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ベンチャーにおける営業を再考する(3)

ベンチャーにおける営業を再考する(3)

 

次に、プロダクト営業について考えてみましょう。

プロダクト営業は、製品やサービスの開発・マーケティングを通じて潜在的な顧客のニーズを満たすことで売上につなげていきます。通常はプッシュ型の営業スタイルで、法人間での取引関係では一度取引が開始されると、特に問題が生じたりライバル社が強力な新製品・新サービスを開発してこない限り、取引関係が継続するものです。一般的に言えば、プロダクト営業は既存顧客のつなぎ止めと新規顧客の開拓というふたつの手法で拡販というミッションを果たすべき役割ということになります。

プロダクト営業は営業プロセスのある部分を担うことになります。営業プロセスというのは、潜在顧客(層)の特定、プロダクトや製品の広告・宣伝、展示会やセミナーなどでの潜在的な顧客の興味・関心の惹起、見込み客からの引き合い、商材や取引条件などの提案・見積もり、新規取引の成約・受注、製品・サービスの納入、フォローアップ、次の製品・サービスの紹介及びクロスセルの提案、顧客のグレードアップ(単なる取引先から優良な取引先や上得意先へ)といった一連の営業活動のフローになります。

これらのフローのうち、どのプロセスを営業担当に担ってもらい、ここからここまではマーケティング部門、ここからは技術(セールスエンジニア)の担当、ここは顧客サポート部門が対応し、与信管理や請求・入金確認は業務部門や経理部門が管理するといった仕事の区分けが必要となります。売り込むべき材料(商材)となる製品やサービスを開発・改良するのは開発や技術が行うとして、顧客からの声(クレームや不平不満ということもあれば感謝や日常的なあいさつに含まれた声ということもあります)を受けるのは一義的には営業でしょうから、顧客からのフィードバックを取りまとめて報告するのも、営業の仕事の一部とする組織が多いものと思われます。

ここで仮に、営業担当の仕事は見込み顧客または既存顧客から製品やサービスについて具体的な引き合いがあったところから商談を進めて契約を結んで製品・サービスを納入して請求書の発行を社内担当部署に依頼するまでとしましょう。引き合いよりも前の段階はマーケティング部門が担当し、請求書発行より後は経理部門が担当します。提案書や見積書は社内のストックからAIを活用して適切なものに作り替えたり、技術支援部門との共同作業でテクニカルな事項も含めて提案を行ったりしますが、イニシアティブは営業がもちます。

こうした場合、顧客セグメンテーションに基づいて営業拠点のありかたも多様です。顧客の属性上の違い、例えば、官公庁、地方自治体、大企業、中小企業、オーナー会社、NPOなどの非営利の民間組織といった違いによっても営業スタイルや案件獲得のキーポイントも変わります。競争入札なのか指名入札なのか、競合他社からも見積もりをとるのかなど、手続きもいろいろですし、顧客の意思決定者とそれに影響を及ぼすキーパーソンも様々です。

こうした要素は、旧来の営業モデルでは、営業担当者の個々のスキル・ノウハウ・㊙リストなどに依っていたと言われます。また、取引関係が長いほど、組織的な関係よりも属人的な関係で営業が行われているかのように錯覚することも起こりがちです。もちろん、顧客から関連会社や同業者などを紹介してもらうなど、人脈を広げて拡販につなげるのもプロダクト営業の王道ですが、今更ながらアフター5での付き合いで人脈を広げるという時代ではないでしょう。

現在では、営業プロセスを分析して成約に至るキーポイントを抽出し、それらを仕組みに落とし込んだり、マーケティング・オートメーションを導入して、潜在的な顧客へのアプローチの数を飛躍的に多くすることで成約の効率も件数も向上させたり、インサイドセールスのように既存顧客に別の製品やサービスを売り込む機能を強化して営業は新規開拓に専念させたりするなど、営業モデルの革新がプロダクト営業にも訪れています。

