給額

3等級

滞留上限(16号)

433,500

0

(主査)

超過滞留(11号)

424,000

1,900

 

標準滞留年(6号)

405,000

3,800

 

初号(下限)

367,500

7,500

2等級

滞留上限(16号)

380,000

0

(主任)

超過滞留(11号)

371,000

1,800

 

標準滞留年(6号)

353,500

3,500

 

初号(下限)

318,500

7,000

1等級

滞留上限(16号)

328,500

0

(担当)

超過滞留(11号)

321,500

1,400

 

標準滞留年(6号)

307,500

2,800

 

初号(下限)

280,000

5,500

 

この表は表5と同じルールで作成され、運用されますから、定期昇給や昇格昇給も表5と同様に行われます。

5から表7へとベースアップが行われたのと同じく、表6からベースアップを施したものが表8になります。

 

8・基本給段階号俸表(改定後)

 

給与等級

1等級(担当)

2等級(主任)

3等級(主査)

標準昇給

5,500

7,000

7,500

1

280,000

318,500

367,500

2

281,100

319,900

369,000

3

282,200

321,300

370,500

4

283,300

322,700

372,000

5

284,400

324,100

373,500

6

285,500

325,500

375,000

7

286,600

326,900

376,500

8

287,700

328,300

378,000

9

288,800

329,700

379,500

10

289,900

331,100

381,000

11

291,000

332,500

382,500

12

292,100

333,900

384,000

13

293,200

335,300

385,500

14

294,300

336,700

387,000

15

295,400

338,100

388,500

16

296,500

339,500

390,000

17

297,600

340,900

391,500

18

298,700

342,300

393,000

19

299,800

343,700

394,500

20

300,900

345,100

396,000

21

302,000

346,500

397,500

22

303,100

347,900

399,000

23

304,200

349,300

400,500

24

305,300

350,700

402,000

25

306,400

352,100

403,500

26

307,500

353,500

405,000

27

308,060

354,200

405,760

28

308,620

354,900

406,520

29

309,180

355,600

407,280

30

309,740

356,300

408,040

31

310,300

357,000

408,800

32

310,860

357,700

409,560

33

311,420

358,400

410,320

34

311,980

359,100

411,080

35

312,540

359,800

411,840

36

313,100

360,500

412,600

37

313,660

361,200

413,360

38

314,220

361,900

414,120

39

314,780

362,600

414,880

40

315,340

363,300

415,640

41

315,900

364,000

416,400

42

316,460

364,700

417,160

43

317,020

365,400

417,920

44

317,580

366,100

418,680

45

318,140

366,800

419,440

46

318,700

367,500

420,200

47

319,260

368,200

420,960

48

319,820

368,900

421,720

49

320,380

369,600

422,480

50

320,940

370,300

423,240

51

321,500

371,000

424,000

52

321,780

371,360

424,380

53

322,060

371,720

424,760

54

322,340

372,080

425,140

55

322,620

372,440

425,520

56

322,900

372,800

425,900

57

323,180

373,160

426,280

58

323,460

373,520

426,660

59

323,740

373,880

427,040

60

324,020

374,240

427,420

61

324,300

374,600

427,800

62

324,580

374,960

428,180

63

324,860

375,320

428,560

64

325,140

375,680

428,940

65

325,420

376,040

429,320

66

325,700

376,400

429,700

67

325,980

376,760

430,080

68

326,260

377,120

430,460

69

326,540

377,480

430,840

70

326,820

377,840

431,220

71

327,100

378,200

431,600

72

327,380

378,560

431,980

73

327,660

378,920

432,360

74

327,940

379,280

432,740

75

328,220

379,640

433,120

76

328,500

380,000

433,500

 

この表を用いると、実在者の等級・号俸・給与月額・昇給額(定期昇給とベースアップの合算額)は次のようになります。

 

Aさん:2等級22号俸347,900円、昇給額47,500円(15.8%アップ)

Bさん:2等級15号俸338,100円、昇給額47,500円(16.3%アップ)

Cさん:1等級19号俸299,800円、昇給額39,200円(15.0%アップ)

Dさん:1等級6号俸285,500円、昇給額35,500円(14.2%アップ)

Eさん:1等級1号俸280,000円(初任格付け)、初任給としては30,000円(12%)アップ

 

号俸表の仕組みを活かしたうえで、最も下位の等級・号俸を10%以上、一気に昇給させると、もともとある定期昇給の昇給率(約2%)に加えて、全体的に同じ率でスライドさせる昇給(ベースアップ)があるので、個別には15%前後の昇給率となることがわかります。

号俸表及び段階号俸表は、金額そのものを管理するのではなく、等級と号俸を管理します。そのため、ベースアップ等による表の書き換えが起きた際は、個別の調整を考えることが不要で、書き換え後の表に基づいて給与額が決まります。その分、機械的に取り扱うことができる半面、人件費の増額が不可避です。実務的には、個別の昇給シミュレーションを行った上で人件費総額への影響を確認して、再度、個別の昇給シミュレーションに戻ることになります。

 

(6)に続く

 

【注6

段階号俸表及び号俸表の仕組みについても、当コラムで以前ご紹介したことがあります。以下のものを参照してください。

レンジマトリクス方式による賃金管理とは(5) - QMS 行政書士井田道子事務所 (qms-imo.com)

 

作成・編集 人事戦略チーム(2024531日)