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ミンツバーグの組織論(5)

ミンツバーグの組織論(5

 

(5)組織のライフサイクル・モデルと死

 

一度生まれた組織は、ひとつの方向に成長・拡大していくとは限りません。著者によれば、全ての組織が同じように辿るわけではないものの、一般に組織構造には次のようなライフサイクル・モデルがあります。

 

誕生

スタートアップとして生まれ、パーソナル型の形態を取ります。

 

青春

創設者が組織に留まる限りは、パーソナル型の性格を部分的であってももち続けるでしょう。

 

成熟

組織は、それを取り巻く環境に適合する自然な組織形態に落ち着きます。このプロセスでは、パーソナル型から他の形態に転換していくのが一般的でしょう。

 

中年

成熟した組織が突然の転換により安定が崩れます。この転換は、内部から生じること(多角化が進み事業部型になるなど)もあれば、影響力を有する外部勢力によって押し付けられること(株式公開により効率が重視されるようになり本社スタッフの力が強いプログラム型組織になるなど)もあります。事業環境の変化により突き動かされることもあります。

 

老い

停滞期に入った組織は、他の組織構造に移行することで再生することがあります。一人のリーダーに権限を集中させてプログラム型組織を立て直す一時的な再生もあれば、官僚的な組織にアドホクラシーの要素を取り入れて恒久的な転換を図ることもあるでしょう。

特に多いのは、大規模で停滞しているプログラム型組織を、アジャイルでイノベーティブな組織に刷新しようとするものです。そのためには、職務範囲の拡張・従業員へのエンパワーメント・スキルの増強の3ステップを経て、従業員の熟達度を向上させてプロフェッショナル型に転換していくことになるか、または、最高位者を代えて一時的にパーソナル型に転換し、新たな経営者のリーダーシップに組織の立て直しを委ねることになります。

こうした場合、実務レベル(現場の改善など)・戦略レベル(新たなパースペクティブの導入、製品ラインの刷新、ポジションの変更など)・文化レベル(本来もっていた価値観や目的の再発見など)において、変革を実行することになります。

 

資金が尽きるといった事由により組織は自然死を迎えます。現在の日本では、後継者不在のまま経営者の死が生じると組織も同様になる例も少なくないようです。

規模が大きい組織ほど、政治的アリーナの形態を経なければ崩壊しないこともよく見られます。政治や規制当局などの力で生命維持装置をつけたとしても、結局のところ、死を多少先延ばしにするだけです。

 

 本質的に死を免れるには、遅くとも老いの段階までに組織の構造や形態を大きく転換して再生のプロセスを経験するほかありません。なかには、老いの段階に至る前に、一方向に暴走したり、複数の力の間で矛盾が生じたまま調整・克服・解消などが行われずに、組織が機能しなくなったり分裂したりすることもあります。

そもそも現実の組織は、基本的な4形態や発展したものを含めた7形態に止まりません。いわばハイブリッド型の組織となるのが通例です。ちなみに、ハイブリッド型組織には2種類あります。ひとつはブレンド型、もうひとつは寄せ集め型です。

ブレンド型のハイブリッド組織というのは、「組織全体で複数の組織形態の性格が混ざりあっている」ものです。よく見られるのは、個人のリーダーシップ次第のパーソナル型と他の強力な要素が融合したものでしょう。

スティーブ・ジョブズに率いられていたころのアップルは、極めて強い意志をもった個人的なリーダーシップと多くのプロジェクトの要素がブレンドされていました。また、原子力発電所や警察機構など、安全を守るために高度な信頼性が求められる組織では、専門職がしっかりとした訓練に基づいた専門性を発揮することと、機械のように厳格なルールを徹底させることがブレンドされる必要がありますから、プロフェッショナル型とプログラム型がブレンドされた組織となります。

寄せ集め型のハイブリッド組織というのは、「組織内のさまざまな部門や部署が異なる組織形態を採用している」ものをいいます。

例えば、大手銀行では個人顧客向けのリテール部門ではプログラム型組織を、投資銀行部門では個々の顧客のニーズに応じてプロジェクト型組織を、それぞれ運営していることが多いでしょう。製薬会社では、研究部門はプロジェクト型、開発部門はプロフェッショナル型、製造部門は高度に自動化されていない限りプログラム型であることが一般的です。

こうしたハイブリッド型組織では、組織間に生じる汚染と裂け目という二つの問題に直面しがちです。

汚染というのは、別の組織形態をとる社内の別の組織から、ある組織が同調を強いられる現象です。一般の製造業でよくあるプログラム型組織において、プロジェクト型で運営されるべき研究所や新規事業開発部門などが、ルール・手続き・予算などに縛られて機能しなくなるのは、実によくあることです。

裂け目というのは、異なる形態の組織の間で十分な協力が起こらず、相互の調整が進まないほどに部門間・部署間の競争や対立が生じてしまう現象です。これもよく見られるもので、プログラム型組織ではオペレーターの組織の間(営業と製造など)でもあれば、アナリスト(本社の企画部門や生産管理部門など)とオペレーター、サポートスタッフ(人事や経理など)と他部門などで典型的に生じやすいものです。

また、パーソナル型から発展したプログラム型組織では、経営層と他の階層や部門も対立することがあります。プログラム型組織とプロジェクト型組織では、効率や目標といったものへの価値観が違い過ぎて、互いに相容れない関係に陥ってしまうこともあります。

本来、ハイブリッド型の組織では、この汚染と裂け目の二つの方向に組織が暴走しないようにする錨が必要です。そして、組織全体として汚染と裂け目をどのようにコントロールできるかで、その組織がどの程度、有効に機能しているかが決まります。

組織のライフサイクル・モデルに照らせば、汚染と裂け目のような組織が抱える矛盾が暴走してしまうと、老いを迎える前に組織に死が訪れても不思議はありません。

 

 (6)に続く

 

文章作成:QMS代表 井田修(20241015日更新)