顧客から見れば、引き合いを受けてQCD(品質・コスト・納期条件)について交渉する窓口がプロダクト営業担当者でしょう。

品質や機能については自社HPやセミナー・展示会などを通じて引き合い前に概略を理解してもらうにしても、いわゆるカスタマイズについては自社のエンジニアやセールスサポート部門(別会社であることも)へ引き継ぐことになります。

コストは単純な価格交渉だけでなく、支払い条件(一括か分割か、頭金や着手金の有無など)、支払うべき法的対象と支払いのタイミング(所有権ならば一括支払いか分割払い、使用権や利用権ならばサブスクリプション・リース・都度払いなど1回の支払額は低額となるもの)、価格割引の代わりに広告やセミナーやなどに協力してもらうといったことなども依頼するのかなど、交渉すべき事項は多岐にわたるかもしれません。

納入についても、営業担当者が直接立ち会う必要があるものもありますし、納品は全て物流業者任せという形態もあります。いずれにせよ、納期遵守と納入時の検品確認は必要です。製品はまだしもシステムやサービスについては、稼働させてみないと不具合が出るかどうかわからないケースもあるため、営業だけでなくエンジニアなどの技術スタッフの立ち合いが求められることもあるでしょう。いわゆるセールスエンジニアとか専門的な技術を有すると認定を受けている営業担当者であれば、こうした立ち合いに一人で対応できるかもしれませんが、その分の営業教育に時間・労力・資金がかかります。

このように、営業担当者の業務範囲(営業プロセス全体のどの部分か)、交渉権限の持ち方、技術的な知識や公的資格の必要性などによって、人材イメージや求められるスキルや報奨制度は異なります。そして、営業の組織体制及び他の関連部門との関係、マネジメントのありかた、営業組織の歴史やカルチャー(上意下達の軍隊型の組織風土か理路整然とした科学的な分析を重視するカルチャーか)、業務体制なども、同じようなプロダクト営業だからと言って同じようなものとは言えず、それぞれの事業戦略や経営資源のありかたによって異なるはずです。

プロダクト営業というと、プレゼンがうまいとか人脈作りに長けているといったイメージがあるかもしれませんが、製品やサービスに特段の優位性がない場合は営業体制全体のもつ能力の勝負となります。その組織的な能力の差が、品質や機能の面ではその差が同じようなプロダクトにも関わらず、単価が違ったり、納入量の桁が違ったり、顧客で使われる範囲(全社なのか一部門や支店だけなのか)が違ったりすることにつながるのです。

 

ベンチャーにとってのプロダクト営業というと、既存顧客とか有望な見込み顧客は存在していない状況で、ゼロからイチを作り出すところからスタートしなければなりません。

法人向けに売る製品やサービスでは最初の顧客が自社というのはよくあることなので、ゼロからイチは進みやすいかもしれません。2社目、3社目は、起業家個人の人脈などで開拓することも可能ですから、5社程度との取引は比較的早い時期に成り立つこともあるでしょう。問題はそこからいかにスケールアップしていくのか、そのスピードをいかに上げていくのかという点です。

つまり、ベンチャーこそ、営業の仕組み化・システム化・組織化が必要なのです。できれば起業家自身に営業経験があって、プロダクト営業の組織を立ち上げたりマネジメントしたりしたことがあれば、より望ましいのです。もしそうでなければ、営業経験や営業組織のマネジメント経験を有する人を立ち上げメンバーとして迎え入れることが早道でしょう。

もちろん、AIを活用して成功パターンを抽出するとか、失敗例からダメなポイントをAIに学習させるといったことも併用しながら、自社に必要なプロダクト営業のありかたを作り出していくことも効果的でしょう。無理に多くの営業担当を抱え込まずとも、顧客や見込み顧客とリモートでコミュニケーションをとり、提案書や見積書などもAIを活用して作成するなどして、少人数で効率の良い営業組織を運営するのに実績のある営業マネージャーを一人雇うことができれば、ベンチャーのプロダクト営業は十分に機能するはずです。

 

 (4)に続く

 

 作成・編集:経営支援チーム(2024719日)