ベンチャーにおける営業を再考する(1)
ベンチャービジネスにおいて新たな技術・製品・サービスを開発したり、資金調達を計画的に行ったり、事業立ち上げのチームとなる人材を獲得したりすることは、既に数多くの考察が行われてきたように思います。ところが、顧客を獲得し製品やサービスを提供して売上を作る営業については、あまり考察が進んでいないのではないでしょうか。ベンチャービジネスの立ち上げのプロセスにおいて、営業の重要性は他の要因に比べて重視されているとは言い難いものがあるにも関わらず、です。
一般に営業というと、ルートセールス・プロダクト営業・ソリューション営業・インサイト営業という4類型があります。
ルートセールスというのは、時に御用聞き営業と呼ばれることがあるように、主に既存の顧客との定期的な接触を通じて、受注や営業交渉を行うものです。
プロダクト営業は、製品やサービスの開発・マーケティングを通じて潜在的な顧客のニーズを満たすことで売上につなげていきます。通常はプッシュ型の営業スタイルとなるでしょう。
ソリューション営業というのは、顧客の認識している課題について解決策を提案し、その解決策をひとつのパッケージとして販売するものです。そのため、顧客に課題を認識してもらうところからアプローチする必要があることもあります。
インサイト営業は、顧客がいまだ気づいていない課題を抽出したり、課題と認識してはいても解決のアプローチが違っていてなかなか解決に至らない問題に対して、別の角度からアプローチすることでより根本的な解決策を示唆したりするものです。
これらの営業スタイルは、医薬品販売を例にとって、その違いを説明することが往々にしてあります。
ルートセールスというのは、昔ながらの「富山の薬売り」のイメージです。定期的に顧客を訪問して、使った薬を補充してその使用分の代金を回収します。よく目にするものでは、飲み物の自販機の営業が正にこれです。
プロダクト営業というのは、ドラッグストアでしょうか。薬を求めにやってきた顧客にプロダクト(薬)を売るのですが、特に新製品でもない限り、季節や流行(風邪が流行っているなど)に応じてプロダクトの仕入れをコントロールして、広告・宣伝及び価格戦略やおまけなどでより多く売ろうとする営業スタイルです。また、処方箋に従って処方薬を出すというのもプロダクト営業です。店舗の場合、立地条件や出店戦略も重要です。
ソリューション営業というのは、降圧剤の処方箋をもってきた患者に対して、「高血圧でお悩みの方に」というフレーズで、血圧計・血圧データ管理アプリ・減塩食品のお試しセットなどをひとつのパッケージとして提案する営業方法です。時には、顧客の事情に応じて、パッケージの内容は変化することもあるでしょう。
インサイト営業というのは、個々の患者に処方された薬を出すとともに、血圧が高くなりがちな生活習慣や日常的にため込んでいるストレスなども分析して、それらへの対処法を指導したり生活習慣を変えるためのナッジを提案したりするものです。処方箋を出すクリニックや地域の保健機関などとの連携から、地域の実態に即した高血圧予防の活動を提案することも求められそうです。
もうひとつ、一般の企業に車を売るという場合を考えてみましょう。
ルートセールスでは、個々の会社や個人に対してチラシを配ったり訪問したりして「車はいりませんか」と尋ね歩くか、既に車を所有しているところに出向いて「もう1台あると便利ですよ」とか「そろそろ車検が切れるのであれば、うちで引き取りますから、次はこの新車はいかがですか、今なら自動車ローンの金利が半分になるキャンペーンをやっています」とセールストークを展開する方法です。
プロダクト営業では、ディーラーなどで新車や中古車を並べて、営業担当がセールストークともちろん、価格競争(値引きや無料オプションの提供、より低金利の自動車ローンなど)やサービス競争(納期が早い、登録代行、車検手配、廃車手続き代行など)で顧客の購買意欲を煽りながら商談を進めます。
ソリューション営業では、顧客が自動車を所有し管理する労力・時間・コストが負担であると感じているのを把握した上で、こちらから自動車の所有・管理に関する作業を一括して代行するサービスをパッケージで提案するようなものです。ここまでは、あくまでも「車を売る」範疇にあります。
インサイト営業では、「車を売る」という範疇を取り払うことが要請されるかもしれません。顧客のモビリティに関するニーズの本質は何かを探求した上で、仮に顧客企業にとって自分たちの顧客との対面コミュニケーションを可能とするための手段として、モビリティ(自動車による移動)という方法が採られていたことを把握したとします。そこで、自動車による移動ではなく、テレコミュニケーションのツールを提供することで、物理的移動がなくても同程度若しくはより上質なコミュニケーションが実現できることを実証的に提案することになります。つまり、自動車を販売したり法人向けのカーリースのサービスを提供したりするのではなく、自動車を求めている顧客に対してテレコミュニケーションの仕組みを提案し、その実現に向けて顧客とともにプロジェクトを進めるのがインサイト営業の一例ということになります。
さて、このコラムでは法人営業を前提に、法人向けに開発したプロダクトやサービスを事業化する上で、それぞれの営業スタイルが成立するための条件や運用上のポイントを見ていきます。そして、ベンチャービジネスを立ち上げて発展させていく上で採るべき営業戦略や営業体制などについて、考察していきます。
作成・編集:経営支援チーム(2024年6月28日)