ドナルド・サザーランド氏の訃報に接して
先週の木曜日、カナダの俳優であったドナルド・サザーランド氏が亡くなったことを息子で俳優のキーファー・サザーランド氏がXで発表しました(注1)。88歳でした。死因などは公表されていませんが、闘病生活を長く送っていたとの報道もあります。
1960年代から映画やTVに出演し、遺作となった公開予定作品まで現役で活躍してきました。大作の主役もあれば、スケッチ風のショートコントに出演するだけというものもあります。冷徹な軍人や支配者も演じれば、子供を思う父親も演じれば、色事師もあります。実に幅の広い俳優でした。
実際に鑑賞したことがある作品として次のもの(注2)があります。
「M★A★S★H マッシュ」(“M*A*S*H”USA、1970年)
「ジョニーは戦場へ行った」(“Johnny Got His Gun” USA、1971年)
「赤い影」(“Don’t Look Now”イギリス・イタリア、1973年)
「カサノバ」(“Il Casanova di Federico Fellini”イタリア・USA、1976年)
「鷲は舞いおりた」(“The Eagle Has Landed”イギリス・USA、1976年)
「ケンタッキー・フライド・ムービー」(“The Kentucky Fried Movie”USA、1977年)
「アニマル・ハウス」(“National Lampoon’s Animal House”USA、1978年)
「大列車強盗」(“The First Great Train Robbery”USA、1979年)
「オーロラ殺人事件」(“Bear Island”カナダ・イギリス、1979年)
「普通の人々」(“Ordinary People”USA、1980年)
「針の眼」(“Eye of the Needle”イギリス・USA、1980年)
「レボルーション めぐり逢い」(“Revolution”USA、1985年)
「アウトブレイク」(“Outbreak”USA、1995年)
これらのうち、主役やタイトルロールを演じたものが「赤い影」「カサノバ」「オーロラ殺人事件」「針の眼」、主役グループの1人または主役に近いものが「M★A★S★H マッシュ」「鷲は舞いおりた」「大列車強盗」「普通の人々」、極めて印象深い脇役でインパクトを残すのが「ジョニーは戦場へ行った」「アニマル・ハウス」、主人公に対する敵役として存在感を発揮しているのが「レボルーション めぐり逢い」「アウトブレイク」というところでしょうか。
作品ジャンルも多様です。戦争や戦場を扱ってはいても、ブラック・コメディの「M★A★S★H マッシュ」もあれば、ジョン・トランボが生み出した明確な反戦映画「ジョニーは戦場へ行った」もあれば、いわゆる戦争物でノルマンディー上陸作戦とチャーチル暗殺計画を描く「鷲は舞いおりた」や細菌戦争を描く「アウトブレイク」もあります。
ニコラス・ローグ監督の代表作でサイコスリラーの「赤い影」、サスペンスの「オーロラ殺人事件」と「針の眼」、学園コメディの「アニマル・ハウス」、ショートコントの「ケンタッキー・フライド・ムービー」、俳優のロバート・レッドフォードが監督したストレートな現代の家族劇「普通の人々」、一種の時代劇でその時代と場所を再現した「カサノバ」と「レボルーション めぐり逢い」と、実に様々な作品に出演しています。
個人的に最初に観たのは、多分「ケンタッキー・フライド・ムービー」です。次が「アニマル・ハウス」で、これは主演のジョン・ベルーシ扮するダメな大学生の学生生活をジョン・ランディスが監督したコメディ映画です。この中で、氏は出演するシーンは少ないものの、文学の教授に扮してジョン・ミルトンの「失楽園」を講じながらリンゴを齧るシーンは、当時も強烈なインパクトがありましたし、今でもはっきりと記憶が甦ります。
フェデリコ・フェリーニ監督に嵌まっていた時期に観た「カサノバ」も忘れ難い作品です。タイトルロールの色事師が最後に求める恋人である人形と踊るシーンも、単なるイケメン俳優が演じると興醒めになりそうなシーンですが、氏の演じるジャコモ・カサノバが長年の女性遍歴の最後に巡り合った姿として納得させられるものがあります。
「M★A★S★H マッシュ」で扮したやり手だが規律を無視する軍医、良き父や良き夫であろうとする「赤い影」や「普通の人々」で演じた父親(夫)などは、普通の人が戦争(「M★A★S★H マッシュ」)・子供の死(「赤い影」)・家庭の崩壊(「普通の人々」)といった異常な事態に直面したところからのドラマを、それぞれの作品の異なる特色に応じて演じ分けています。
もうひとつの嵌まっていた役柄は、「レボルーション めぐり逢い」や「アウトブレイク」で演じた冷徹な軍人、「鷲は舞いおりた」で扮したIRAのテロリスト、「針の眼」のスパイといったものです。これらは敵役といってもいいでしょう。俳優によっては、最初からオファーを断る役かもしれません。こうした役にチャレンジして見事に演じ切るのも、俳優としての力量を表しているに違いありません。
とは言え、氏自身はアカデミー賞には縁がありませんでした。出演作は「普通の人々」が作品賞・監督賞・脚色賞・助演男優賞、「M★A★S★H マッシュ」が脚本賞、「カサノバ」が衣装デザイン賞を受賞するなど、評価の高いものがいくつもあります。その存在抜きにはこうした作品が成立しなかったかもしれないと思うと、多種多様な役を演じた俳優としての存在の大きさを改めて感じざるを得ません。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
D・サザーランドさん死去、88歳 映画「マッシュ」「普通の人々」 (msn.com)
『ハンガーゲーム』のドナルド・サザーランドが死去 息子のキーファー・サザーランドが発表 | カルチャー | ELLE [エル デジタル]
【注2】
以下に予告編などで作品を紹介します。
作成・編集:QMS代表 井田修(2024年6月24日)