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ミンツバーグの組織論(4)

ミンツバーグの組織論(4

 

(4)組織に作用する力と発展した組織形態

 

組織は、基本的な4形態に留まるものではありません。著者によれば、基本的な4形態に作用する力が主に7つあり、それらの力を受けて組織は基本的な4形態から発展した3形態(事業部型、コミュニティシップ型、政治アリーナ型)を取ると述べられます。

 

  4形態と4つの力

 

パーソナル型・プログラム型・プロフェッショナル型・プロジェクト型という組織の基本的な4形態には、「統合」「効率」「熟達」「協同」という4つの力が作用します。

「統合」は、パーソナル型の組織で最も明確に現れます。パーソナル型では最高位者に権力が集中しているため、他のメンバーは組織に統合されざるを得ません。一方、平常時のプログラム型の組織では、システムが統合の機能を果たすことになります。またプロフェッショナル型では、専門職が独立して自律的に動くので、統合はそもそもあまり必要ではありません。

「効率」は、プログラム型の組織に典型的に見られます。反対に最も効率を志向しない(できない)のがプロジェクト型の組織です。ほかの二つの組織形態では、効率を重視するマネジメントやアナリストの存在が、最高位者や専門職との対立を生じさせかねない危惧があります。

「熟達」は、プロフェッショナル型の組織で最も強く求められる力です。最高の成果を生み出すには、専門家からなるチームとそのメンバー個々の熟達した技と知見が必要なので、当然、作用するのが熟達です。プログラム型では熟達は多少なりとも必要ですが、そもそもシステムとオペレーターへのトレーニングが熟達を補完するはずのものです。

「協同」は、プロジェクト型の組織で最も重視されます。特にイノベーションを実現するのに不可欠な力です。もちろん、他の組織形態でも不要というわけではありませんが、パーソナル型では「協同」よりも「統合」、プログラム型では「協同」よりも「効率」、プロフェッショナル型では「協同」よりも「熟達」が優先されます。

 

  触媒のような3つの力

 

これらの4つの力に加えて「上からの分離」「文化の注入」「対立の浸食」という3つの力が組織に加わり、いわば触媒のように組織に変化をもたらします。

 

「上からの分離」とは、分業と協業の原理に基づく組織作りのことです。言い換えると、分権化と専門化及び意思決定と調整を進めることです。組織が大きくなり、いくつもの異なる市場や技術分野で事業を行っていくほど、この力も大きくなるのは必然でしょう。より現場に近いところで物事を決めて行かなければ仕事が進まない半面、上と現場が完全にバラバラになっても事業はうまくいきません。そこで、計画とコントロール、調整、成果の標準化などが必要となります

パーソナル型ではこの力が小さいこともあります。プログラム型では、もともと上(組織上の最高位者)から分離してチェーンとなっていることが多いので、組織が大きくなるほどこの傾向が強まり、最も顕著に見受けられます。プロジェクト型でも、もともと分離していることがよく見られるのとは反対に、最高位者が直轄するプロジェクト型組織というのもあって「上からの分離」は一律に作用する力というわけではないことがわかります。

 

「文化の注入」は、組織内の人々を同じ方向に引き寄せる力です。通常、以下の3段階を経て形成されます。第1段階は、しばしばカリスマ性のあるリーダーを中心に、強い使命感とともに文化の土台が築かれる段階です。特に創業時や経営危機の際にはっきりと見られるもので、パーソナル型組織と適合的です。第2段階は、先例やストーリーを通じて、新しい考え方が拡散される段階です。先例が確立され、伝統ができていきます。個々のストーリーからサガ(叙事詩)の体系が成立するとも言えます。この段階で、リーダーやマネジメントの個人的な価値観から組織として持つ文化(制度)になるのです。第3段階が、帰属意識と社会化を通じて文化が強化される段階です。社会化や教化のプロセスを通じて、既存のメンバーだけでなく、新規のメンバーにも伝統やサガが共有されるようになります。

プログラム型では「文化の注入」よりも、作業標準、システム、ルール、数値目標といった公式化された仕組みで人々を同じ方向に向かわせようとします。一方、プロフェッショナル型では、組織への帰属よりも、職業(職種)への帰属や個人の価値観が優先されがちです。とはいえ、中にはより強力な文化ができ上って、それが他社との違いとして競争力の源泉になるプロフェッショナル型組織も実在します。同様の傾向はプロジェクト型でも見られるので、この力が組織の文脈のどこでどのように作用したのか、歴史的な背景を理解することが重要となります。

