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アヌーク・エーメ氏の訃報に接して

アヌーク・エーメ氏の訃報に接して

 

昨日、フランスの俳優であったアヌーク・エーメ氏がパリの自宅で亡くなったことを、娘で俳優のマヌエラ・パパタキス氏がインスタグラムで発表しました(注1)。92歳でした。1940年代から映画に出演し、2019年公開の「男と女 人生最良の日々」まで現役で活躍してきており、私生活も含めて、正に女優という存在でした(注2)。

実際に鑑賞したことがある作品として次のもの(注3)があります。

 

「甘い生活」(“La Dolce Vita”イタリア、1960年)

「ローラ」(“Lola”フランス、1961年)

「81/2」(“8 1/2”イタリア・フランス、1963年)

「男と女」(“Un homme et une femme”フランス、1966年)

「男と女Ⅱ」(“Un homme et une femme :vingt ans deja”フランス、1986年)

 

極めて限られた作品しか見ていませんし、それらも公開当時でなく20年ほど経った頃に見ているものが大半です。従って、かなり偏った印象しかありませんが、それでも十分にインパクトがありました。

フェデリコ・フェリーニ監督作品(「甘い生活」と「81/2」)では、当時のイタリアやフランスの女優を体現しているようです。それぞれの作品の故でしょうか、享楽的とか頽廃的といった表現が浮かびます。現代では、あまり見ることがなくなったキャラクターを見事に演じています。

一方、ジャック・ドゥミ監督の「ローラ」とクロード・ルルーシュ監督の「男と女」2作品では、ヌーベルバーグ只中のフランス映画らしくスタジオを出て街やホテル、海辺や港で楽しく作っているような感覚が得られます。恋愛も仕事もしっかりとやり通すのが人生というところでしょうか。

「ローラ」は主人公を巡って様々な男たちと出逢っては別れていく物語で、ジャック・ドゥミの監督デビュー作です。後にシェルブールやロシュフォールといった港町を舞台にミュージカル映画を作っていく嚆矢となった作品で、軍港の街ナントを舞台に歌手兼ダンサーを氏は演じます(注4)。実はローラという名前は別の作品でセリフに引用されたり、この作品の登場人物が後の作品にも登場したりして、ジャック・ドゥミならではの世界がここから始まります。そのタイトルロールを演じており、強く印象に残っています。

一般的な知名度では、「男と女」の主人公アンヌを演じたことのほうが優っているでしょう。その20年後を描いた「男と女Ⅱ」は興行面では前作に及ばなかった以上に、制作された映像面でも物語の上でもあまり印象が残らなかったことが残念でした。ラブストーリーで続編を製作するのは、アクションものやホラー映画に比べて難しく成功例があまり見られないとしても、第1作の20年後を描くことに大きく期待していたせいか、Ⅱではキャラクターも平板に見えてしまいました。

そして、「男と女」の50年後の姿を描いた「男と女 人生最良の日々」(“Les plus belles annees d’une vie”フランス、2019年)では、再度、ジャン=ルイ・トランティニャンと共演しました。既に主役二人が亡くなった今、この作品を観て50年に及ぶ物語と映画製作そのものに思いを馳せる時間をもちたいものです。

 

【注1

たとえば、以下のように報じられています。

『男と女』のアヌーク・エーメが死去 享年92歳 | カルチャー | ELLE [エル デジタル]

仏俳優アヌーク・エーメさん死去、92 「男と女」で人気博す (msn.com)

 

【注2

 

出演作品が紹介されている映像です。

 

【注3

 

以下に予告編などで作品を紹介します。

 

【注4

 

歌っているシーンもあります。

 

 作成・編集:QMS代表 井田修(2024619日)