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結果を出す方程式(3)

結果を出す方程式(3

 

仕事で結果を出すのに必要な「能力・知識」とは、業務に直結するスキルや知識、経験した事象およびそこから得られた知見、その人のもつコンピテンシーやメタ能力(新たな能力を身につける力とかこれまでのやりかたを棄却する能力など)などをいいます。

「能力・知識」には、公的な資格の取得や認証などで特定の能力や知識があることを第三者が担保するものもあります。また、専門書やトレーニングから移転されるものもあります。但し、これらが実際に仕事で結果を出すことにつながることを保証するものではありません。特定の仕事を担当するに足る知識や能力があるとは言えても、現実の仕事はそれぞれの組織や顧客の有様も違えば、使用する機器やシステムが異なりもしますから、即座に仕事ができるとは言えないのです。

更に、取得した学位や学歴、これまで経験してきた職務履歴などから、当然身につけているはずの能力や知識もあれば、これから取り組む仕事に必要であっても、まだ身についていない能力や知識もあるでしょう。経験者採用で同業他社から同じ職種で転職してきても、いきなり仕事で結果を出すには至らないことがあるのは、同じ職種であっても組織によって仕事の進め方や求められる成果が違うからです。そして、それらを学習して自分のやりかたと調整していくのに、時間がかかるのです。

ここでは「能力・知識」という要素について、その階層性・身につける方法・新たな知見の開発という3つの観点から考えてみましょう。

 

まず初めに「能力・知識」には階層性があることを自覚しておきましょう。読み書き算盤ではありませんが、基礎的な言語能力・計算能力・推論能力などが必要なのは、仕事に限らず、現実の生活を送っていくのにも不可欠です。

「能力・知識」に階層性があるからこそ、基礎的な知識や能力が大事なのです。基礎がないと建物と同じで、いかに最先端で深い知識や能力を身につけることができたとしても、基礎がしっかりしていない「能力・知識」は、事業環境がちょっと変わっただけで、一瞬で使い物にならなくなるか、応用が利かずにまた一から学習しなければならなくでしょう。

例えば、営業支援システムで営業日報を書くという作業を行うには、ワードやエクセルで定められた書式に書くのであれば、ワードやエクセルの日常的な使い方は必須です。といっても、ワードやエクセルの全ての機能を知悉することは不要で、日報に記載する際に使う機能がわかればよいのです。実際は機能を知るというよりも使い方を学習する程度の「能力・知識」が求められるに過ぎません。ワードやエクセルのコード体系や動作環境の詳細な条件などは、知っていてもかまいませんが、何ひとつ知らなくても「営業支援システムで営業日報を書く」という作業は完遂できます。

このように、あるシステムやアプリケーションを使うことと、そのシステムやアプリケーションを開発することとは別次元の「能力・知識」が必要となります。システムやアプリケーションを開発するのに必要な能力や知識は、営業担当が営業支援システムで営業日報を書くという作業には必要ないのは自明です。ましてや、システムやアプリケーションを開発するよりも更に深い能力や知識(ITに関する理論、そのベースとなる論理学や数学など)は全く要りません。

ちなみに、営業支援システムがクラウドサービスとして新たに導入されると、その使い方を学習しなければなりません。使い方ですから、移転可能な「能力・知識」ですし、極めて表層的なものです。システムやアプリケーションの使い方は、独自にまたは他者が教えることで学習することができますが、こういう時に抵抗を示すのが人間の性ともいえます。「能力・知識」の有無が問題なのではなく、新たな「能力・知識」を習得しようとする学習への抵抗感が強いことが問題なのです。

こうした抵抗感をできるだけ下げて、できれば学習が楽しく感じられたり学習することが称賛されたりするには、単に学習支援システムがあればよいわけではありません。学ぶ際にアドバイスやサポートを行う上司や専門部署が適切に機能しており、そのアドバイスやサポートが学習効率や学ぶ機会を保証するのに効果的であることが求められます。状況によっては、AIが行う方が部下(人間)は受け入れやすいこともあるでしょう。誰がどのようにアドバイスやサポートを行うのかによって、学習すべき内容(コンテンツ)の受け入れ方は異なることに注意すべきです。このような学習を取り巻く環境やカルチャーについては、次回、改めて取り上げます。

 

次にポイントとなるのは、「能力・知識」を身につけるのに効果的効率的な自分なりの方法を知ることです。文章を読んだり書いたりすることで身につけることができるのか、実技で身につけることができるのか、数式や図像で理解するのが早いのか、人によって知識や能力を身につけるのに適したやり方は異なります。自分なりに効果の上がる方法(注1)を知って、できるだけそのやりかたを実践することになります。

但し、映像を一回見てできる気になるのは最も危うい錯覚です。説明書やマニュアルを一読してできる気になるのも同様です。「できるつもり」と「実際にできた」というのは、大きなギャップがあるのです。そのギャップを埋めるには、仕事を通じて仮にやってみたり実験的にチャレンジしてみて、小さな失敗を繰り返すことが必須です。