 

「対立の浸食」は「文化の注入」とは反対に、組織内の人と人、部署と部署を引き離す力です。どのような組織でもその内部で何らかの意見の対立(=深刻な不一致)が生じると、政治的な駆け引き(ゲーム)で対立の解消に向かう場合が出てきます。

この政治的なゲームは、著者によると13種類あります。反乱、反乱鎮圧、後ろ盾、同盟作り、帝国作り、予算獲得、専門性、君臨、ライン対スタッフ、陣営間対立、戦略選択、内部告発、体制転覆です。いずれも、正規の権力機構(組織と権限)の存在を前提に、その力を正規に行使(濫用)するのか、影響力を行使するのか、対立し無効化しようとするのか、という政治的な駆け引きが行われることになります。

パーソナル型の組織では、対立が起きにくいでしょう。もし起きても、対立が明確化したり、対立の解消に向けて政治的な駆け引きを行ったりする前に、正規の権限を最高位者が行使して対立を解消させることができます。自分に反対する者を馘にすることもできるはずです。

最も対立が生じやすいのはプログラム型です。分業と専門分化が最も徹底される以上、職種や部署の間、現場とスタッフとの間、マネージャーとアナリストとオペレーターの相互の間など、どの関係でも対立は不可避です。実際、サイロやスラブが常態化し派閥を生じさせるのが、プログラム型なのです。予算獲得、専門性、ライン対スタッフ、陣営間対立などは程度の差はあれども、どこにでも見られるでしょう。時には、同盟作り、帝国作り、内部告発、体制転覆といったゲームに至ることも珍しくはないでしょう。

プロフェッショナル型やプロジェクト型では、権限のシステムが比較的弱く専門性のシステムが強いため、組織内で権力が分散する傾向が強いのです。対立よりも、文化の注入が欠けて組織としてのまとまりが失われるほうが危惧されます。

こうした対立や政治的なゲームは、組織にとって必ずしもマイナスとは言い切れない面もあります。この行動の中から、最も実力のあるメンバーがリーダーとして認知される契機となることもあれば、正規の権力機構では解決されない課題や問題の側面を明らかにすることもあるからです。組織が人間の集まりである以上、正規の機構や調整メカニズムがいかに公式化されたとしても、それらだけでは物事は進まないのです。

 

  3つの組織形態

 

4形態に作用する4つの力、すなわち「統合」「効率」「熟達」「協同」、及び「上からの分離」「文化の注入」「対立の浸食」という3つの力を受けて、組織は基本的な4形態から、「事業部型」「コミュニティシップ型」「政治的アリーナ型」の3形態を出現させることがよくあります。

 

「事業部型」は一般に、垂直統合(事業活動のチェーンを伸ばすこと、川上や川下に進出すること)、副産物による多角化(中間製品の販売や余剰資産の有効活用など)、関連製品による多角化(副産物が主要な製品やサービスに匹敵する重要性をもつ)、コングロマリットによる多角化(事業部ごとに扱う製品やサービスが完全に別のもの)という4つのステージを経て、より本格的な事業部制に移行します。更に、顧客や地域を多角化する場合が加わります。つまり、「事業部型」は「上からの分離」と「統合」という二つの力のバランスを受けて形成されます。

個々の事業部は、他の事業部から独立しており、本社部門からも一定の独立性をもっています。本社のアナリストたちは基本的に成果によるコントロールを行いますが、事業部のポートフォリオ管理(特に事業部の分離・閉鎖・売却など)、事業部のマネージャー(最高位者)の任免、事業部への予算配分、各事業部への本社サポートサービスの提供などは、本社が決定し実行するものです。

理論的には、「事業部型」は基本的な組織形態すべてに適用可能ですが、現実的にはプログラム型組織との相性が良いでしょう。他の形態が混在する場合には、プログラム型組織ではない事業部は本社CEOの直轄とするなど、本社のアナリストのコントロールから外して、秩序やルールを重視する文化からも遠ざけるほうが、成果を出しやすいようです。

事業部が違うと利益構造も文化も違うので、同一の視点で見ることができるのは財務指標になりがちです。そのため、仕事の質を見るよりも効率を見てしまいます。効率を向上させるといっても、コスト、特に経済的なコストを削減して効率を高める方向にばかり、本社の最高位者(CEO)やアナリストの目が行きがちです。

その結果、事業部横並びの財務重視の数値目標、その結果を追及する業績評価、単一事業に比べて低い利益率、CEOではなくゼネラル・マネージャーに責任を負わせがちなど、コングロマリットの弊害や失敗については枚挙に暇がないほど指摘されてきました。

しかし、メリットにも目を向けるべきです。例えば、資本の効率的配分、ゼネラル・マネージャーの育成、リスクの分散、戦略的機敏性といったものは、「事業部型」の組織形態の長所として指摘できます。

なお、この形態は営利企業にのみ見られるものではありません。政府機構やNGO、慈善団体や財団なども多角的な組織形態をとっているものは、「事業部型」の形態を取っています。特に政府機構や国際機関は典型的で、提供するサービスの対象や内容が全く異なるコングロマリットの形態をとっているものが多いのです。現実には、なかなかうまくは運営されない実例となっています。

 

「コミュニティシップ型」は、「文化の注入」が最も強く表れている形態です。この形態の特徴は、組織内における調整のメカニズムとして規範の標準化に強く依存する点にあります。メンバーは、ルールよりも言葉に従います。

組織内で共有されている信念や信奉するイデオロギーがもつ力が強いので、最高位者はいても、その一存で組織が機能するわけではありません。といって、分業やシステム、組織の階層や構造、ポジションや果たすべき役割、手続きやルールといったものもないため、プログラム型のように機能するわけでもありません。メンバーひとりひとりが尊重されるので、最も分権的と言えますが、プロフェッショナル型のような専門性や熟達はあまり見られず、何らかのプロジェクトを進めているわけでもありません。

この形態では、組織として保有する資産、意思決定、活動などを、メンバーひとりひとりが同じウエイトで担うことになります。従って、一人のマネージャーが全てを決定するのではなく、共有財産制や輪番制といった手法が一般には採られます。メンバーとして新たに加入するには、候補者の慎重な選択、長期的な学習と実践行動を通じた教化、候補者の強い参加意識などが不可欠です。

規模が小さいほど、コミュニティが効果的に機能しやすいので、ひとつの組織が一方的に大きくなるというよりも、ある程度の規模のグループが分裂して拡大していきます。「事業部型」のように本社や中央の管理セクターから独立するのではなく、既存の組織をコピーし分裂して組織体の数が増えるのです。ひとつひとつの組織体には、適正な規模があるように思われます。

「コミュニティシップ型」は大別して、改革型・改宗型・隠遁型の3種類があります。改革型は、ある目標の実現に向けて直接世界を変えようとするもので、気候変動や環境保護などを目指す団体などに見られます。改宗型は、メンバーの意識や行動を変えようとするもので、アルコールや薬物への依存を断ち切ろうとする団体などです。隠遁型は、自分たちを世界から切り離そうとするもので、最も閉鎖性が強いでしょう。

ここでは対立は規範のありかたを巡って進むので、先鋭化し、どちらがより純化しているかを問いがちです。言葉の解釈ということになると、対立の優劣を決める尺度が原理的にありません。組織の内部で何らかの対立が生じると、部分的には「対立の浸食」で見たような政治的なゲームも行われますが、「文化の注入」が極限にまで進むことは避けられず、組織の分解や消滅に至ることもしばしば起こります。集団の分裂や離合集散が起こりやすいのも特徴でしょう。

 

「政治アリーナ型」というのは、組織内部での対立が激しく収拾がつかない状況で見られる組織形態です。組織の至るところで政治的なゲームが行われ、正式な権限は取り除かれたり、一時的に機能しなくなったりしている状態です。従って、この形態には構造がありません。調整のメカニズムも働きません。だから対立が収拾のつかないレベルにまで達しているのです。形態というよりも、移行過程と見る方が正しいのかもしれません。

この形態は、既存の権力秩序が既に役立たないにも関わらず、未だに存在している場合に、その体制を取り除く可能性が出てきます。また、機能不全に陥っている組織(例えば社内外の関係者の圧力に晒されて当事者能力を失っている規制業種の業績不振企業)をより早く崩壊させることができるかもしれません。そういう点に存在意義があるというならば、組織崩壊を促す組織形態(過程)ということになります。

 

(5)に続く

 

文章作成:QMS代表 井田修(2024106日更新)