「能力・知識」を身につけるのに、教科書やマニュアルのようなものまたは講師やトレーナーのような教える人、映像教材やレクチャーのアーカイブなど、対象となる「能力・知識」を効率的に伝達してもらおうとして最適な方法にばかり注力するのは、結果として身につかないことが多いかもしれません。むしろ、実践から学ぶとか、仕事をしながら未知の分野やテーマの情報を吸収することが重要なのです。

また、自分の失敗を振り返って反省し、その経験から学ぶことも大切ではありますが、ケース(事例、実例)を知ること、ケースから学ぶべきポイントを抽出したり機能的に理論を整理したりすることも役に立つことがあります。自分の直接の経験だけでは限りがあり、自分の失敗を冷静に見ることができない虞もあります。他人の失敗や成功から学ぶべき教訓をしっかりと受け止めることも、使い物になる「能力・知識」を身につけるには大事でしょう。

そして、身につけた「能力・知識」が実際に仕事で活用できて結果に結びつけることを決して忘れてはなりません。単なるお勉強をして満足することは何としても避けなければならないのです。

体系的で網羅的に「能力・知識」を学習して身につけても良いのですが、仕事をしながら仕事を通じて「能力・知識」を習得するようでないと、スピード感をもって仕事に取り組んで結果を出すことができません。仕事には適切な時間軸を守ることも結果の一部ですから、「能力・知識」をしっかりと学習して全ての準備が整ってから仕事に取り組むのでは遅すぎます。

先ほども述べたように、実務的にはその仕事に必要な全ての「能力・知識」が求められるわけではありません。理屈ではわかっていながら、必要以上に勉強しようとする人がいるのも事実です。どの職場にも、一種の完璧主義というか、当面必要な知識や情報を超えて勉強したり情報を収集しようとしたりして、仕事がひとつも先に進まず、時間やコストばかりが掛かって何の結果も生み出せないタイプの人は一人や二人はいることでしょう。

こうした事象は本人の不安の表われに過ぎないのかもしれません。失敗を回避しようとする本能的な動きかもしれません。しかし、仕事で結果を出すには、性格的にそうした不安とは無縁だったり、短時間で吸収したことをすぐに実地に用いたりする習慣があったりすることで、その能力や知識を自分のものとしていくスピードが速いことが求められるのです。

例えば、経理の仕事をするのに、会計学から税務知識、ITシステムや経営管理全体まで、全て知悉しているに越したことはありませんが、他部門から未経験の経理に異動してきたばかりであれば、与えられた範囲の仕事を処理することに注力するほうが結果は出やすいでしょう。極論すれば、経理全体の知識は事後的に実務を通して徐々に身につけていけばいいのです。

 

「能力・知識」について最後に言及すべき点は、既にある「能力・知識」を身につけるだけでなく、新しい知見を生み出すことも忘れてはならないということです。料理人にとって新しい食材や調理法に挑戦して、新たなレシピを作り出し、それらが整理されて新しいジャンルとなるように、ビジネスにおいても何らかのチャレンジを仕事の中で行うことは重要なことです。

そのためには、異なる「能力・知識」を組み合わせることから始めてみるべきでしょう。今の職場にはない(欠けている、弱い)ものがあれば、その「能力・知識」を導入するだけでも価値があります。特に異動や転職した場合、新たな職場にはないものをもっている可能性があります。仕事で結果を出すには、教えてもらったことをそのまま実行するだけでなく、自分がもっていてもその職場や仕事では未知の知見やアプローチを用いて、別の形で結果を出してもよいのです。

より効率的に、より大きな結果を、より多様な形で、仕事で結果を出していくには、同じ「能力・知識」を繰り返し活用するだけでは、すぐに限界が来てしまいます。そうならないためには、こうした新たな知見やアプローチを積み重ねて組織的に労働生産性の向上につなげてゆくのです。

手始めに、既に結果を出している仕事について教科書やマニュアルのようなものを作ってみたり、講師やトレーナーとして教えてみたりすることで、これまでの「能力・知識」を棚卸した上で、次に身につけたいものを明らかにすることも重要です。

また、自分の失敗を振り返って反省し、その経験から学ぶことも大切で。自分の直接の経験だけでは限りがあり、冷静に見ることができない虞もありますから、他人の失敗や成功から学ぶべき教訓をしっかりと受け止めることも、「能力・知識」を自ら開発して身につけるのに必要です。

 

以上、「能力・知識」という要素については、その階層性・身につける方法・新たな知見の開発という3つの観点から説明しました。

 

(4)に続く

 

【注1

自分に合った「能力・知識」を身につける方法を知るには、例えば、次のような分析手法があります。

VARKの紹介 - VARK

VARKアンケート - VARK

これだけで自分に合った「能力・知識」を身につける方法が完全にわかるわけではありませんが、自分の学習特性の一部は把握できるのではないでしょうか。何も知らずに既成の教材や学習手段を使おうとするよりは、自分に合った教材や手段を見つけ出して活用するほうが結果を出しやすいはずです。

 

作成・編集:人事戦略チーム(2024122日更新)